小説・遠い呼び声 1/3 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

久しぶりに小説を書きたいと、ずっと思っていました。

この前は星新一風のSFでしたね。

今までは「アルファロメオが登場する」ということを前提に書いてきましたが、今はそれほどそれにこだわらなくても良いかなぁと思っています。

 

さて、そういうわけで今回から三話に分けてショート・ショートのようなライトノベルを書いてみます。

題名は「遠い呼び声」

それでは始まり始まり~

 

題:『遠い呼び声』

第一章・・朋子

 

「ねえ、ねぇママおはよう。今夜は遅いの?」

「あ、おはよう。偉いね、自分で起きてきたね。うん、今日は夕方までだからお留守番していてね」

ママと呼ばれたのは木嶋朋子。シングルマザーで新橋にあるシティホテルのフロント勤務をしている。

声を掛けたのは朋子の子供。小学校4年生の一人息子、大翔(たいが)だった。

 

簡単な朝ごはんを終え、大翔にはお弁当を手渡して朋子はマンションを降りていく。

今日の勤務は夕方5時までだった。

もう慣れてはいるが、帰宅途中で買い物を済ませても何とか6時までには帰宅しなくてはならない。

出勤してユニフォームに着替え、早番のメンバーから申し送りを受けるとすぐにバンケットへ。

宿泊客のモーニングサービスを引き継いで、チケットの確認を行いながら本日の予約者リストにも目を通す。

『今日は忙しそうね。空室が殆ど無いわ。チェックアウトした居室の清掃とベッドメイキング、時間までに間に合うかしら』

 

バンケットを出ながら遅い朝食を取っている宿泊客のテーブルへと進む。

手にはパントリーで焼き上げたミニクロワッサンとプチフランスパンを並べたバスケットを持っていた。

このホテルはその殆どがビジネスマンだった。

そろそろ9時になるのでほとんどの宿泊客はチェックアウトしている。ふと窓際の一人のお客様が手を上げたことに気づき、彼女はそばまで歩いていった。

 

「はい。お待たせいたしました。パンのおかわりですね。プチパンとクロワッサンとどちらがよろしいでしょうか」

柔らかな笑みを浮かべ優子は軽く会釈をした

「うん、プチパンを一つ。それとコーヒーのおかわりも頼めるかな?」

「はい。かしこまりました。バターもご要りようでしょうか?」

「いや、バターはこれで足りるね。ありがとう。あ、シュガーもミルクも要らないから・・・」

 

朋子はブッフェカウンターにあるBMFのコーヒーマシーンからエスプレッソを落とし、そのテーブルへ届けた。

「お待たせいたしました。コーヒーをお持ちいたしました」

「ありがとう。もうすぐここをチェックアウトするけれど、15分後にタクシーが来るようにお願いできますか?」

その客は商談のためか大きな黒いハードケースのバッグを向かい側の席に乗せて一人で食事を摂っていた。

「かしこまりました。それでは9時30分に正面のエントランスの車寄せにお呼びしておきます。本日は当ホテルをご利用いただきましてありがとうございました。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ」

朋子はそう言うと再び軽く微笑んで会釈をし、テーブルを離れた。

 

その日は予想したとおり、いつになく多忙な日だった。

ほぼ満室だった客室は全て退室して、そして今度は再び満室に近い宿泊客がやってきた。

朋子はチェックイン業務に忙殺され、予約客リストと飛び込みの電話対応に忙殺されていた。

昼食は交代で取るのだったが、休憩時間は諦めざるを得ない。2年後にオリンピックが行われるときには、これを上回る作業量になるはずだと、朋子はチラッと一人で留守番している大翔のことを考えた。

さすがに4時を過ぎるとチェックイン数は落ち着いてきた。

それでも予約客が全てチェックインしているわけではない。日別の客室稼働表をマーカーで色分けしながらまだお見えでない客室を確認していた。

 

「・・・すみません。空室はありますか?」

カウンターには立っていたが、テーブル下でマーカー作業をしていた朋子は目の前にお客様が来たことに気が付かなかった。

「いらっしゃいませ。気づかずに大変失礼いたしました。お客様はお一人様でしょうか。あいにく本日はシングルが全て埋まっておりまして・・・」

そこまで告げるとそのお客様が、今朝タクシーを依頼された方だと思いだした。

「お客様、連泊だったのでしょうか。連泊でしたらお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「あ、覚えていてくださったんですね。いえ、今朝チェックアウトして商談を終えたら支社に帰る予定でした。ところが先方の都合で明日もう一度打ち合わせをすることになったんです。私としては嬉しいお声がけではありますが、なぜか今日はどこのホテルも一杯で泊まる場所が確保できないんです、こちらは如何かと再び訪ねた次第です。どうでしょうか空室はありませんか?」

 

残念ながらシングルルームは既に満床でツインルームであれば2部屋空いていた。

バブルの頃とは違い一人でツインの部屋を使うようなお客さんは皆無だった。朋子は念の為確認しておこうとツインルームであればご案内できると告げた。

その客は暫く考えていたが、結局そのツインルームに泊まることになった。

 

************************************

 

「大翔、ただいま。ゴメンね遅くなって。すぐご飯にするからね」

朋子は帰宅途中にあるスーパーで夕飯の材料を買い、6時過ぎには自宅マンションに戻ることが出来た。

「ママ、今日ね、学校でね・・・」

大翔がだんだん大きくなっていく。朋子はこの時間が一番好きだった。

大翔の父親は自分にとっては良い夫ではなかったが、大翔にとっては良い父親だった。

その別れた夫は今でも毎月一度だけ、大翔に会うためにやってきた。このマンションは朋子の両親が用意してくれたマンションだったので、決して家に入れることはなかったが。

 

「ねぇ!ママ!聞いてる?」

朋子は忙しさに忙殺されたことと元の夫と遊ぶ大翔の姿を思い浮かべて大翔の話を聞いていなかった。

「ゴメン、ママね、今日忙しかったからちょっとぼう~っとしちゃった。なになに?もう一度聞かせて?」

「え~?うん、いいよ。あのね・・・」

きちんと聞いては見たが大翔が話す内容は他愛もない話だった。けれど朋子は仕事のときとは違う、満面の微笑みを浮かべながら相槌を打って聞いていた。

 

『あなた。いえ、もう私はあなたと呼ぶ立場にないけれど、大翔は元気な子供に育っています。私が親権を譲れなかった理由はもう十分理解してくれているわよね。私は、私がこうやって生きて行けているのは、大翔の母親としていつもこうやって一緒にいられるからなの。あなたに似て聡明な大翔は私とあなたの仲が悪い事、十分に分かってくれているわ。父親が必要な時期に本当にこれでいいのかって私はいつも自問しています。けれど家の中で全く会話もなく目も合わさないような夫婦の姿は大翔に見せたくなかった。あの頃と比べればこの子は伸び伸びとしているように見えるわ。いつもビクビクして私とあなたの表情を伺うようなこともしなくて良いようになったし。この子がもう少し大きくなったら私は訊いてみるの。大翔はお父さんが欲しいかって。その答えを聞いてから私は私の歩む先を決めます。今はただこの子と二人で歩いていきたい。この子の半分はあなたであることはわかってるわ。それでも私はこの子が成長することで心が荒まずに済んでいるの』

 

大翔は相変わらず今日の出来事を喋っていた。朋子に似た大きな瞳を丸く開いて。

 

***************************************

 

「おはようございます。昨日はゆっくりとお休みになれましたか?」

次の朝、朋子は例のツインルームに宿泊した客に向かって軽く微笑みモーニングをお出しした。

「あ、木嶋さん、ですよね。おはようございます。いいお部屋ですね。気持ち良い一晩をありがとうございます。差額は自腹ですから楽じゃないんですが、あのあとまた別なホテルを探すのは正直気持ちが折れてました」

「どうもありがとうございます。私どものホテルをお選びくださって、それが一番の私たちの喜びです。東京にお越しの際には、是非ご連絡下さいませ。必ずお部屋をご用意するようにいたします」

「そうだ、木嶋さんの尽力に一つプレゼントを差し上げましょう。これは当社の新商品なんです。まだ試作品ですがきっとお仕事でお使いいただけるはず。モニターになって欲しいとまでは申しませんが、使いやすさなどをお聞かせくだされば嬉しいです」

 

そう言うと彼はバッグの中から一本のボールペンを取り出した。

どうやら彼はステーショナリー全般の商品を開発しているメーカーの営業のようだった。

見た目はそれほど奇抜なデザインではなく、どちらかと言うと落ち着いた保守的なデザインのボールペンだった。

 

「これですが、今回の打ち合わせに持ってきた商材なんです。まず指が痛くならない、かすれない、シャフトのバランスが良いので書きやすい。そして何よりインクが特殊です。表面加工してある紙にも和紙にも、そしてティッシュのような柔らかい紙にもはっきりと書けるんです。フロントで働く木嶋様のような方に気に入ってもらえるか、それがこの商品の真価を試すことにもなると思います」

 

朋子は営業マンである彼の熱のこもった説明を、いつものように柔らかく微笑みながら聞きいていた。

一通り喋り終わった彼はふと気がついたように名刺入れを取り出して挨拶した。

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は株式会社タカトーの進藤と言います。本社は日本橋ですが今は名古屋の支社に勤務しています。東京には毎月というほど出張で参ります。是非ご連絡して木嶋様にお会いして同時にそのボールペンの使い心地もお聞かせいただきたく思います」

 

朋子は再び微笑んで今度はやや深くお辞儀をした。

なぜそうしたのかは自分でもわからなかったが、久しぶりに心を込めた男性の言葉を聞いたように感じた。

ホテルの外には盛りを過ぎた桜の花がひらひらと舞っていた。

 

「綺麗な風景・・・・桜が散るのをこんなに綺麗だと思ったことは久しぶり」

 

朋子はテーブルでスマホの画面に目を落としながらモーニングを食べている進藤の姿を見ていた。

 

 

 

******************************************

 

さて第一章はここまで。

ひょんなことから知り合った進藤と朋子。散りゆく桜は朋子の心に積もっていくのかも知れませんね。

 

第二章は明日お送りいたします。久しぶりの恋バナ(あ、ネタバラシ!) また明日ね('-^*)/

 

 


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