分割出願の謎(2) | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎



特許出願人は、補正が可能な場合等、一定の場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願(原出願)の一部を一または二以上の新たな特許出願(分割出願)とすることができる(特許法441項)。


 出願の分割が適法になされた場合、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされる(特許法442項)。つまり分割出願の効果は原出願の出願時に遡及する。したがって、分割出願に係る発明は、原出願の当初明細書・図面に開示された発明でなければならないと解されている。ただし原出願の特許請求の範囲に記載された発明である必要はなく、明細書または図面に開示されていればよい(最高裁昭和56313日判決・判例時報100141頁)。

 



 原出願の明細書・図面が二以上の発明を包含するという要件は当然満たされる場合が多いから、分割出願の要件は、概ね以下のとおりである。


 ①分割出願に係る発明が分割直前の明細書・図面に記載されていること。

 ②分割出願に係る発明と、原出願に係る発明とが同一でないこと。

 ③分割出願に係る発明が、原出願の当初明細書・図面に記載されていること。




 ①は、補正によって原出願の明細書から技術的事項が削除された場合に問題となる。これに対して、③は補正によって原出願の明細書に技術的事項が追加された場合に問題となる。すなわち、要件①と③は適用場面が異なる。


 ③の要件における原出願の当初明細書・図面とは、文字どおりの意味であって、補正された原出願の明細書・図面ではない(東京高裁平成元年228日判決・無体裁集21164頁、上告棄却・最高裁平成21120日判決・平成元年(行ツ)85)。原出願の補正が適法か否かは関係がない。


 このことは当然と思うのだが、私の代理している訴訟で相手方がこれを争っている。4月14日に知財高裁の判決が出る予定なので白黒はっきりつけてもらいたいと思っている。



 学生に教えるため事例を考えてみた。



事例1

【請求項1】断面が正六角形の鉛筆。

【請求項2】一端に消しゴムを備えた第1項の鉛筆。


請求項2の発明を分割。




(解説)これは問題なし。



事例2

【請求項1】断面が正六角形の鉛筆。


「断面が正六角形であり、一端に消しゴムを備えた鉛筆」を分割。


 (解説)明細書・図面に「断面が正六角形であり、一端に消しゴムを備えた鉛筆」が開示されているかによる。




事例3

【請求項1】断面が正六角形の鉛筆。

明細書・図面に「断面が正六角形であり、一端に消しゴムを備えた鉛筆」を開示。


「一端に消しゴムを備えた鉛筆」を分割。


(解説)いわゆる「上位概念取り出し型」の分割である。「断面が正六角形である」ことと「一端に消しゴムを備えた」こととが技術的に一体不可分の関係にあるかによる。この場合は一体不可分ではないので、分割は可能と思われる。




事例4

【請求項1】断面が正六角形であり、一端に消しゴムを備えた鉛筆。


「断面が正六角形の鉛筆」を分割。


(解説)これも「上位概念取り出し型」。事例3と考え方は同じだが、より分割は難しいと思われる。




 上位概念取り出し型の分割については、東京高裁平成6531日判決・平成3年(行ケ)第135号事件、知財高裁平成19530日判決・判例時報1986124頁などが参考になる。