アルファロメオの登場する短編小説Seson13-3 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

本当は昨夜で完結する筈だったのですが、最初に用意した下書きから枝葉が伸びて少しボリュームが膨らんでしまいました・・・
もう一夜だけお付き合いくださいませ。

さて、いよいよ富澤の全てを投じてプロデュースしたディナーレストラン「コッリ・ディスペランザ」の竣工式が始まります。
どんな門出を迎えて、携わった人々はどんな出発をしていくのでしょう。
では!

題:侵されざる聖域

第5章:それぞれの道を求めて

竣工式は富澤プロデュースの『コッリ・ディスペランザ』の模擬営業も兼ねていた。
ランチタイムに合わせ、招待客は11時半までには店に集まってもらうこととしていた。
しかし富澤と菜津子、そして店の全てを任されることになった勝山夫妻は朝6時から現地入りして準備にとりかかっていた。

「どうだ勝山くん、設備機器全て異常なく稼働しているかい?」富澤が尋ねる。

「はい富澤さん。湯煎も目盛り通りの温度が保たれていますし、パスタボイル用の茹麺機も順調です。グリドルは低温側を70度、高温側を350度に設定してありますが、温度のムラもなく順当に加熱されています」
勝山はそれぞれの設備機器のチェックを全て終えて、いよいよ事前準備に取り掛かろうとしていた。

「スタンバイはどこまでやるつもりだ?リーチイン冷蔵庫は今日のゲスト数程度であれば、コール・ガルニチューレは先盛りにして皿枠で積み上げてスタンバイできるキャパはあるだろう。どうする?」

「はい、そうすれば提供遅れは防げます。ただし全部のガルニを盛りつけず、一部は提供寸前に盛りつけて出そうと思っています。そのほうが良い品質でお出し出来るはずですから」

今日のゲストは45人だった。最も多い招待客は豊国建設の関係者で、他には地元の名士数人と商工会議所の代表夫妻、富澤の古くからの仕事仲間が数名、そして勝山夫妻の両親だった。

「よし、それがいい。忙しだろうが良い料理を出そうな。俺も手伝うから頑張ってくれよ」と富澤が激を飛ばす。

「ありがとうございます。こんな大きな仕事をもらえて妻と二人、本当に名誉なことだと喜んでいます。特に私の父親など、今日は紋付袴で来ると言って母を困らせているほどです。
ただ、富澤さんはぜひフロアーで接客をなさってください。料理を運んでくださる程度のフォローはぜひお願いしたいのですが、来賓の皆様にこのレストランの素晴らしさを説明できるのは富澤さん以外にありえません。
キッチンは私達が死守します。他のキッチンスタッフも自分の持ち場は自分で守りぬくという誓を立ててくれています。お約束します」

勝山の父親は横浜にある、とても有名な西洋料理店のコック長を務めていた。年齢は富澤とほぼ同じで、今回の一件は父親として誇らしいことこの上ない話だった。



「菜津子・・・そろそろお客さんたちがお見えになる頃かもしれない。エントランスに行ってご案内を頼む」富澤はそう言うと店の裏にある職員用駐車場へと出た。

「・・・・いよいよだよジュリア。君に約束した『希望の丘』はこれからオープンを迎えるところまでこぎつけた。君の名前がGiuliaだってことがとても不思議だったよ。アルファロメオに興味を引かれ、そして惹かれた女性もGiuliaという名前だったなんて。
あの時から俺はきっとこの日のために働いてきたんじゃないかって思うよ。あのままイタリアに留まっていたら、きっと今の俺はいない。もちろんどこかの料理長に収まることはできただろうけどね。」

富澤は駐車場に佇む2000ベルリーナに声を掛けながらイタリアでの日々を思い出していた。
黄色い猿だと呼ばれ殴り合いになり、鍋で殴られペティナイフが飛んできたこともあった。それでも彼はキッチンから逃げ出すことは無かった。そこだけが彼の居場所だったし、分かり合えなくとも料理でわからせればいいと、固い信念のような思いがあった。

「祐也さん・・・」背後から菜津子が声を掛けた。

「祐也さん、みなさんがそろそろお集まりよ。皆さんあなたの顔が見えないからどうしたんだって。もうフロアーに出てテーブル回りをしてくださいませんか」

そうだった。思い出に耽るのは竣工式とレセプションが終わってからでいい。今は目の前にいてくれるお客さんと菜津子とそして勝山夫妻だけを見ていよう。なんてこった俺としたことが、と彼はセンチメンタルな自分を諌めた。

「いよいよだぞ勝山くん!俺はそろそろフロアーに出る。他のスタッフとともに全力で君たちの晴れ舞台を見せてくれ」富澤は再度激を飛ばすとパントリーからフロアーへ出て行った。

淡いベージュにライトグレーのストライプのユニフォームに漆黒のロングサロンを巻いた菜津子は、誰が見てもとびきり美しく上品な姿だった。
一般のスタッフは開襟の純白のロングスリーブに同じく漆黒のショートサロンだったが、菜津子のユニフォームは責任者の証だった。
招待したお客に挨拶し握手し、大声で笑う祐也の後姿を見て菜津子は思う。

『祐也さん。私はきっとこの店で祐也さんの全てを知ることになるんだわ。いえ、知り得なかったらそれは私の努力が足りないから。
ずっと一緒に働いてきたけれど、私にはいまだにあなたを理解しきれないところがあるの。その答えは全てこの店に埋めてあるんだわ。若いころジュリアさんと約束したっていうことだけは聞いて知っている。
でもそれがこんなに長い時間、大きな力を維持し続けられるなんて私には思えない。心の底にはきっとジュリアさんとの思い出が根付いているのでしょうけれど、祐也さんを奮い立たせているのはまだ別の理由があるんじゃない?
いつか質問しようとしたらあなたは微笑んでその質問を遮ったわよね。きっとその頃の私には説明しても分からない、何か祐也さんのこれまでの歴史を先に私が理解する必要があったんじゃないかって。
あれから三年過ぎたけど、相変わらずあなたにはわからないことがあるのよ。これから時間を掛けて祐也さんを理解するわ』

と、そこに豊国建設の主任設計技師、関口とその奥様がやって来た。

「こんにちは!今日はお招きくださってありがとうございます。これがうちの妻です。
今日はどんな料理を食べさせて貰えるのか、昨日の夜から二人して少し興奮気味なんです。本当にありがとうございます。自分の設計した店がこんなに気になるなんて初めてです」

関口はいつもの作業着から打って変わり、菜津子には初めて見るスーツ姿でやってきた。

「お見えいただけてこちらこそ嬉しいです。富澤はああいう人でしょ?きっと関口様には無理難題をぶつけたに違いないと容易に想像できます。申し訳ありません。
それでも関口様のご尽力でこんな素晴らしいレストランができました。ありがとうございます。お礼を言わなければいけないのは私達の方です。
どうぞ今日はゆっくりとお寛ぎください。関口様の設計したレストランがどれだけ素晴らしいかを、どれだけ沢山の方を喜ばせてくださるかを是非ご自身の目で御覧ください。
あ、もしお料理のお事が気がかりでしたら、どうぞこちらを。テーブルには本日のメニューがそれぞれにお配りしてございます。ご期待くださいませ」

菜津子は幸せだった。こんな気持でお客様を向かい入れることが出来る。まさに此処は自分にとって「希望の丘」であると感じていた。

主賓席には豊国建設の先代の社長、そして奥様、後を引き継いだ現社長と奥様。次の席には営業部長、監督さんご夫妻、建築物の維持管理をお願いする佐伯興業の社長さん。その他にも建築関係のお客様はたくさん来てくれていた。
チーフコックの勝山くんのご両親。そして勝山くんの奥様、美穂さんのご両親もお見えになっている。勝山くんのお父様はしきりにパントリーの方ばかり気になって中腰になっている。きっとキッチンの中が気になって仕方ないのだと、菜津子は微笑みながら近寄っていった。

「ようこそお越しくださいました。フロアーサービスの責任者、川嶋菜津子と申します。
本日はご子息様の素晴らしい料理で、このように沢山のお客様に楽しんでいただきます。
お父様もぜひご子息様の料理をご堪能くださいませ。もちろん富澤が精魂込めて創りあげたこの店の雰囲気と味わいも、きっと料理を引き立ててくれることと思います。
私もその一助になればと、一生懸命サービスさせていただきますから」

勝山の父親の目にはうっすらと光るものがあった。菜津子はそれに気が付き、深くおじぎをしてその場を離れた。

菜津子は思う。このお店だけじゃなく、どのお店もこうやって沢山の人が沢山の思いを込めてオープン日を迎えていることに違いない。だからこれは祐也さんのお店だけの特別なことじゃなく、祐也さんの特別はきっと別なところに在るんでしょう。私はそれを知りたいの。私は祐也さんを愛しているけど、それを判りたい。それを判って愛したい、と。

竣工式は、先ずは祐也の挨拶から始まる手筈だった。そしてその時刻が近づいてきた。
菜津子は自治会長夫妻のテーブルで話し込んでいる富澤を見つけ、声を掛けた。

「祐也さん、そろそろお時間ですわ。ご挨拶をお願いします」

何故か菜津子の声は僅かに震えていた。何に緊張しているのか自分には理解できなかったが、ともかく菜津子は熱いものが胸に迫ってくることを感じていた。

「うん、よし。いよいよか。菜津子さん、皆様に乾杯のグラスをお配りして、他のスタッフにテーブルの飲み物を皆様にお注ぎ出来るよう声掛けしておいてください。頼んだぞ」



関口はずっと窓の外の風景を見ていた。パース絵では描ききれなかったこの店の空気感を、きっと富澤氏は彼の頭のなかで組み立てていたに違いない。外構の植栽の打ち合わせになぜあれだけの長い時間を彼が要求したのかも、いまこうやって客席から見て初めて理解できた。俺は設計士としてはまだ見えていないところがあるんだと、この仕事に関われた幸せを感じていた。

勝山の父はテーブル上のメニューを幾度も読みなおし、自分の息子がこんな素晴らしいメニューを作り上げる事ができることを、俄には信じられない気持ちでいっぱいだった。
母親はといえば、只々自分の息子の晴れ舞台に、喜びと幸せと充実した気持ちを感じ、父親の背中を見ながら今追い越そうとする我が子の成長に、母親としての幸せを感じていた。

様々な人々が様々な思いで富澤の第一声を聞く。
フロアーの中から大股でゆっくりと富澤がセンターテーブルの前に歩み出る。
右手には乾杯のグラスを持ち、軽く微笑んでフロアー全体を見回す。それを合図に菜津子がフロアースタッフに目配せをする。
それぞれのグラスにそれぞれの飲み物が注がれていく。

菜津子は思う。きっとこの乾杯は、それぞれの胸の中にある様々な思いをグラスに満たし、そしてそれぞれがその思いを飲み込む儀式なのだと。
私にもグラスが必要だ。祐也さんが挨拶を終える前に。

『祐也さん、乾杯するわ私。私の思いをグラスに注いで飲み干すわ。おめでとう祐也さん』

センターテーブル前の祐也はチラッと菜津子を見た。菜津子は気づき、軽く頷いた。

祐也のグラスには20年来の相棒、ブルーのアルファロメオとベージュのユニフォームの菜津子が見えた。「希望の丘」は目の前にある。
富澤は顎を引き、挨拶のために大きく息を吸い込んだ。


******************了*****************


う~ん。。。。久しぶりの小説。書きたいことたくさんあったけど上手く書ききれてない。。。

やはり人気なくても時々書かないとダメですね。上達しない自分にジレンマ(´Д⊂グスン

というわけで久々の「アルファロメオの登場する小説」でした(^_^)/
お読み頂き、ありがとうございました。



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