プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

「方法Xによって製造される物質A」のように、生産方法(プロセス)によって特定される物(プロダクト)の発明のクレームをプロダクト・バイ・プロセス・クレームという。




「方法Xによって製造される物質A」の侵害となるために、①方法Xによって製造されたものであることを要するという考え方(製法限定説)と、②方法Xによって製造される物質Aと物として同一の物質であれば足り、方法Xによって製造されたものであることを要しないという考え方(物質同一説)とがある。




 このほか、「方法Xによって製造される物質A」について発明の新規性が失われるために、①方法Xによって製造された物質Aが公知であることを要するのか、②製造方法の如何を問わず、方法Xによって製造される物質Aと物として同一の物質が公知であれば新規性が失われるのか、という問題が考えられるが、こちらの方は②が定説であると言ってよいかと思う。




 そこで侵害成否の方に話を戻すと、東京高裁平成9717日判決・知的裁集293565頁・判例時報1628101頁【ヒト白血球インタフェロン事件】は、典型的なプロダクト・バイ・プロセス・クレームの事案ではないが、「ヒト白血球」を産生細胞とするインタフェロン(を含有する医薬組成物)という、広い意味ではプロダクト・バイ・プロセス・クレームとも言える発明に関する事案で、




「一般に、特許請求の範囲が生産方法によって特定された物であっても、対象とされる物が特許を受けられるものである場合には、特許の対象は飽くまで生産方法によって特定された物であると解することが発明の保護の観点から適切であり、本件において、特定の生産方法によって生産された物に限定して解釈すべき事情もうかがわれないから、本件特許請求の範囲にいう『ヒト白血球インタフェロン』は、産生細胞たる『ヒト白血球』から得られたものに限らず、他の細胞から得られたものであっても、物として同一である限り、その技術的範囲に含むものというべきである。」




と判示している(ただし、物質の特性に関する構成要件を満たさないとして、結局は非侵害とした)。




 私自身の考えに最も近いのは、東京地裁平成10911日判決・知的裁集303541頁【ポリエチレン延伸フィラメント事件】であり、




「被告製品が構成要件(一)を充足すると認められるためには、被告製品が、構成要件(一)の製法によって特定される物と、物としての同一性が認められる必要があり、そのためには、①被告製品が構成要件(一)の製法によって現に製造されている事実が認められるか、又は、②構成要件(一)の製法によって特定される物の構造若しくは特性が明らかにされた上で、被告製品が右と同一の構造若しくは特性を有することが認められる必要がある。」




と判示し、原告特許権者は上記①、②のいずれについても主張、立証を行っていないとして請求を棄却した。




 最高裁平成101110日判決・平成10年(オ)第1579号は、特許請求の範囲を「・・・により得られる衿腰に切替えのある衿」とする発明につき、




物の発明における特許請求の範囲に当該物の形状を特定するための作図法が記載されている場合には、右作図法により得られる形状と同一の形状を具備することが特許発明の技術的範囲に属するための要件となるのであり、右作図法に基づいて製造されていることが要件となるものではない。」




と判示している。ただし、「これを本件についてみると、被上告人の製造販売する製品が右作図法により得られる形状と同一の形状を有することにつき主張立証がないから、被上告人が右製品を製造販売する行為が上告人の本件特許権を侵害しないとする原審の判断は、結論において是認することができる。」としているので、判旨は傍論である。公式判例集に掲載された判例でもないし、最高裁判決とは言っても先例としての価値がどれだけあるのか難しいところである。




 以上は、物質同一説の流れにある裁判例であるが、製法限定説に立つ代表的な裁判例としてよく引用されるのが、東京地裁平成14128日判決・判例時報1784133頁【紐止め装置事件】である。


 問題となったのは、構成要件F「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」止め具という部分で、判決は




特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すべきであるから,その解釈に当たって,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載を意味のないものとして解釈することはできない。確かに,物の発明において,物の構造及び性質によって,発明の目的となる物を特定することができないため,物の製造方法を付加することによって特定する場合もあり得る。そして,このように,特許請求の範囲に,発明の目的を特定する付加要素として,製造方法が記載されたというような特段の事情が存在する場合には,当該発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定することが,必ずしも相当でない場合もあり得よう。本件についてこれをみると,〔1〕本件発明の目的物である止め具は,その製造方法を記載することによらなくとも物として特定することができ,構成要件Fは,本件発明の目的物を特定するために付加されたものとはいえないこと,〔2〕本件特許出願に対して,平成12年8月4日付けで,拒絶理由通知が発せられ,原告は,これを受けて,平成12年8月28日,特許庁に対して手続補正書を提出し,同補正により,構成要件Fを追加したこと(乙25,26,弁論の全趣旨)等の経緯に照らすならば,構成要件Fは,本件発明の技術的範囲につき,正に限定を加えるために記載されたものであることは明らかである。したがって,本件発明の技術的範囲は,構成要件Fに記載された方法によって製造された物に限定されるというべきである。」




と判示している。




 私は、いつも授業でホワイトボードにこの発明の図とイ号製品の図を書いて学生に説明しているのだが、この発明が本当にプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関するものか大いに疑問である。私は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム「もどき」の事案であると思う。特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すべきであるから,その解釈に当たって,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載を意味のないものとして解釈することはできない。」との判示部分を、あまり一般化して理解すると読み誤る。




 東京地裁平成22331日判決・平成19年(ワ)35324号は、大まかに言うと「・・・という方法によって製造される、成分が・・・であるプラバスタチンナトリウム」というクレームについて、




「物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」




として、「原則製法限定説」とでも言うべき考え方を打ち出し、本件には上記のような「特段の事情」はないとして、請求を棄却している。


 ただ、本件は「プラバスタチンナトリウム」という化学物質自体は公知であったという事案のようであり、そうであるならば、特許として成立したのがそもそも誤りだったという事案である。本件の事案の解決としてはこれでよいように思われるが、特段の事情がなければ製法限定して解釈するという判示が過度の一般化になっていないか、検討が必要であろう。