今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
前回に引き続き、「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズの続きである。
今回は、フルトヴェングラーの指揮によるブルックナーの交響曲第7番を取り上げたい。
今回もこれまでと同様、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの演奏による、ベルリンでの演奏会で、かつ1929~1934年頃に行われたもの(できれば1929年のもの)から探してみたいと思う(その理由はこちら)。
探してみると、下記の演奏会があった。
1932年4月14、15日、ベルリン
指揮:フルトヴェングラー
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
Bach: Suite No. 2 (Albert Harzer, flute)
Hindemith: Philharmonisches Konzert (UA)
Bruckner: Symphony No. 7
ベルリン・フィルの創立50周年記念コンサートである。
ヒンデミット作曲の委嘱作品「フィルハーモニー協奏曲」の世界初演あり、ベルリン・フィルの前任指揮者アルトゥール・ニキシュがかつて世界初演したブルックナーの交響曲第7番あり、とベルリン・フィル記念コンサートにふさわしいプログラムになっている。
この後、フルトヴェングラーとベルリン・フィルは同じく記念コンサートとしてベートーヴェンの第九を4月17、18日にベルリンで演奏したのち、記念ツアーとしてドイツ、フランス、イタリアの各都市を巡る。
そして6月7、9日には、フルトヴェングラーは単身パリへ出かけ、パリ・オペラ座でのデビュー公演を、彼の得意曲「トリスタンとイゾルデ」で飾ることになる。
まさに八面六臂の活躍である。
ただしタイムマシンはまだないし、またこの演奏会のライヴ録音も残されていないので、代わりに下記の録音を聴いた。
●ブルックナー:交響曲第7番(第1~3楽章の断片) フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1941年2月2~4日ベルリンライヴ盤(CD)
(なお、バッハの管弦楽組曲第2番と、ヒンデミットのフィルハーモニー協奏曲は、おそらくフルトヴェングラーによる録音が残されていないため割愛)
フルトヴェングラーのブルックナー交響曲第7番には、戦後のベルリンやカイロ、ローマでのライヴ録音も残されていて、それらはきちんと全曲入っている。
それなのに、なぜこのような戦時中の、録音状態の決して良くない、かつ断片的にしか残っていないものを選ぶのか、と訝られるかもしれない。
あえてこの録音を選んだのは、コンサートホールのためである。
最高の音響を誇ったとされる伝説的なコンサートホール、ベルリンの旧フィルハーモニーは、前回の記事にも書いたように(こちら)、1944年に空襲で破壊されてしまった。
旧フィルハーモニーがいったいどれほど美しい響きだったのかが、(その片鱗だけだけれど)一番よく伝わってくるのが、この録音だと私は思う。
このホールの豊かな残響は、ベートーヴェンやブラームス以上に、ブルックナーにこそふさわしい。
ごく短い断片的な録音しか残されていないこの演奏は、聴いてみると想像を絶する美しさで、まるで「神の啓示」ででもあるかのようである。
これほどの美しさは、上記のような戦後の録音からは、聴くことができない。
なお、上で選んだ1932年4月の演奏会は、戦前なので会場はもちろん旧フィルハーモニーである。
もしも実演で聴いたならば、どんなにか神々しいことだろう。
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