応用美術の著作物性 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 知財ぷりずむ11月号には、応用美術の著作物性の問題を書いた。


 応用美術の著作物性の問題というのは、著作権法上の位置づけが難しい。「創作性」の問題でもないし、「表現とアイデアの区別」の問題でもない。「美術の著作物」の範囲の問題なのだが、要するに何を議論しているかというと、結局、著作権法と意匠法の棲み分けを議論しているだけなのである。


 中山教授は「判例は一見すると種々の言葉を用いているように見えるが、要するに純粋美術と同視しうるか否かを問題としているだけであり」と述べている(中山「著作権」144頁)。たしかに多くの裁判例で「純粋美術と同視しうるか否か」を論じているが、その意味するところは、結局、著作権法と意匠法の棲み分けではないだろうか。


 著作権法2条2項は


この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。


と定める。


 この「美術工芸品」を一品製作のものに限定するか否か、また著作権法2条2項の「美術工芸品」を限定列挙と解するか例示と解するかという整理が一応、可能である。仮に、「美術工芸品」を一品製作のものに限定し、かつ限定列挙と解すると、いわゆる応用美術のうち「美術の著作物」に含まれるものはかなり限定的となるが、そういう見解は少数説と思われる。


 応用美術の著作物性が問題とされた事案には、疑問のものがある。例えば東京地裁昭和56年4月20日判決ではTシャツのプリント柄の著作物性が問題となったが、プリント柄は物品としてのTシャツの形状とは無関係であるから、応用美術の著作物性の問題として論じるような事案ではなかった(著作物性は当然認められる)と思われる。ハガキに印刷するためのデザインは著作物で、Tシャツに印刷するためのデザインは著作物でない、などということがあるはずがない。


 また博多人形に関する長崎地裁佐世保支部昭和48年2月7日決定は有名な事案だが、博多人形には鑑賞以外の使用目的はない。ということは、純粋美術に極めて近い、というより純粋美術そのものである。量産品だからといって著作物性は否定されないとしたのは当然である。量産品が駄目なのなら、版画は著作物性がないことになってしまう。


 裁判の被告というのは、かなり無理な主張でも一応、主張してみるということはあるし、当事者が主張したからには、裁判所は判断を示さなければならない。であるから、判決に書かれてあるからと言って、あまり真に受けない方がよい場合もあるのである。


 応用美術の著作物性を否定した事案として、東京高裁平成3年12月17日判決(木目化粧紙事件)は有名である。判決は、専ら実用品の模様として用いられることを目的に製作されたことを理由に著作物性を否定している。しかし、この事案は、天然木の木目を写実的に再現したが故に創作性が認められない点において著作物性を否定すべき事案であると思う。木目化粧紙ではなくて、例えばポップアートのような化粧紙を同じ用途(木製家具に貼る用途)のために製作した場合を考えて見れば明らかであろう。


 応用美術の問題は、もともと議論が錯綜しているところに、本来、応用美術の著作物性とは無関係の問題がしばしば持ち込まれて、さらに混乱に拍車をかけているという感じである。