システム開発はなぜ失敗するか | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 (事例はフィクションです。)

 ある急成長した会社で、業務をシステム化することになった。今までは紙の伝票とエクセルファイルが混在していた。システム化の経験は会社として初めてで、社内にITに詳しい人間がいない。そこで社長は知り合いのつてを頼ってITに詳しそうな人材を管理職待遇で入社させた。

 ところが1年後、支払い済み金額は当初見積を軽くオーバーしているのに、いまだに業務システムは完成していない。それどころかベンダーから追加支払を求められ、「払ってくれないと完成させませんよ」などと言われる始末。どうしてこんなことになってしまったのか・・・。


 こういうのはよくある話である。まず、社長が「ITと経営は別物」と思っているのが駄目。当然のことながら、ITに詳しい人間ではなく、会社の業務に詳しい人間を担当者にしなければいけなかった。IT化のために外部から急に人を招聘してうまくいくはずがない。

 一人の担当者に任せきりにしているのもよくない。追加支払が生じるのは、ベンダーから見れば仕様変更が重なるからで、そうなる前に、業務フローやユーザーから見える仕様(画面構成やインターフェイス)について、ユーザー社内で意思統一ができるような仕組みを作っておかないといけない。それは社長の仕事だ。上記の事案では、せめてチーム体制にして、経営会議に定期的に報告させるなどの措置を取るべきだった。

 それと、社長がシステム化の見積の意味をわかっていない。要件定義も終わっていない段階で、正確な見積を出せるわけはない。各工程に入る前に、それぞれの段階で見積を取りなおすべきであり、当初の見積はあくまで参考値ということを知るべきだ。見積の根拠の「人月」計算も、実は確たる根拠などない。もし予算の総額が決まっているなら、「この範囲でやってくれ」という契約書をきちんと作って、それを通すべきだ(それをベンダーが受けてくれるかは交渉次第)。


 ユーザーも知恵をつけておく必要がある。ITはよくわからないからシステム部門(担当者)に任せきりなどと言うなら、紙と鉛筆で業務をやった方がましだろう。まったく初めてなら、いきなり基幹業務システムを発注する前に、まずは部分的なシステムを作らせてユーザーとしての経験を積むことを考えた方がよい。経営者は、せめて「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由 」の第4章(発注企業はこのパターンにはまって「ゴミシステム」をつかむ)だけでも読んでからシステム化を考えてほしい。

 どうしようもない状態になってから弁護士のところに相談に行っても遅い(ソフトウェア開発に限ったことではないが)。そういった意味でも、日頃から外部の専門家の助言を受けられるような体制が望ましい。