サンツアーXC SportとJEAY Type M. | 社会不適合オヤジⅡ

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好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

今夜はブレーキのオハナシ。飽きもせずに自転車の話題です(笑)

まずはこちら、ちょっと変わった機構を持つブレーキです。

えぇ、磨き職人である私は一生懸命磨き上げましたヨ。

製造年は1930年代から50年代です。つまり新しくとも70年~80年ほど前の部品です。

フランスの先進性は当時の先端素材だったアルミニウムを積極的に取り入れたことで有名です。

1955年製のシトロエンDSも、ルーフの縁にはぐるりとアルミで装飾がされています。

この画像のブレーキシューもオリジナルです。欠損もせずに残っているオリジナルのシューは貴重ですが、流石に80年も前のゴムを信じるわけには行きませんので、代わりになるものはと探してみると、どうやらMAFACのそれと互換性がありそうです。

正しくいえば1947年に誕生したMAFACはJEAYのブレーキを参照して製造したのではないかと考えられます。

使い方はこうです。これは1950年ころのプジョーです。

左右のアームの台座をフレーム側に溶接し、それぞれをコイルスプリングで連結する。

真ん中に通った弓形のアーチを引き上げると左右のアームは広がり、ブレーキシュー側は台座を支点として互いに近づきリムの側面を押しあって制動力を得る、というものでした。

手許にあるマファック・クリテリウムのブレーキシューにKOOL STOP社のゴムを嵌めて組んでみました。オリジナルのシューのカラーを尊重してオレンジを選んでいます。

それにもし実用に供するのであれば、こっちのほうが強い制動力を得られますからね。

あっさりと組み付けられます。細かい寸法まで何の障害もありません。

専用台座を用意さえすればブレーキシューとフレームのクリアランスもきちんと取れる寸法です。

手許にマファック・ライドのクロワッサンがあるので、試しに嵌めてみました。

ボルトの径とネジピッチは合いますが、長さが合いませんので実用に供することはできません。

なんと、マファックのクロワッサンを装着しても何の違和感がないばかりか、これが純正パーツの組み合わせのようにしか見えません!

もうマファックのヴィンテージパーツだと見間違えます。

作動具合を表現するために、アームを左右に広げてみました。

ブレーキワイヤーを引くと、富士山型のアーチ形状の金具が上方向に移動(白い矢印)

すると左右のアームは外側に押し出され(黄色矢印)ブレーキシューが付けられたアームは支点を軸に内側方向へ引き絞られます(青矢印)

このとき支点上下のアーム長さを見ると、下側のアームが短く作られています。

つまり支点を軸にテコの原理が応用され、作用力は矢印の長さで示されるように倍力構造となるわけです。

ブレーキレバーを離せば左右のアームを繋げているスプリングによって、左右のアームは近づいてブレーキは開放される仕組みです。

呼び方としてはセンタープルブレーキですが、左右アームと富士山型のアーチ(カム)が接する場所には滑りを良くするためのローラーが用いられていますから「ローラーカム形式」という名前が適切かと思います。

 

ブレーキワイヤーを引き絞ってもシューが挟み込むのに移動する距離は比例しません。

リムを左右から締め込むトルクを手で握った力よりも強くさせることで確実な摩擦力を得ようとしているわけですね。

ただしこの構造はこのブレーキに始まったわけではありません。人間の握力で自転車のスピードをコントロールするには試行錯誤を繰り返したに違いありません。

当時のカタログを抜粋してみましょう。

左側のモデルMはアルミ製、右側は鉄にクロームメッキを施したSportsです。

この図のモデルMはまさにマファック・クリテリウムのように板を二枚張り合わせたタイプでした。

私のモデルMは支点付近だけムクのアルミで作られています。

この構造変更はおそらく捻じれに抗うため剛性を上げる目的で行われたのでしょうか。

それともう一つ。コイルスプリングの長さが短くされています。おそらくセッティング時にはすでにコイルは少し伸ばされた状態になり、ブレーキワイヤーにはテンションが掛かるようにされているように思えます。これはレバーと本体のレスポンスを改善するための工夫として、そのような改善なのでしょう。

そう考えるとこれは後期型とも思えてきます。でもそのおかげでますますマファックのセンタープルブレーキとデザインの共通性を強く感じます。

 

さてさて時は流れて1980年代のこと。

アメリカで誕生したATB(オールテラインバイク)が自転車の新しい一車種として登場してきます。

この頃はすでにヨーロッパの自転車パーツは衰退が始まり、日本製のパーツが世界を席巻していました。

アメリカでのATB、いやMTBの創世記に活躍した方の中に、チャーリー・カニンガムさんという著名な方がいらっしゃいます。

そんな彼がプロデュースした日本のサンツアー社のブレーキを御覧ください。

1930年代に作られたローラーカムタイプと言うべきブレーキを、その50年後に蘇らせたのはカニンガムさんでした。

富士山型のカムに"CUNNINGHAM"と彼の名前が彫られていることが分かります。

40年ほど前にこのサンツアーのブレーキを見たとき、これってJEAYのModel Mの現代語訳そのものじゃないかって衝撃を受けたことは今でも覚えています。

それからずっとModel Mが気になって仕方ありませんでした。いえ、正確に言えばここ7年~8年ほど前にふと思い出してどうにか手に入れられないかと探し続けていました。

 

ひょんなことから数ヶ月前に国内で手に入ることを知り、マファックのTop63を買うつもりならば、それよりも遥かに安い価格で手に入れられました。

もちろん純正の固定ボルトとスペースワッシャもあります。このネジサイズもマファックの台座にスルスルと入っていきます。ただし長さが全く違いますから、マファックの台座に付けられるわけではありません。

ご存知のようにカンチレバーにしろセンタープルにしろ、マファックの台座にはスプリングを固定する箇所が設けられています。

その点、コイルスプリングで左右の独立したアームのテンションをコントロールするJEAY Type M.には、台座にスプリングを受ける細工は存在しません。

これがJEAYの専用台座を設けたフロントフォークですが、よく見ると単なる6角ナットの先に円筒形のものを溶接しただけのようにも見えます。曲面のフォーク全面に平面のナットを溶接するため、ロウを盛り付けているようにも見えます。

専用台座とはいえ安価に入手できる部材を上手く使って(流用して)工夫したのかと思うと、80年以上前の先人の努力が垣間見えて興味深いです。

プリミティブな造形ながら美しい佇まいを感じさせるブレーキ。

アヴァンギャルドなフランス以外、絶対に作り出せないギミックと造形の美しさに見飽きることがありません。

おそらくこれはこのブレーキシューを用いれば、現代の路上でも安全にスピードコントロールが可能なブレーキだと思います。

専用台座は六角ナットじゃ可哀そうだけど、母材として削り込んだら面白そうです。

まぁ実際にこういうパーツを使おうと思ったら、各所のパーツを同じような年代のもので揃えなければ品が悪いです。

それは結構大変なことで、このブレーキから新しい一台を生み出すには相当の努力と時間と経済力が求められそうです。

 

サンツアーXC Sportsと80年前のフランスパーツJEAY Model M。

とても面白い歴史です。

また明日ね(^O^)/~~~

 

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