「舟を編む」という映画(小説)があったが、言葉を厳密に定義することはとても、とても難しい。
昨日の商標協会で「キャラクターの法的保護」に関する上野達弘先生の講演があり、大変勉強になったのだが、キャラクターとは何かがそもそも難しいということが改めて分かった。
以前に「ひこにゃん v ひこねのよいにゃんこ」という記事を書いたが、最近の新聞報道では、ようやく和解したようである。
http://ameblo.jp/kimuralaw/entry-10805326923.html
この事案は「キャラクター」とは何かを考えるのに最適の教材である。デザイナーと彦根市との契約の表現がどのようなものであったのか分からないが、おそらく別紙でイラストを特定して「本件著作物」を定義し、「本件著作物に対する著作権は甲(彦根市)に帰属する」というようなものだったのであろう。
ごく普通のようだが、その結果が、「譲渡したのは3つのポーズのイラストの著作権だけ」というデザイナー側の主張(契約時からそう考えていたのかは不明)を裁判所が認めることになってしまった。
当事者の合理的意思解釈としては、かなりおかしいと思うのだが・・。
平成9年の最高裁判決によって、キャラクター自体は著作物ではないということになった。
そこでいうキャラクターは、最初のイラストの二次的著作物の集合体のようなものだと思う。
上野先生によれば、キャラクターは「人物像としてのキャラクター」と「イラストとしてのキャラクター」に分かれる。実際に紛争になるのは多くの場合、イラストとしてのキャラクターであるが、これを定義するのが難しい。
私が大事と思うのは、キャラクターは「イラスト」自体ではないということ。キャラクターは、イラストを見た人の頭の中にあるものだ。
「最初に描かれた人物等のイラストの二次的著作物の集合体であって、ポーズ、表情(事案により服装も)の如何にかかわらず同一の人物等であると認識される範囲内のもの」
とでも言うしかない。ぴったりの定義ではないが、今までの定義に比べると、一般人の有する「キャラクター」の理解に近いと思う。
ところで、キャラクター自体は著作物として保護されないということは、他人のキャラクターを勝手に模倣してよいということでは、もちろんない。誤解している人がいるようなので、念のため言っておきたい。
特定のイラストを複製したと評価されるのか、あるいは何らかの別の法的構成を取るのかもしれないが、他人のキャラクターを勝手に使用して著作権侵害にならないわけがない。
そういう意味では、平成9年の最高裁判例は罪深いように思われる。著作権の存続期間が問題になった事案なのだから、存続期間以外に影響が及ばないような論理構成にしてほしかった。
ここからは余談。
例えば「妖精」と「妖怪」を区別しようとするとき、「人に危害を加えないのが妖精」で、「人に危害を加えるのが妖怪」ということでよいか。両者の共通項も定義に入れる必要があるから「人間に模した想像上の存在のうち人に危害や恐怖心を与えないもの」が妖精で「人間に模した想像上の存在のうち人に危害や恐怖心を与えるもの」が妖怪だとしよう。
大体、合っているような気がする。しかしムーミンは「妖精」だけれど(ムーミンはカバではない。念のため)「人間に模した」形状と言えるか。また上記の「妖怪」の定義では「鬼」や「幽霊」が含まれるのではないか、等々、疑問は尽きない。
知財弁護士は、準備書面を書きながらこういうことをいつも考えている。
言葉を定義するということはとても、とても難しいのである。