不正競争防止法における「類似」と「混同のおそれ」 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 先週は、商標協会の不正競業部会において年に一度の発表をした。少ないときには、3人くらいのときもあったが、今回は18人も来てくれて盛況であった。やはりテーマの選択が重要である。





 取り上げた判例は、サントリーの「黒烏龍茶」に関する東京地裁平成201226日判決・平成19年(ワ)第11899号である。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=37167&hanreiKbn=06





 最初の被告製品について原告が警告状を送ったところ、被告らは当初のパッケージ(被告表示A)は中止したが、少し変えた別のパッケージ(被告表示B)に変更した。



 問題は、被告表示Aはどう見ても原告のパッケージ(原告商品等表示)に似ているのだが、被告表示Bは、中立的な目で見ると、法的には「似ていない」と言わざるを得ないのである。よくあるパターンだが、権利者側としてはくやしいものである。





 原告側も、そのことには気づいていたようだ。そこでどうしたかと言うと、「原告商品等表示は、単なる周知ではなく、著名だ。不正競争防止法2条1項2号の「類似」は、1号の「類似」より緩く解されるから、この程度でも類似しているのだ」と主張する作戦に出た。



 しかし、「サントリー」が著名であることは誰しも認めるだろうが、個別商品のパッケージが著名という例は聞いたことがない。また、不正競争防止法2条1項2号の「類似」が、1号の「類似」より緩く解されるという説も聞いたことがない。



 

ところで1号の「類似」についての考え方は、大きく2つある(竹田稔「知的財産権侵害要論 不正競業編」(第3版)8082頁)。





第1説は、「表示の類否は出所混同のおそれを、判断の中核に据えるべきであって、表示そのものの形式的対比でなすべきものではない」とする見解(小野昌延「不正競争防止法概説」(有斐閣、1994年)123頁)に代表される立場である。「不正競争防止法においては、要するに混同行為の防止が究極の目的とされているのであるから、同法の解釈上、表示の類似という要件に対して、あまり実質的な意味を持たせることは適当でないと考える…。むしろ、混同のおそれが認められるときは、表示も類似すると解して差し支えないとさえ言えるのではなかろうか」とする見解(渋谷達紀 判例時報1108190頁以下・191頁(判例評論30344頁以下・45頁))も存在する。





第2説は、「類似」と「混同のおそれ」とを明確に区別する立場であり、これが判例の立場であるとされている(最高裁昭和58107日判決【日本ウーマンパワー事件】)。





212号の「類似」について、上記第1説の立場からは、1号の「類似」とは自ずと意味が異なることになる(例えば田村善之「不正競争法概説」[第2版](有斐閣、2003年)246頁は、「212号の規律は、211号とは異なり、混同のおそれとは無関係である。ここにおける類似の表示とは、著名表示と著名標章主との11対応を崩し、希釈化等を引き起こすほど似ているような表示であると解される」としている)。





これに対して、上記第2説の立場からは、1号と2号とで「類似」の意義は同じということになるのではないかと思われる。それが条文の文言にも素直な解釈であろう。





黒烏龍茶事件において、原告は、212号の「類似」は1号の「類似」より緩やかに解されると主張したが、判決は次のように述べてこれを退けている(ただし、原告商品等表示の著名性を認めなかったので、この部分の判示は傍論である)。



「不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。

この点,原告は,同項2号の類似性判断においては,同項1号の場合よりも,広く類似性が認められる旨主張するが,上記のとおり,両者の類否判断は,その趣旨に対応した基準で行われるにすぎず,同項2号の場合において,常に広く類似性が肯定されるわけではないから,原告の上記主張を採用することはできない。」





 なお、これを読むとわかるが、上記判示の前半は田村先生の教科書の丸写しである。こういうのは、ちょっといかがなものか。





 いずれにしても、上記判決は、1号と2号の「類似」は意味が違うという前提で書かれている。

 全体的に、論理的整合性が今ひとつという感じの判決だが、注意した方がよいかもしれない。