今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
今回も、「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズの続きである。
ここ数回で、フルトヴェングラーの指揮によるマーラーの交響曲第1~4番を取り上げた。
この流れだと、次は交響曲第5番ということになるけれども、実はそうはならない。
というのも、フルトヴェングラーはマーラーの交響曲第5~9番を、生涯に一度も演奏したことがないようなのである。
確かに、マーラーの第5番以降の交響曲、すなわち20世紀に入ってから書かれた交響曲は、マーラーならではの複雑な書法がどんどん顕著になり、それこそ狂気をはらんだかのような様相を呈してくる。
複雑な現代人の心の内のような繊細さや脆さをもつこれらの曲は、どっしり構えた19世紀的な悠然たるスケール感に根差したフルトヴェングラーの音楽性とは、相いれなかったのかもしれない。
そんな中、マーラーの第8番と第9番の間に書かれた交響曲「大地の歌」については、フルトヴェングラーはその生涯にただ一度だけ指揮している。
下記の演奏会である。
1916年11月21日、マンハイム
指揮:フルトヴェングラー
管弦楽:マンハイム歌劇場管弦楽団
プログラム
Mahler: das Lied von der Erde (Ottilie Metzger-Lattermann, Max Lippmann)
Beethoven: Symphony No. 6
フルトヴェングラーはこのとき30歳。
若きフルトヴェングラーは、このときまだ書かれて10年も経っていなかったこの曲に、大きな関心があったのかもしれない。
そして、演奏してみて「やっぱりこの曲は自分の本領とは違う」とでも思ったのだろうか。
いずれにしても、どのような演奏だったのか、聴いてみたいものである。
ただしタイムマシンはまだないし、またこの演奏会のライヴ録音も残されていないので、代わりに下記の録音を聴いた。
●ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」 フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル 1952年11月24~25日セッション盤(NML/Apple Music/CD)
(なお、マーラーの交響曲「大地の歌」は、フルトヴェングラーによる録音が残されていないため割愛)
録音技術者のフリードリヒ・シュナップ博士に、「ベートーヴェンの<田園>を指揮するには、アーダルベルト・シュティフターを読まねばならない」と語ったという、フルトヴェングラー。
そんな彼の雄大きわまりない「田園」が聴ける。
今ではもう見られない19世紀の田園風景が、ここにはある。
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