ひこにゃん v ひこねのよいにゃんこ | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 子どものために「朝日小学生新聞」を取り始めたのだが、大人が読んでも勉強になる。


 その2月17日の1面記事が標題の話題。これと2009年7月29日の日経新聞記事を合わせて理解すると、以下のようになる。


 滋賀県彦根市のキャラクター「ひこにゃん」は2007年の彦根城築城400年祭のキャラクターとして公募されたもので、大阪市のキャラクター作家が考案したものである。「ゆるキャラ」ブームの火付け役となり、今年のバレンタインにも200個のチョコが届いたとか。(誰が食べるのか?)


 ところがこのキャラクター作家は、「ひこにゃん」は、「ひこねのよいにゃんこ」のうち「座る」「跳ねる」「刀を抜く」の3ポーズについてのみ著作権を譲渡したものと主張し、独自にキャラクタービジネスを展開している。そのため市場には「ひこにゃん」商品と「ひこねのよいにゃんこ」商品とが混在しているのが現状だ。


 2007年に、作家の側から市に対し、3ポーズ以外の絵を使うなとの民事調停が申し立てられ(著作者人格権を主張したらしい)、市が作家側の主張を認め、一旦、調停が成立。


 しかし、その後、3ポーズ以外のキャラクターグッズが、「ひこねのよいにゃんこ」として出回り、今度は市が不正競争防止法違反を主張して製造販売差止の仮処分を申し立てた(2010年6月)が、却下(12月)。現在は大阪高裁で係争中とのことである。


 朝日小学生新聞では、イラストの利用について詳細な契約書を作らなかったのが紛争の原因であるとの弁理士のコメントを紹介している。


 付け加えれば、日本法では「キャラクター」自体は著作物ではないということに(判例で)なっている(あくまで、個々のイラストが著作物である)という点が、問題をややこしくしているように思う。3ポーズについてのみ著作権を譲渡したなんて、契約の合理的解釈として、ちょっとおかしいのではないかというのが私の感覚である。しかし、著作物性はイラスト単位で判断するとなれば、作家側の主張にも一理あることになる。