ウィーン売買条約の解説(4) | 知財弁護士の本棚

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ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 ウィーン売買条約(CISG)の解釈に当たっては、「その国際的な性格」「その適用における統一」「国際取引における信義の遵守を促進する必要性」を考慮するとされる(7条1項)。


 これは何を言っているかというと、一つには、本条約で用いられている用語が特定の法体系のもとで特定の意味を持つ用語と同じ表現であっても、各国法における概念として解釈してはならない(文献②23頁)。


 また、ウィーン売買条約(CISG)の解釈に当たっては、CISGを解釈した外国判例も参照しなければならないとされる(文献③71頁、文献①18頁)。ここが、前回力説した条約による「不確実性のコストの増大」に大いに関係する。


 71項が「国際取引における信義の遵守を促進する必要性」について言及しているのは注意を要する。ただし、これを「信義則」と呼んでよいかは問題がある。あくまで規定の解釈のうえでのことであり、日本の民法のように、信義則が一般条項的に適用されるのではない(文献③74頁)。



 条約の解釈は3段構えである。つまり、条約において明示的に解決されない問題(条約が規律しない事項)は「条約の基礎を成す一般原則」により、「一般原則」もないときは国際私法により指定される国内法による(72項)。

 「一般原則」と何か? ある文献(文献①35頁)は、「学説上、私的自治の尊重、方式の自由、当事者信頼の保護、当事者の協力義務、契約維持原則などが挙げられている」とする。別の文献は(文献③78頁)は、次のように説明する。

・表示への信頼の保護の要求(162b号、292項等)

・重要な局面での通知


・応答ないし情報開示の要求

・当事者双方の協力義務および損害軽減義務(60a号、77条等)


 契約維持の原則とは、いったん成立した契約はできる限り存続させる方向で解決策を探るべきであり、当事者の一方による契約解除はできるだけ避ける(解除は最後の手段)とする考え方である(文献②29頁)。ウィーン売買条約の最大の特徴の一つが、解除権の厳しい制限(「重大な契約違反」がないと解除できない。49条1項a号ほか)なのである。


 わが国で馴染みのないユニドロワ原則(国際慣習法のルールを民間団体が条文形式でまとめたもの)が上記「一般原則」にあたるというような議論もあり(文献①35頁)、話はややこしい。


 さらに、当事者は、合意した慣習・当事者間で確立した慣行に拘束される(9条1項)。一定の慣習・慣行は法的拘束力を有するというのであるから、不確実性はますます増大する。

 インコタームズの貿易条件は慣習法と言えるかといった議論もあるが(文献①3435頁、特に35頁の脚注17、文献②32~33頁)、当事者がインコタームズに従う意思があればFOBなりCIFなり明記するはずであるし、明記していなければ従う意思はないとしか言いようがない。FOBなりCIFなり明記していない時に「慣習はFOBだ」とか、そういうことがあるとも思えない。ほとんど机上の空論という感じがする。