アルファロメオの登場する短編 Season15-1 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

久しぶりに駄文を弄してみましょうか、と言う気持ちが湧いてきました。
季節は夏。学生さんはお休みですし会社も夏季休暇もありますし、今年からは「山の日」などという祝日も出来たりして、アウトドアには辛いけれどどこかに出かけたくなりますね。

さてそういうわけで(どういうわけだ?)今回のテーマは「アウトドア」
三章程度で終わらせる予定ですが、さてさていかがなりますやら(笑)
文中の画像はイメージです。予めご了承下さい。

題:星空に描いた夢

第一章 出発

8月16日 6時20分

「かあさん、それじゃそろそろ行ってくる。帰りは明後日の夜だけど、夕飯は済ませてくるから俺を待たずに先に休んでくれて構わない。それじゃぁな」

「登山計画書のコピーはこれね、はい分かったわ。気をつけてね」

使い込んだミレーのザックは30Lの容量を持つ。それに同じく履きこんだザンバランの登山靴をぶら下げてこの家の主、外山幸太は待たせていたタクシーに乗り込んだ。
先程妻の恵美子に渡した登山計画書は、すでに先方の山岳高原観光課宛てメールで送付済みだった。

「運転手さん、今日も暑くなりそうですね」駅までの道すがら、幸太はタクシー運転手に声を掛けた。

「えぇ、どうやらこの辺りは38℃くらいになるってことですよ。其れは百葉箱の中の話でしょうから、実際にアスファルトの照り返しを受けたら43℃とか44℃とかでしょうね。赤道直下の国じゃないんだから勘弁して欲しいですよ、全く」意外に運転手は饒舌だった。

それでも儀礼的な会話だったためか話はそれ以上続かず、幸太を乗せたタクシーはまもなくJR立川駅に着いた。
幸太の乗る特急あずさ71号は、立川駅に6時50分に到着する。昼飯とお茶、非常食などはすでにミレーのザックの中に仕舞いこんである。
それでも車中では口さみしいと、彼は駅前のコンビニで缶コーヒーとビスケットを買って改札をくぐった。



大学を卒業後、幸太は地元の信用金庫に就職した。
成績優秀だった彼は大手銀行への就職も難しくはなかったが、全国への異動がある勤務は選ばなかった。
両親が晩婚だったため幸太は一人っ子で且つ溺愛されて育てられた。そのため彼が成人した時にはすでに父母は二人とも60歳を過ぎていた。彼はその恩義を十分に理解しており、自分の人生の半分以上は父母からの愛情により形作られてきたと信じていた。
就職を決める時、彼は全国への異動が条件付けられることのない地銀または信金を就職先として選んだのだった。
その代わりと言っては語弊があるが、ずっとこの地域に住んでいたため高校時代から好きだった山歩きは関東一円から甲信越まで、様々な山行の機会を持つことが出来た。

父親の他界は彼が30代後半の時。バブル後の不景気が世間を混乱させていた時期だった。
母親は長命だったが後年介護度が悪化して有料老人ホームでの生活を余儀なくされた。
最期はそのホームで看取られたのだが、彼は自分自身の出来うる限りのことをやり尽くし、それまでの恩返しができたと自分自身を納得させた。

8月16日 8時40分

あずさ71号は小淵沢駅に到着した。本来であればこの近辺の旅館に前泊し、あと2時間ほど前からアプローチを開始したかったが、盆休み中でも幸太のような役職者はまるっきり休むことはない。
昨日はどうしても都合がつかず出社し、会社を出ることができるのは22時を回ることは確かだったため前泊は不可能だった。

日本山岳会に所属する彼の提出した登山計画書は、小淵沢駅からタクシーで入山口まで向かい三ツ頭登山口から八ヶ岳神社分岐を過ぎ、早乙女河原展望台で小休憩。そして木戸口公園から三ツ頭山頂で再び小休憩をした後、権現岳山頂で昼食を取る。やや長い休憩の後、出合小屋分岐・コマクサ群生地を経て宿泊地であるキレット小屋へ向かうという内容だった。
初日の目的地、キレット小屋へは15時過ぎには到着するはずだった。



駅から登山道入り口までは8Km弱の距離だ。タクシーならば10分少々で着く。
やはり少々スロースタートにすぎるかと、通称鉢巻通りと呼ばれる八ヶ岳高原道路の三ツ頭登山口のゲート前で降りた幸太はザンバランの靴紐を締め直し、いつもの彼のピッチより若干足早に歩き出した。
長年の登山経験から、今回の山行は低気圧との追いかけっこになることを幸太は知っていた。
一昨日までは安定した夏の気圧配置だったが、日本のはるか南に台風が発生したのが昨日。
それはまだ日本本土に天候の影響を与えるものではなかったが、海水温の僅かな変化は海流の変化を引き起こし始めていた。

『このまま台風が発達することは間違いない。海水温の変化と相まって、この辺りには弱いながらも温暖前線が発生するかもしれない。それが今夜なのか明日なのか。ともかくいつもよりピッチを上げてキレット小屋までたどり着くことが必要だ』

焦る気持ちはなかった。この程度の前線では天候が大荒れになることなどはない。ただ、雨に濡れて体力が必要以上に消耗することと、それによってもたらされる体調変化が二日目の山行へダメージを与えることになることを懸念していた。

8月16日 13時50分

ほぼ予定通りに権現岳に到着する予定だった。予定と違ったのは深い霧があたりを包んでしまったことだった。

『参ったな。稜線が全く見えない。幸いなことに尾根には出ているから道に迷うことはないが』

幸太は視界が届く自分の足元を見つめながら、あと十数分で権現岳山頂に到着することを確信していた。そしてそれは間違っていなかった。彼は正しい道を無理のない速度できちんとトレースしていた。

その時だった。彼は目蓋に溜まった露を嫌い右腕で顔を拭った。その行為は間違っていなかったが、霧の中で歩きながらすることは誤りだった。
彼の左足は不覚にも浮石に乗ってしまい、大きく体のバランスを崩した。

『・・・!!いかん!!』

声を出す間もなく、彼は左手の谷に向かって上体を傾ける姿勢になった。すでに左足だけではバランスを取りきれなかった。
そしてその体勢のまま、おそらく斜度は60度はあろうと思われる、岩が剥き出しの斜面に投げ出された。

「あぁ~!!!」

今度は大きな声を上げた。幸太は山行には常にヘルメットを着装していた。それは今回こそ大いに意味があることとなった。幸いなことに頭は岩のダメージを免れ、棚のようになった岩でどうにか滑落が止まった。

「フッ!ウ~ッ!・・・アァ~ッ!」

呼吸をするだけで背中と言わず胸と言わず激痛が走った。きっと肋骨に損傷があるのだろう。幸運なことにヘルメットのおかげで頭部へのダメージはなさそうだった。彼は狭い岩棚の上で両手と両足をゆっくりと動かし、異常の有無を確認して見た。

『右手の指の感覚がない。出血はおそらくなさそうだ。ただ体内で出血していたら厄介だな。それと左足の踝から先が動かない。これじゃぁこの斜面を登るのはとうてい無理ってことか』



幸太は冷静に考え始めていた。幸いなことにザックは彼の背中から外れずにあった。そのおかげで転げ落ちる際の衝撃をある程度は和らげてくれていた。
この岩棚から再び転げ落ちないよう、ゆっくりとザックを外して中を確認した。

「非常携帯食が2,000キロカロリー分、水が残り3Lほど、レスキューシート、ホイッスル、ザイルが30m、それとエマージェンシーキット・・・スマホは生きてるけれど圏外か」

弱い寒冷前線がこの山嶺を通過しているようだった。あまりメジャーではないコースだったためか途中で登山者とすれ違わなかったことが気がかりだった。
旧盆のこの時期、著名な山岳コースはどこも観光客で一杯だった。その鬱陶しさを避けて敢えて幸太はこのあまり人気のないコースを選んだのだが、結果的にはそれは幸太に味方してくれないことになった。

『今は何時だ。もうすぐ15時になるのか。俺が提出した登山計画書にはキレット小屋へは遅くとも16時には到着していなければ変だ。このまま動かずに救援を待つのが得策だろうな。』

経験豊富な幸太はあくまでも冷静な判断をしていた。彼がメールで送った登山計画書の予定時刻を遥かに超える時間になれば、きっと捜索隊が結成される。
携帯電話が圏外であれば連絡は取れない。捜索隊は記入してあるコースをキレット小屋方面から探しに来るに違いない。彼はそれを待つしか無いと思い始めていた。

『そうだ。今月はあれが車検だったなぁ』
彼は突然、自宅マンションの地下駐車場に置いてきた愛車、アルファロメオ2000GTVを思い出した。

『クラッチレリーズがそろそろ交換時期だったな。しかし助かったとしても、この感覚のない左足であのクラッチを再び上手く繋げることができるかなァ』

幸太は金融機関の部長職だからといってデスクに座りっぱなしのスタイルで仕事をしているわけではなかった。
本来気にしなくてはならないのは、痛めた左足首でクラッチをきちんと踏めるかということよりも、仕事で忙しく出歩き地下鉄や新幹線の階段を駆け上がり、駆け下りつことを心配すべきだった。

『そろそろ16時だ。陽が稜線にかかり始めた。もう陰ってくるな』

体を捻るだけで声を上げるほどの痛みが全身に走ったが、彼はエマージェンシーシートを広げて体を覆い始めた。

『長期戦にはなるまい。谷底まで滑落したわけでもないし意識ははっきりしている。人の気配がしたらホイッスルを吹けばおそらく聞こえる距離だ。ただし暗くなる前に準備できることはしておかないとな』

彼はまだ自覚していなかったが、彼の肝臓は途中の岩で酷いダメージを受け、じわじわと腹腔部への出血が進行していた。
そのため彼の体は僅かな血圧低下を起こし、若干の震えも感じ始めていた。

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う~ん。。。かなり困った状況です。
山に入っている登山者が少ない上に内蔵にダメージがあって、自覚できていない。
幸太は無事に帰れるのでしょうか。
第二章はどんな展開になりますやら、明日またお会いしましょう(^_^)/~~~




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