弁護士の生き方 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 このブログを読まれている方の中には、弁護士を目指している人や若手の弁護士の人もいるかと思います。今日はそんな人のために。


 弁護士の人数が「激増」しており、新人の就職難が深刻化していると言われています。資格を取ればあとは何とかなるという時代ではなくなりました。そこで若手弁護士は何かと言うと「専門性を身に付けないと」と言います。


 でもそうでしょうか。たとえば私は知的財産法を専門にしていますが、知的財産権の侵害訴訟は毎年全国で600件から800件程度です。特許権侵害訴訟に限れば、わずか150件。知財訴訟は増加しているどころか、減少傾向にあると言われています。もちろん弁護士の業務は訴訟対応だけではありませんが、大勢の専門家が本当に必要なのでしょうか。


 多くの弁護士にとっては、「専門性」より「地域密着」が重要ではないかと思います。


 私は個人的には日本の弁護士(現在、2万数千人)が多すぎるとは思っていません。アメリカでは、人口1000人くらいの小さな町に弁護士が3人くらいいます。日本では人口1万人の町では弁護士が一人もいません。10万人の町にも一人いるかいないかでしょう。




  弁護士会は弁護士過疎問題はかなり改善されたと言っているようですが、裁判所の支部の管轄単位で見てゼロワン地域が少なくなったという話で、見ている単位が広すぎるように思います。田舎を旅してみれば、司法書士事務所はかなり小さな町にもあるのに法律事務所は裁判所の門前にしかないことがわかります。国民に必要なリーガルサービスが行きわたっているとは思えません。


 最近、福岡県弁護士会編「弁護士を生きる〈Part1〉新人弁護士へのメッセージ 」という本を読みました。地方、それも福岡市内ではなく本当の地方で活躍する弁護士、あるいは人権派と呼ばれるような弁護士を中心に、19名の講演録を収録しています。この本を読んで、何か感銘を受けるところがあれば、あなたの進むべき道が見えてくるかもしれません。なお、この本を読むと普通の弁護士の業務の大半が刑事事件だと誤解されかねませんが(個人差がありますが、一般的には刑事事件は業務の5%以下ではないでしょうか)、その点は注意してください。


 もう一冊、久保利英明+大宮法科大学院編「ビジネス弁護士ロースクール講義~法律が変わる、社会が変わる 」という本があります。こちらは、私のようなビジネスロイヤーの話を中心にしたものです。


 両方読んでみて、どちらが肌に合うか考えてみてください。「人権派」を胡散臭いように言う人もいますが、私はそういう偏見はありません。単純に、立派な仕事をされていると思います。とにかく、いろいろな人の話を読んだり聞いたりということが重要です。


 それから、東京でビジネスロイヤーの修行をして地方に行くという選択肢も有力です。ある人は東京で渉外弁護士を10年以上したあと、家庭の事情で広島県の地方都市で開業することになりましたが、まったくないと思っていた英文契約の案件がたくさんあるそうです。名古屋のような大都会ですら英文契約書を書ける弁護士は2人くらいしかいないらしいです。


 いくら弁護士の人数が増えても、弁護士として開業することのリスクは一般の人が独立・起業するリスクとは比較になりません。


 私自身は東京の都心で、それも知的財産のような専門分野に特化しており、今さら違うこともできません。私の専門外のことで困っている人を救うこともできません。ですが、この国の人々が幸せに、豊かに暮らせるには制度はどうあるべきか、ということは自分なりに考えていきたいと思います。