アルファロメオの登場する短編 Season15-2 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

尾根から不注意で滑落した幸太。外傷はそれほどひどくはなかったものの全身への強度な打撲により骨折と裂傷、そして内臓へのダメージも受けてしまいました。
とは言えきちんと登山計画書はメールで送っていて、彼はそれを唯一の希望として救援を待つ以外になすすべがないと決断し、一人で岩棚で救援を待つことに決めます。

では第二章のスタートです。
文中の画像はイメージです。予めご了承下さい。

題:星空に描いた夢

第二章 恐怖

8月16日 16時15分

夏の日の午後4時はまだ十分に明るい。幸太は腕時計を確認しザックからビスケットとボトルを取り出して、水分とエネルギーの補給を行った。

『滑落してから2時間以上過ぎたのか。それにしても脇腹の痛みは尋常じゃないな。息をするだけでこれだけ痛いのは、きっと肋骨が折れているかヒビが入っているかのどちらかだ』

若い頃は今から思えば無鉄砲な登山を限りなくやってきた。それゆえ怪我や遭難未遂も二度や三度ではなかったし、骨折も打撲も擦過傷も熱射病も脱水も経験してきた。
それでも40歳を過ぎる頃には無茶なことはしなくなり、このようなことは本当に久しぶりだった。



その頃幸太の家には長野県警から電話が入っていた。
幸太が予想していた通り、キレット小屋到着時刻を一時間以上過ぎても姿を見せない登山者がいるという連絡があったためだ。
幸太の妻、恵美子にとっては青天の霹靂だった。いつもは慎重すぎるほどに慎重な幸太だったので、きっといつものように笑って帰ってきてくれるものだと思っていた。
恵美子は息子二人に連絡を取り、長兄の幸輝の車で現地へと向かった。

8月16日 19時42分

「外山さん!聞こえますか!?外山さん!」

山岳救助隊が幸太を見つけたのは日没後しばらくしてからだった。
幸太は周囲が暗くなると、自分の所在を明らかにするべく稜線に向けてLEDのハンディライトをかざしていた。
それはごく初歩のレスキューサインであったが、救助隊はその明滅する明るいライトにすぐ気が付き、稜線の脇の立木にザイルを掛け救出に降りてきたところだった。
幸太を発見した隊員は、薄っすらと目を開けている幸太の耳元で彼の名前を呼んで意識の確認をした。
すぐに幸太ははっきりと目を開けた。しかし全身の痛みと強烈な脇腹の痛みで体を動かすことはできなくなっていたので言葉だけ発するのが精一杯だった。

「・・・あ・・ありがとうございます。申し訳ありません。私は外山幸太です。ありがとうございます」
救出された安心感とともに、迷惑を掛けた申し訳無さと自分の不甲斐なさに思わず幸太は涙声でこう答えた。

すぐに幸太は応急処置を施され背負子に固定され、キレット小屋へと運ばれた。
しばらくすると救急救命ヘリが空中でホバリングをしている音が聞こえた。隊員は担架に乗せ換えると大きく手を振り上げてヘリに合図を送った。機敏で勇敢な山岳救助隊のおかげで、無事幸太は地元の大きな病院へと搬送された。



8月16日 21時32分

「ご迷惑をおかけしました。で、父はどんな様子なのでしょうか」
幸太の息子、幸輝は案内された控所に入ってきた看護師に尋ねた。

「あ、はい。外山さんの息子さんですね。そちらは奥様と弟様ですね。ここではなんですから、あちらのカンファレンスルームでドクターから説明をお聞きください。もうしばらくすれば担当のドクターがこちらに参ります」
看護師はそう言うと向かい側にあるカンファレンスルームへと三人を案内した。
しばらくすると白衣の年配の医師が入ってきた。

「奥様とご子息ですね。私が今回外山様を診察した当直医の中西です。私の専門は外科ですのでご安心ください」
中西はそう言うと簡潔に説明を始めた。
まず脳のMRIには幸いな事に異常を確認できなかったとのことで、軽い脳震盪程度で済んだことを告げられた。ただし肋骨にヒビが入っていること。そしてひどい擦過傷と裂傷、またひどい打撲を負ったということも併せて告げられた。右肘は裂傷を起こし、それは神経に傷をつけた。そのため未だに感覚が戻っていないということだった。
当初幸太は出血箇所がないと思っていたが、ザックの中身を出そうとした時に右肘の裂傷に気がついた。外傷性ショックで傷口の筋肉は収縮し、血圧は低くなり、結果的に出血は少なかったことで彼に自覚させなかっただけだった。

「そしてもっと問題なことがあります。一つは左足の踝の骨折です。もう一つは肝臓のダメージです」
踝はこれから切開して手術を行うことになっている。しかしおそらくこれからは左足を曳きながらの生活になるであろうと、中西医師は眉を顰めてそう言った。

「え!それでは主人はもう山歩きはできなくなるということですか?」
恵美子はあまりの残酷さに思わず大声で質問してしまった。

「はい。公園での散策程度であれば問題無いでしょう。もちろん日常生活には支障はありません。お仕事にもそれほど影響はないことと思われます。ただし長時間の立ち仕事はひどい痛みを感じることになると思います」
「そして肝臓が過度な圧迫、おそらく滑落した時に尖った岩で強打したのだと思われますが、そのせいで組織が崩れ、出血しています。浮腫も起こしています。ただ機能を失うほどのダメージではないので外科的処置はせずに済みそうです。内出血しているので現状はドレンを挿入していますが、投薬としばらくの入院で肝臓は自己治癒することと思われます」

中西医師はそう言うと両手の指を組み、意を決したように幸輝の目を見据えてこう続けた。
「幸輝君といったかな?お父さんは幸運の持ち主だ、奇跡だよお父さんの生還は。名前の通り太い幸運を授かっているね。もしあそこに岩棚がなかったらきっとまだ捜索は続いていただろう。それにお父さんは救出されたとしても処置することが不要な状態でここに運ばれてきたことだろう。何しろあの斜面は大小数多くの岩が露出した崖で、あのまま滑落すればあと500m以上岩に体中を打ち砕かれながら谷底まで落ちていったに違いない。たぶんヘルメットも割れてしまっただろう。だからどうかこの幸運をご家族皆さんで分かち合ってください。僕も医師としての役目を全力で果たす覚悟でおります。よろしく頼みましたよ」

恵美子はその言葉を聞き、これからの生活がガラッと変わってしまうのではないかと不安が胸の奥から黒々と湧き上がってくるような気がしていた。

8月16日 23時11分

「母さん、今夜は俺がここに泊まるから。母さんと幸司はホテルに戻ってくれよ」
長男の幸輝はそう言うと車の鍵を次男の幸司に手渡した。



中西医師から言われた言葉を幸輝は自分なりに考えていた。そしてそれを会話はできないが父親と共に時間を過ごすことでその考えを深めて仕上げていきたい衝動に突き動かされた。
個室に戻された父親の横で、幸輝はその傷だらけの顔を見ながら心のなかで呼びかけた。

『親父、まさか親父が崖から滑り落ちるなんて夢にも思わなかったよ。子供の頃から連れて行ってくれたのは山ばかりだったよな。高尾山などは庭みたいなものだった。しまいにはどこの場所にどういう杉の木が生えているとか大きな石が幾つあるとか、幸司と二人でクイズを出し合いながら歩くまでになったよな』
『俺は地方の大学に行ったもんだから、それからは親父と山を歩くことは年に数回になっちまった。北八ヶ岳に行った時はあの車で出掛けたよな。山歩きが目的なのか八ヶ岳高原道路を走るのが目的なのかわからないような旅程だった。俺には運転させてくれなかったけど、俺もあのアルファロメオが好きだぜ。親父があの2000GTVを買ったのは、ちょうど今の俺と同じ年だよな。43年も前の車だもの、驚くほど早いわけはない。だけどもあの車には今の車にはない魅力に溢れてる。俺は親父があの車を絶対に手放さない理由が判るような気がするよ。親父にはあの車がお似合いだ』

幸輝の頭には子供の頃からの思い出が湧いては消えていった。彼はまだ独り身だったが、自分も子供を授かったら父のような男になりたいと思っていた。



『あのな親父、たぶん親父はもうあの2000GTVを運転することは出来なくなるぜ。酷い話だが仕方ない。オヤジの左足はもう重いクラッチを踏み続けることは受け付けなくなっちまう。それに右手の神経も危ういものだ。左ハンドルだからな、シフトは右手だろう?シフティングを操るのもきっと一苦労だろう。何しろ肘から先を随意に動かすにはかなりのリハビリが必要になる。先生は言葉を濁したが、オヤジの右手はペンを持つのも覚束ないほどになると思うぜ。悲しいけれどこれが現実だ。けれど生きて帰って来れただけでもラッキーだってさ。先生は奇跡的だって言ってたよ」

幸輝はまんじりともせずに病室の椅子に座ったまま父親に話しかけその夜を過ごした。


**************************************

まずは一安心ってところでしょうか。
それでもこれからリハビリテーションが待っています。
くるぶしの骨折は、今後山歩きを諦めなくてはなりませんね。

そして愛車、アルファロメオ2000GTVとはどのようにお付き合いをしていくのでしょうか。
第三章ですべてが明らかになります。明日も是非ご覧下さいね

台風も過ぎつつありますが交通網も乱れているようです。どちら様もお気をつけて。また明日(^_^)/~~~

※明日は事業所のイベントで遅くなります。第三章は明後日にお届けいたします。
申し訳ありませんが、しばらくお時間を。。。




ペタしてね
オリジナルペタボタンです! ペタもヨロシク(^_^)/

こっちも再登録しちゃいました(〃∇〃)
ポチッとよろしくお願いしま~す

にほんブログ村 車ブログ アルファロメオへ
にほんブログ村

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「和歌で遊ぼう!」今週中には更新しましょう!
記事は下のハートマークのアイコンから入れます。ご興味のある方、是非ご覧ください。



以前アップしたアルファを題材にした小説のショートカットを作りました。
ご興味があれば是非御覧ください。
第1作:第1話第2話第3話第4話第5話第6話ネタばらし(^_^)/
第2作:第1話第2話第3話第4話
第3作:第1話第2話第3話第4話第5話
第4作:第1話第2話第3話第4話
第5作:第1話第2話第3話第4話第5話
第6作:第1話第2話第3話第4話
第7作:第1話第2話第3話第4話第5話第6話
第8作:第1話第2話第3話第4話第5話
第9作:第1話第2話第3話第4話
第10作:第1話第2話第3話第4話
第11作:第1話第2話第3話第4話第5話第6話
第12作:前編後編
第13作:第1話第2話第3話
第14作:第1話第2話第3話第4話

ショート・ショートはこちら
その1
その2
その3


あ・・・・社会不適合オヤジⅠのバックナンバーはこちらから