アルファロメオの登場する短編Season14-3 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

病と戦う父、賢治の願いを叶えようとイタリアの小型車、アルファロメオ147の購入を決意した智之。
そして賢治を心から愛する妻、道子の思い。

終末期を迎える賢治の目には一体何が映るのでしょうか。
文中の画像はイメージです。予めご了承下さい。

題:我が心のジュリア

第三章 特別な日

賢治の外泊は拍子抜けするほど簡単に認められた。
しかし移動のコース、宿泊する宿などの詳細は担当医に提出を求められた。同時に血圧と脈拍、そして体温の測定を定時に行い報告することも必要とされた。
そして決して携帯電話の圏外には出ぬよう、事前に通話可能なエリアの中でコースぎめを行うようにも告げられていた。

出発の準備は全て整えた。購入したディーラーでオイルや水、バッテリーのチェック、そしてタイヤの空気圧などは、全てを聞いている国枝の指示の下、入念に行ってくれた。



「親父、いよいよ明日出かけるぞ。朝ごはんが終わった頃に迎えに来るよ。しっかり食べて水分も摂っておいてくれよ」
続けて道子が賢治に声を掛ける

「そうね。お父さんは助手席に座ってもらおうと思ってます。私は智之の後に座るわ。何か用事があったら右を向いてくれれば私が斜め後ろにいるから。安心して下さい」

このところ賢治の容体は安定していた。それは再び車に乗ってドライブが出来るという、その期待感が彼を奮い立たせていたのか、それとも乗る車がアルファロメオだということが影響していたのか、ともかく賢治は二人に向かって軽く微笑み大きく頷くと、ゆっくりと口を開いた。

「ありがとう。俺は嬉しいよ。予約してくれたホテルも、見物する観光地も全て母さんと智之との思い出にあふれた場所ばかりじゃないか。元気な頃にはそんなこと思いもしなかったが、こうやって自分の行く末が見えてくるようになったら、強がることも悲しむことも不要なんじゃないかと思えるようになってきた」
「母さんには、俺の家系は癌で死んじまった者が多いから俺もそのうちそうなるな、なんて良く口にしていたけど、それは今になって思えば言うんじゃなかったって反省してるよ。少なくとも俺は智之の嫁さんに会ってから、できれば孫とやらを持つ身になってからこの世におさらばしたかったな。智之、お前は気は優しいが押しが弱いからな。嫁さんなんて言うのは力ずくで・・・・」

「まぁまぁお父さん、あまり喋ると疲れますよ。あと少しで面会時間はおしまいですから、私達はそろそろ帰ります。準備は全部終わってますから、お父さんの持ち物も全てできていますから、安心して休んで下さいな。さ、智之そろそろ・・・」

「あぁ、そうだよ親父。俺の嫁さんのことを心配するよりも、明日からの旅行に思いを巡らせてくれ。こう見えて俺は人気あるんだぜ。お世辞じゃなくて親父から引き継いだ遺伝子のおかげだけどな」

賢治は智之の最後の言葉が照れくさかったのか無言のまま上掛けを掴み、ゆっくりとベッドに横たわった。

「じゃぁな親父。ゆっくり寝ておいてくれよ。ドライブは今の親父に楽な仕事じゃないからさ」

「そうね。ゆっくりと休んでくださいね。明日も良い天気だそうだから。楽しみだわ」

二人は病室を出た後、何故か一度立ち止まり病室を振り返った。



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翌日、三人を乗せた147は関越道を前橋に向かって走っていた。
ステアリングを握る智之は、改めてヨーロッパの小型車の奥深さを感じ始めていた。
中速度~高速度域での駆動輪の接地感の確かさと癖の無いステアリング特性。そして丁度欲しい分だけ湧き上がる力強いトルク特性。
カタログだけで見比べれば同程度の国産車には及ばない数値であったが、数字だけでは車は測れないことを智之は実感していた。

「親父、親父が乗っていたのは1750GTVっていうクーペだったんだろう?あれからインターネットなどで調べてみたんだけど、あの車ってかなり尖った性質の車だったんだね」

金曜日の昼前だったので高速道路本線は渋滞というほどには混雑していなかった。
その空いた車線をクルージングする147は、まさに駆け抜けるという表現に相応しいドライビングを提供してくれていた。

「あぁ、手こずったことには違いないが運転することそのものを楽しめる車だったよ。70年代後半、当時の日本車では絶対に到達できないドライビングプレジャーを、あのクーペには盛り込まれていたんだ。高速道路が全国に張り巡らされつつあった、あの時代。排ガス規制で牙を抜かれた国産車とは比べ物にならないほど荒々しくドライバーに突っかかってくるような車だったな」

しかしこうして147を運転していても、智之には取り立ててスパルタンな印象は受けなかった。
もちろん不安なところや不満足な点は無い。それどころか初めてのイタリア車という先入観で少し構えていた自分を悔いていた。



「ねぇ、そろそろ休憩にしない?お父さんも疲れてきたんじゃない。それもう少しで病院に定時連絡する時間になるわ」

道子は後席から身を乗り出して、二人の間に顔を突き出すかのようにそう言った。
結果、次の高坂サービスエリアで休憩を取ることになりそれまでの間は賢治に無理をさせないよう智之は会話をやめると決めた。

「親父、少し目をつむってゆっくりしてくれ。S.Aに着くまでは声を掛けないから、眠ってもいいぜ」

147はS.Aに滑り込み、三人は休憩するべく屋外のテーブルセットへと向かった。
幸い賢治はある程度の距離であれば自力で歩くことができるほどの体力は残されており、暖かいお茶を飲んだあとのバイタルチェックも異常がなく、病院への報告でも取り立てて問題となるようなことは無かった。

「・・・いい天気だな。何故か知らんが、こんな当たり前の時間が凄く幸せに感じるよ。休憩を終えて再び車に乗り込んで、次の休憩はおそらく赤城高原辺りだろう。そして月夜野で高速を降りて国道17号へ合流か。しばらく走って見えてくるのは赤谷湖だな。真冬以外ならいつだっていい場所だ。
赤谷湖で昼飯にしょうか」

道子は凄く嬉しかった。この人は私がなぜ今回このコースを進めたのか、その理由を理解してくれている。赤谷湖を過ぎた先にある法師温泉こそが今回の目的地。当時は国鉄のポスターで有名になった温泉だ。ミーハーの賢治はポスターの写真の、あの丸太を渡してある湯船に入ろうと、結婚する前の道子を誘って出掛けたのだった。



道子は随分昔、二人で来た法師温泉へのドライブ旅行のことを思い出していた。

『私は混浴だなんて知らなかったのよ。それをあなたは宿に着くや否や私の手を引いて、風呂に入るんだとたいそうな勢いだったわ』
『湯治に来ていたお年寄りのほかは、若いお客は私達だけ。むやみにお湯をかけると石鹸の泡が湯船に入ってしまうから、ざっと掛け湯をして湯船に入ったら、底は川砂利が敷き詰められて、その間からお湯が湧いてきてた。メガネを外せばいいのに、湯気で曇るのも構わず私の方に近寄ってきて、恥ずかしい、って言ったらプイと横を向いたわよね』
『こんな事になったんだからもうあなたは私と結婚しなくちゃダメじゃないのって、私は本気で怒っていたのよ。あれからあなたは凄く優しくなった。法師温泉へのドライブ旅行こそ、私があなたと結婚するきっかけを作った場所だったのよね』

「・・・母さん、覚えてるかい?ほら、法師温泉へ行って・・・」

「えぇ覚えてるわ。混浴ってことを言わずに無理やり一緒に入ったのよ。忘れるわけ無いじゃない」

「イチナナゴーはよく走ってくれたよ。高速を飛ばしてたら水温が下がり気味になって、サーモスタットの不調かと心配になったがな。俺はそんなことよりも母さんのことばかり気になってたよ」



147は赤城P.Aを過ぎたところだった。この先に赤城高原S.Aはある。
左右から山が迫り視界が狭くなり、しばらく走れば沼田の街が眼前に開ける。賢治は赤城高原S.A近くの、この変化する景色が大好きだった。

『うん。俺はこの景色が見たかったんだ』賢治はリクライニング・ダイヤルを少し回し、シートバックを少し倒して目をつむった。


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はい!第三話はここまで。
きのうは更新できずに失礼いたしました。

高速道路で法師温泉へ向かう三人。賢治と道子にとっては思い出の場所。
実はそこで思わぬ事態が賢治と道子に起こります。。。。それは第4話でのお楽しみ(^O^)

余命僅かな賢治には心癒される時間と空間が待っているのでしょうか。 また明日(^_^)/~~~




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