今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
前回に引き続き、「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズの続きである。
今回は、フルトヴェングラーの指揮によるブルックナーの交響曲第6番を取り上げたい。
今回もこれまでと同様、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの演奏による、ベルリンでの演奏会で、かつ1929~1934年頃に行われたもの(できれば1929年のもの)から探してみたいと思う(その理由はこちら)。
探してみると、上記の条件に合致する演奏会はなかった。
というより、フルトヴェングラーはこの曲を、1943年にウィーン・フィルとベルリン・フィルの演奏会でそれぞれ振った以外には、おそらく生涯において指揮していない。
ブルックナーの中ではマイナーな交響曲なので、仕方がない。
1943年というと戦時中であり、タイムマシンで行くのも憚られるが、一応行くとするならばベルリン・フィルのほうか。
1943年11月13、14、15、16日、ベルリン
指揮:フルトヴェングラー
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
Bruckner: Symphony No. 6
Schumann: Cello concerto (Pierre Fournier)
Strauss: Till Eulenspiegels lustige Streiche
メインのブルックナーの交響曲第6番に加えて、ピエール・フルニエとの共演によるシューマンのチェロ協奏曲が聴けるのは嬉しいところである。
なお、この演奏会場であるベルリンのフィルハーモニーは、世界最高の音響と謳われる名ホールだったが、この演奏会の約1週間後の1943年11月22日に空襲され、応急に修復されたものの、その約2ヶ月後の1944年1月30日に再度の空襲で完全に破壊されてしまった。
ただしタイムマシンはまだないので、代わりに下記の録音を聴いた。
●ブルックナー:交響曲第6番(第2~4楽章のみ) フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1943年11月13~16日ベルリンライヴ盤(NML/Apple Music)
●シューマン:チェロ協奏曲(第2楽章コーダ~第3楽章のみ) フルニエ(Vc) フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1943年11月13~16日ベルリンライヴ盤(NML/Apple Music)
●R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1943年11月13~16日ベルリンライヴ盤(NML/Apple Music)
なんと、この演奏会のライヴ録音は残されている!
ブルックナー第6番とシューマンのチェロ協奏曲はそれぞれ欠落があるのが残念だが、いずれも美しい名演である。
当時37歳の名チェリスト、ピエール・フルニエの至芸も(この時代にしては)高音質で味わうことができる。
「ティル」は、これも音質は悪くはないのだが、当時のライヴ録音には限界もあって、フォルテのときの弦の迫力がいまいちよく伝わってこない。
そのため、私はこちらの録音のほうを聴くことが多い。
●R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1930年セッション盤(CD)
こちらはセッション録音であり、古い録音だけれど、特にオーパス蔵による復刻盤は本当に音が生々しくて、まるでコンサートホールにいるかのような気分が味わえる。
あと、フルトヴェングラーの「ティル」で忘れてはならないのが、こちらである。
●R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1947 or 1950 or 1951年ライヴ映像
フルトヴェングラーの独特な指揮ぶりを見ることができる、貴重な映像。
指揮棒は常にぶるぶると小刻みに震えていて何とも分かりにくく、「振ると面食らう」というニックネームもむべなるかな、である。
体全体の動きも何となく素人っぽくて、例えば彼と同年代の指揮者エーリヒ・クライバーのような、スマートなカッコよさは見られない。
しかし、何とも言えないオーラがあって、圧倒される。
それに、彼のこの不思議な動きによって生み出される音楽の、なんと感動的なことだろう。
マーラーの交響曲としばしば比較され、低く見られやすいR.シュトラウスの交響詩だが、フルトヴェングラーの手になると、ベートーヴェンの交響曲のスケルツォにも匹敵するような「充実した諧謔性」をもつ、大変立派な音楽であることがよく分かる。
このような映像が残されていることに、感謝したい。
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