ウィーン売買条約の解説(5) | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 ウィーン売買条約の規律する範囲は、意外に狭い。条約が対象とするのは、①契約の成立(契約締結プロセスの問題)と、②売主・買主の権利義務のみである(4条)。


 つまり、契約自体や、特定の条項の有効性(4a号)、あるいは所有権(の帰属や移転)に対して契約が有する効果(4b号)は、対象から除外されている。


 有効性の問題や所有権の帰属の問題は「一般原則」(7条2項)ではおそらく解決できないであろうから、いずれかの国の国内法で解決するしかない。


 したがって、契約の準拠法条項で(1)「この契約はウィーン売買条約に従って解釈する。」と書いただけでは不十分なのである。(2)「この契約はウィーン売買条約に従って解釈する。条約に規定のない事項については日本法による。」のように書かないと意味がない。そうであるならば、初めから(3)「この契約は日本法を準拠法とし、日本法に従って解釈する。ウィーン売買条約の適用は排除される。」のように書きたくなる。


 もっとも、(3)では相手方を説得できないが(2)なら説得できるという場合もあろう。私も、日本民法の内容が条約の内容より優れていると思っているわけではない(原始的不能と後発的不能を区別するなど日本民法は現実離れしているところがあり、条約のシンプルな体系はそれなりに評価に値する)。いざとなったら「ウィーン売買条約で妥協する」のも手かと思う。


 また(4)「この契約は中華人民共和国法を準拠法とし、中華人民共和国法に従って解釈する。ウィーン売買条約の適用は排除される。」と(5)「この契約はウィーン売買条約に従って解釈する。条約に規定のない事項については中華人民共和国法による。」とを比べれば(5)がよいことは明らかである。


 準拠法条項は、要するに契約当事者の「力関係」で決まるのであるが、結構もめるポイントである。

 

なお、人身損害についての売主の責任も適用除外とされている(5条)。