今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
これまで、「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズとして、行ってみたいフルトヴェングラーのコンサートを思いつくままにひとしきり書いてきた。
フルトヴェングラーについては聴いてみたい曲を概ね列挙しきれたように思うので、ここでまとめてみたい。
1. ベートーヴェン:交響曲第5番(+第1番、「レオノーレ」序曲第3番)
3. ベートーヴェン:交響曲第3番(+合唱幻想曲、ラファエル:主題、変奏とロンド)
4. ベートーヴェン:交響曲第7番(+シューマン:ピアノ協奏曲)
11. ヴァーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
13. ヴァーグナー:「パルジファル」
14. ブラームス:交響曲第1番(+ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番)
15. ブラームス:交響曲第2番(+シューマン:ピアノ協奏曲、クレツキ:管弦楽のための変奏曲)
16. ブラームス:交響曲第3番(+ドビュッシー:夜想曲、R.シュトラウス:死と変容、ヴァーグナー:「マイスタージンガー」第1幕前奏曲)
17. ブラームス:交響曲第4番(+ベルリオーズ:「ベンヴェヌート・チェッリーニ」序曲、マルクス:2つのヴァイオリンのための協奏曲)
18. ブルックナー:交響曲第3番(+モーツァルト:交響曲第38番、グルックとヘンデルのアリア集)
19. ブルックナー:交響曲第4番(+モーツァルト:交響曲第38番、「魔笛」序曲)
20. ブルックナー:交響曲第5番(+ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番、シリングス:「オイディプス王」前奏曲)
21. ブルックナー:交響曲第6番(+シューマン:チェロ協奏曲、R.シュトラウス:ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら)
22. ブルックナー:交響曲第7番(+J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番、ヒンデミット:フィルハーモニー協奏曲)
23. ブルックナー:交響曲第8番(+ブラームス:ピアノ協奏曲第2番)
24. ブルックナー:交響曲第9番(+ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番)
25. マーラー:交響曲第1番(+メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番)
26. マーラー:交響曲第2番(+ヘンデル:合奏協奏曲)
27. マーラー:交響曲第3番
28. マーラー:交響曲第4番(+モーツァルト:交響曲第40番、「羊飼いの王様」よりアリア、ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番)
29. マーラー:大地の歌(+ベートーヴェン:交響曲第6番)
30. R.シュトラウス:「サロメ」
31. R.シュトラウス:「エレクトラ」
33. R.シュトラウス:「アラベラ」
34. チャイコフスキー:交響曲第4番(+コダーイ:夏の夕べ、シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ)
35. チャイコフスキー:交響曲第5番(+ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、ミュラー:ドイツ民謡による変奏曲とフーガ)
36. チャイコフスキー:交響曲第6番(+ブラームス:ハイドン変奏曲、ヴァーグナー:ジークフリート牧歌、「さまよえるオランダ人」序曲)
37. ストラヴィンスキー:「火の鳥」(+シューマン:交響曲第3番、ブラームス:ヴァイオリン協奏曲)
38. ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」(+ブラームス:ハイドン変奏曲、シューベルト:未完成、グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲)
39. ストラヴィンスキー:「春の祭典」(+J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番、ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲)
40. バルトーク:ピアノ協奏曲第1番(+ニールセン:交響曲第5番)
41. シェーンベルク:管弦楽のための変奏曲(+プフィッツナー:忘却、ヴェーバー:「オイリアンテ」よりアリア、シューベルト:グレイト)
42. プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番(+ベートーヴェン:交響曲第4番、ベルリオーズ:イタリアのハロルド)
43. ヒンデミット:交響曲「画家マティス」(+C.P.E.バッハ:チェロ協奏曲、ブラームス:交響曲第3番)
44. R.シュトラウス:4つの最後の歌(+ヴァーグナー:「マイスタージンガー」前奏曲、ジークフリート牧歌、ラインへの旅、自己犠牲、「トリスタンとイゾルデ」第1幕前奏曲と愛の死)
以上である。
これだけ聴けたなら、どんなにか素晴らしいだろう。
ところで、読者登録させていただいているブロガーの方の最近の記事で、「無人島の1枚」を選ぶというのがあった。
それにあやかって、私も今回、フルトヴェングラーの録音の中から、もし無人島に行くとするならば持っていきたいCD3枚を選んでみることにする。
え? 1枚が3枚になっているって?
1枚はさすがに選べないので、3枚までお許しいただきたい。
フルトヴェングラーにはたくさんの録音が残されているけれど、その多くは晩年のものである。
晩年の演奏は、テンポをあまり変えることなく、遅めでどっしりと安定したものが多い。
これはこれで枯れた良さがあるのだが、今回はよりフルトヴェングラーらしい、自在にテンポ変化するドラマティックでしなやかな演奏が聴ける壮年期の録音から選びたい。
具体的には、1950年以前の録音から選んでいきたい(彼は1951年頃を境に晩年の様式に移行したと私は考えている)。
また、フルトヴェングラーの録音にはライヴ録音、放送用録音、セッション録音の3種があり、いずれもかけがえのない遺産だけれど、当時のライヴ録音と放送用録音については音質にやや難がある場合が多い。
戦時中のマグネットフォン録音は、残響は豊かだが個々の楽器の生々しさには欠けるし、戦後の放送局による録音は、音は生々しいが響きがデッドのことが多い。
そのため、フルトヴェングラーならではの温かみのある分厚い音(特に弦楽器)を、生々しい音質かつ適度な響きで聴きたい私としては、できるだけレコーディング会社の録音した正規のセッション録音から選んでいきたい。
フルトヴェングラーというと、ベートーヴェン、ヴァーグナー、ブラームスを振らせて右に出る者はいない、と私は思っている。
そのため、この3人の曲の中からそれぞれ1枚ずつ選びたい。
まず、ベートーヴェン。
ベートーヴェンの1950年以前のセッション録音というと、交響曲第3番(1947年)、第4番(1950年)、第5番(1926、1937年)、第6番(1943年)、第7番(1950年)、エグモント序曲(1933年)、コリオラン序曲(1947年)、ヴァイオリン協奏曲(1947年)、カヴァティーナ(1940年)がある。
どれも究極の名演であり、どれを選んでもおかしくない。
あえて選ぶとすると、フルトヴェングラーが最も愛し演奏回数の一番多かった曲、交響曲第5番ということになるだろうか。
その2種の録音のうち、1937年盤はやや軽快な演奏(他の指揮者に比べると十分に重厚なのだが!)であり、私としては重々しくも激しくてドラマティックな1926年盤が好きである。
というわけで、
1枚目 ベートーヴェン:交響曲第5番 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1926年セッション盤 OPK2105 (CD)
とする。
第1楽章にせよ、第3楽章から終楽章への移行にせよ、これほど感動的に迫ってくる演奏は他にない。
このCDには、同時期のトスカニーニ、ワルター、メンゲルベルクの録音も入っていて、(曲は違うけれど)比較できるのも楽しい。
ただし、約百年前の録音であり、音質は決して良いとはいえず、一般的にお勧めできるかといわれると躊躇する。
1925年以前の機械録音に慣れている方には、間違いなくお勧めできる(この録音自体は初期の電気録音)。
ちなみに、このオーパス蔵レーベルの復刻は、大変に生々しく素晴らしい(なお、ISTITUTO DISCOGRAFICO ITALIANOレーベルによる復刻では、この演奏の素晴らしさは分かりにくい)。
次に、ヴァーグナー。
ヴァーグナーの1950年以前のセッション録音というと、オーケストラだけによる序曲や間奏曲はたくさんあるのだが、そうでなくて本編をと思うと抜粋であってもほとんど存在しない。
唯一存在するのが、
2枚目 ヴァーグナー:「神々の黄昏」第3幕フィナーレ(「自己犠牲」) フラグスタート(Sp) フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管 1948年3月26日セッション盤 OPK2035 (CD)
である。
これは本当に素晴らしい演奏。
壮大なる神話世界の音伽藍を体験しようと思うと、これしかない。
オーパス蔵レーベルの復刻もやはり素晴らしいことこの上ない。
もしこの時期に「神々の黄昏」の全曲セッション録音が、ひいては「ニーベルングの指環」の全曲セッション録音がなされていたら…と想像するだけでゾクゾクしてしまう。
なお、このCDには「トリスタン」第1幕前奏曲と愛の死、および「パルジファル」第1幕前奏曲と聖金曜日の奇跡がカップリングされており、これまた良い。
最後に、ブラームス。
ブラームスの1950年以前のセッション録音というと、交響曲第1番(1947年)、第2番(1948年)、ハイドン変奏曲(1943、1949年)、ハンガリー舞曲集からの抜粋(1930、1949年)、ヴァイオリン協奏曲(1949年)がある。
これまたどれも名演なのだが、やはりフルトヴェングラーらしい曲ということで、
3枚目 ブラームス:交響曲第1番 フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル 1947年11月17-20、25日セッション盤 SBT1142 (CD)
とする。
これも言うことのない感動的な名盤。
第1楽章展開部途中でいったんテンポを落としてからの、再現部へ向かっての追い込みなど、本当にすさまじい。
カップリングの、ハイドン変奏曲のライヴ録音(1952年)も良い。
TESTAMENTレーベルによる復刻も、オーパス蔵のような生々しさはないけれど、そのぶん雑音が少なくて、ウィーン・フィルの美しい音色を堪能しやすい。
フルトヴェングラーについて、これまで幾度となく、心ゆくまで書いてきた。
概ね書ききって、何だか少し寂しいような気もするのは、妙な話である。
次からは、この「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズでは、別の演奏家を取り上げていこうと思う。
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