知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

弁護士 木村耕太郎のブログ

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「あなたは何をされている方ですか(あなたの職業は何ですか)。」

「私は弁護士です。」

 

英語で言うと

What do you do (for a living)?
I am a lawyer.

 

ここで注目点のひとつは、英語だと不定冠詞を入れるということです。

ですが冠詞の使い方というのは、言語によって結構違うのです。英語だと無冠詞というのは少ないのですが、英語以外の言語だと、「職業を言うときは無冠詞」とかいうルールの場合もあります。

 

ドイツ語では

Was sind Sie von Beruf?

Ich bin Rechtsanwalt. / Ich bin Rechtsanwältin.(女性)

弁護士はレヒツアンヴァルト(男性)/レヒツアンヴェルティン(女性)といいます。

 

フランス語では

Qu'est-ce-que vous faites dans la vie?

Je suis avocat. / Je suis avocate. (女性).

弁護士はアヴォカ(男性)/アヴォカット(女性)といいます(女性弁護士もavocatを使うことはある)。

「あなたの職業は何ですか」の直訳は「あなたは人生において何をしていますか」という意味。

 

英語で弁護士はいろいろな言い方があって、lawyer以外にもattorney, counselがよく使われますがadvocateというのもあり、このadvocateと同じ起源と思われる語が、英語以外の言語でよく見られます。

 

例えばインドネシア語で弁護士はpengacara(プンガチャラ)ですが、正式な法律用語としてはadvocat(アドフォカッ)といいます。

「私は弁護士です」をインドネシア語でいうと

Saya pengacara. または Saya advocat.

となります。sayaは「私」。インドネシア語にはbe動詞も冠詞もなく、主語と名詞を直接つなげます。

 

「私は弁護士です」をイタリア語でいうと

Sono avvocato. (ソーノ アッヴォカート)

または

Faccio l'avvocato.  (ファッチョ ラッヴォカート)

fare(する、作る)を使うときは定冠詞、essere(英語のbe動詞に相当)を使うときは無冠詞。

なおavvocatessa(女性弁護士)を使うのは稀で、女性にもavvocatoを使うそうです。

後ろから2番目の音節にアクセントを置くとイタリア語っぽい発音になります。

またイタリア語では省略できる主語(io=私は)を普通、省略します。

 

ちなみにスペイン語で弁護士は男性がabogado(アボガド)、女性がabogada(アボガダ)です。

 

 

 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

 最近ブログの執筆をさぼっていて申し訳ありません。

 

 新年にふさわしい話題というのがないのですが・・・おせち料理は保存食or縁起もの。別に美味しいものではないよなーということに今さら気づいてしまいました。

 

 さて、世の中には白黒はっきりさせない方がよいことというのが色々あります。

 例えば「将棋の棋譜に著作物性があるか」とか、こういうことは議論しない方が関係者はみんな幸せなわけです。実際、訴えてみたら裁判所に「棋譜に著作物性はない」と言われたケースがあります(新聞報道)。

 

 有名なTRIPP TRAPP事件(知財高裁平成27年4月14日判決)では、幼児用椅子のデザインに著作物性が認められたとして話題になりました。

 

 「応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり・・・,表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」

 

 ただし、被告製品と類似しないとして結論は請求棄却。

 

 「また,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。」

 

 だったら著作物性を否定しても同じことでは・・・TRIPP TRAPP事件は、裁判例の流れからは浮いていると言われておりました。

 

 最近、別の被告を訴えたTRIPP TRAPP第2事件(知財高裁令和6年9月25日判決)が現れました。前の事件(第1事件といいます)と比較して、原告製品と被告製品とが、より類似しております。だからなのか、裁判所は第1事件と同じ椅子のデザインについて、シンプルに著作物性を否定しました。

 

 「実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。」

 

 知財の事件(裁判外含めて)というのは、権利行使をしたいが、訴訟まですると、逆に権利がないことが明らかになってしまうというケースが、結構あるように感じています。

 

 こういうのは、知財の問題に限らないように思われます。よくラブコメとかで「今の微妙な関係を壊したくないから敢えて告白しない」みたいな話と似ている・・・いや似ていないか。

 

 

 最近、誘われて合唱をしており、ラテン語やイタリア語の歌詞を読んでいる。少々マニアックな話になるので、ご興味のある方だけどうぞ。

 

 ユリウス・カエサルの「カエサル」はラテン語でCaesarと表記する。

 古典ラテン語、というのは3世紀頃のラテン語ということらしいが、古典ラテン語では「カキクケコ」を「ca ci cu ce co」と表記し、「ガギグゲゴ」を「ga gi gu ge go」と表記する。

 

 これに対して現代イタリア語では「ca ci cu ce co」は「カ チ ク チェ コ」と読み、「ga gi gu ge go」は「ガ ジ グ ジェ ゴ」と読む。「キ」はchi, 「ケ」はche, 「ギ」はghi, 「ゲ」はgheと書く必要がある。

 

 それで最初に戻って、カエサルのことをイタリア語ではチェーザレ(Cesare)という。チェーザレ・ボルジアではなく、単にチェーザレと言えばユリウス・カエサルのことである。

 疑問だったのが、「カエサル」がどう訛れば「チェーザレ」に変化するのかということである。

 

 ヒントとなるのは、教会ラテン語である。これはミサ曲を歌うときのラテン語歌詞の読み方であり、私は今まで、単にラテン語をイタリア語っぽく読んでいるだけなのかと思っていた。(教会ラテン語でも「ca ci cu ce co」は「カ チ ク チェ コ」と読み、「ga gi gu ge go」は「ガ ジ グ ジェ ゴ」と読む。)

 しかし、どうもそうではないらしい。ラテン語の発音は時代により変化しており、3世紀と5世紀でだいぶ違うらしいのである。専門家でないので詳しいことはわからないが、ゲルマン民族の流入が大いに関係しているだろう。

 

 教会ラテン語ではaeを「エ」、oeを「エー」のように読む。たとえばcoeli(天国)はチェーリと読む。ちなみにイタリア語で「天国」はcielo(チェーロ)だ。しかし、古典ラテン語でもイタリア語でも、aeは「アエ」だしoeは「オエ」である。

 そこで仮説だが、Caesarをある時代から「チェーザル」と読むようになり、これがイタリア語のチェーザレの元になったのではないか。

 なお「母音に挟まれた単独のsは濁る(ザジズゼゾになる)」というのは、私の知る限り、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そして教会ラテン語で共通のルールだ。これに対して古典ラテン語では、sは母音に挟まれても濁らない(スペイン語も同じ)。

 

 まとめると、教会ラテン語とイタリア語の発音は大変似ており、たぶん90%以上一致する。しかし、古典ラテン語にもイタリア語にも見られない教会ラテン語独特のルールも少しあるから、決してラテン語をイタリア語読みしたのが教会ラテン語というわけではない。

 virgineは教会ラテン語ではヴィルジーネと読み、これはまさにイタリア語読みだ。古典ラテン語だとウィルギ(ー)ネとなる(厳密にいうと古典ラテン語は長母音と短母音を区別するが、よく知らないので説明は割愛する)。

 hを読まないのも教会ラテン語とイタリア語の共通ルールで、古典ラテン語ではhも読む。

 そこで仮説を述べると、教会ラテン語とは5世紀以降のラテン語が元になったもので、イタリア語の起源の一つであるか、あるいはイタリア語と教会ラテン語は共通の祖先から進化した(ヒトとサルの関係のように)ということではないか。

 

 そんなことを想像しながら歌っている。