今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
前回と同じく、「もしもタイムマシンがあったなら行ってみたい演奏会」シリーズの続きを書きたい。
これまで、フルトヴェングラーの指揮によるコンサートがもし聴けたならということで、彼の振るベートーヴェン、ヴァーグナー、ブラームス、ブルックナー、マーラー、R.シュトラウス、チャイコフスキー、ストラヴィンスキーについて書いてきた。
ここ数回は、フルトヴェングラーの振った世界初演曲に焦点を当てている。
今回は、フルトヴェングラーの指揮によるR.シュトラウスの「4つの最後の歌」を取り上げたい。
R.シュトラウスの「4つの最後の歌」、この曲が世界初演されたのは、下記の演奏会においてである。
1950年5月22日、ロンドン
指揮:フルトヴェングラー
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
プログラム
Wagner: die Meistersinger von Nürnberg, Prelude; Siegfried Idyll; Götterdämmerung, Siegfried's Rhine Journey and Brunnhilde's immolation (Kirsten Flagstad) & Tristan und Isolde, Vorspiel und Isoldes Liebestod (Kirsten Flagstad)
R. Strauss: 4 Last Songs/Vier letzte Lieder (Kirsten Flagstad)
この世界初演の独唱者は、伝説の名ソプラノ、キルステン・フラグスタートである。
R.シュトラウス自身が、フラグスタートによる初演を望んだらしい。
結局初演が行われるより前にR.シュトラウスは亡くなってしまったのだが、彼は“第1級の”指揮者とオーケストラによる伴奏を望んでいたようで、それはフルトヴェングラーとフィルハーモニア管弦楽団が担当することとなった。
「4つの最後の歌」とともに、上記のようにヴァーグナーの曲がいくつかプログラムに配され、その独唱パートはいずれもフラグスタートが担当した。
フルトヴェングラーとフラグスタートという2人の巨匠による、ヴァーグナーとR.シュトラウスの夕べ。
伝説と呼ぶほかないコンサートである。
ただしタイムマシンはまだない。
けれど、なんとこの演奏会はライヴ録音が残されている!
●R.シュトラウス:4つの最後の歌、ヴァーグナー:「トリスタンとイゾルデ」より第1幕前奏曲、イゾルデの愛の死、「神々の黄昏」よりジークフリートのラインの旅、ブリュンヒルデの自己犠牲 フラグスタート(Sp) フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管 1950年5月22日ロンドンライヴ盤(CD)
「マイスタージンガー」第1幕前奏曲と、ジークフリート牧歌については、録音が散逸してしまったらしい。
それでも、これだけ残されていればもう十分である。
R.シュトラウスもヴァーグナーも、大変な名演。
フラグスタートはこのとき盛時を少し過ぎているけれども、コンディションは大変良好である。
また、フィルハーモニア管はフルトヴェングラーの指揮のもと、イギリスのオケとは思えないずっしりとした濃厚なドイツ・ロマンを表出している。
なおかつ、イギリスのオケらしい優美さもやはりあって、そのバランスがベルリン・フィルやウィーン・フィルなどとはまた違った味わいをもたらしている。
音質は最上とは言えず、セッション録音に比べると音のパワー(音圧?)に物足りなさがあるが、それでも聴くに堪えないというほどの音質ではないし、それに当時ぶつ切りだったセッション録音には望めない、流れの良さがある。
初演のライヴ録音が残され、それが大変な名演というのは、例が少ないように思う。
この「4つの最後の歌」以外には、オイストラフとリヒテルにより初演された、ショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタがあるくらいか?
録音文化の浸透した現代でも、例えば昨年行われたカンブルラン指揮読響によるメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」日本初演は、録音されなかったという話である。
つい先日(7月1日)行われたという、カンブルラン指揮シュトゥットガルト歌劇場管による細川俊夫の「地震・夢」世界初演も、録音されたとは期待しにくい。
そう思うと、この「4つの最後の歌」の世界初演録音は、実に貴重な記録である。
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