短く終わらそうと思っていますので、どうぞ最後までお付き合い下さいね。
文中の画像はイメージです。予めご了承下さい。
題:忘れ得ぬこと
第一章 事故
「おふくろ!ダメだって言っただろう、親父に運転させちゃ!またどこかでぶつけてきたみたいだぜ!」
康介は家に入るやいなや、母親に向かって大声で怒鳴った。
「まぁ・・・いつの間に父さんたら出掛けたんでしょう。さっきまで奥の座敷で新聞を読んでいたのに」
怒鳴られた康介の母親、美代子は消え入るような声でつぶやくかのようにそう答え、夫の所在を確かめるべく、奥の間へ向かった。
「ったく、親父は今年89歳になるんだろう?確かに元気で介護サービスなんか不要なほどだけど、もう運転免許なんて返納してくれないかな。危なくって仕方がない。自損事故ならまだしも、ひとさまに怪我などさせたらどうするつもりだ」
「どこに行ったのかしら・・」
どうやら父はやはり出掛けたようで座敷にはおらず、新聞だけが広げたままになっていた。
「母さんもそう願ってるのよ。でもね、何度言ってもダメなのよ。『おれが何年運転していると思ってるんだ。康介の運転よりよっぽど俺のほうが上手いし安全だ』って言ってね。もう最後は喧嘩になるのよ。本当に私もほとほと困ったわ」
「もうあのポンコツなんか売り払おう。誰も一緒に乗りたがらない親父の車など不必要だろう。俺の車をこっちに置けばいい」
事実彼の父の所有する車は大変古い車だった。もちろん以前はその車で家族で旅行にでかけたり、妻の買い物のお伴をしたりすることは常だった。
けれどここ数年和夫の運転はどこか怪しくなり、いつも買い物に行くS.Cまで迷ったり、信号無視しそうになったり横断歩道を渡る子供を見落として、危うく轢く一歩手前だったこともあったりした。
そしてもうこの頃は誰も和夫の車に乗ることはなくなり、母も康介も妹の明美も皆父親の運転免許を返納することを進言していた。
「で、親父はどこに消えちまったんだ?」康介は部屋の奥を覗き込みながらそう訊ねた。
「多分帰って来てそのまま何処かへ歩いて行ったんでしょうね。歩いて行ったのならば、いつものお店かヒロさんのところじゃないかしら」
美代子は和夫の所在を確かめるべく、思いつく相手に電話を掛けることにした。
「もうさ、相談とかお願いとかじゃなく強制的にこっちで処分しちまおう。何しろ運転席側のフロントバンパーが傷になっていて、ヘッドライトも割れているんだぜ。助手席側を当てるならまだわかるけど、運転席側を当ててくるなんて気がしれないぜ、全く。それにあれは左ハンドルだろ?歩道側に目一杯寄れるのは左ハンドルの数少ない利点だけれど、ぶつかるまで寄せるなんてありえないぜ」
康介の言い分はもっともだった。自分の乗る側に障害物が迫ってくれば意識せず反射的に危険回避の行動を取るはずだろう。それがそうならなかったからにはよほどの認知機能低下を疑う必要があった。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20170119/23/alfa1900colli/e0/b4/j/o0800053413849383741.jpg?caw=800)
「・・・そうですか。申し訳ありません。すぐに迎えに参ります。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。それでは・・・」
「え?親父見つかったの?どこにいた?ヒロさんのところ?」
美代子の会話から和夫の居場所が分かったのだろうと康介は理解した。
「・・・・交番よ。二丁目の角の交番ですって。出掛けたはいいものの、どこに行こうとしたのかわからなくなったようで、家に戻ろうとしたんだけれど今度は道がわからなくなって交番で聞いたんですって」
「えぇ!二丁目の交番ってコンビニの手前じゃん!親父、いつもタバコ買いにあのコンビニまで歩いて行ってるじゃないか。何故あそこから帰ってこれないんだい?」
どうやら父、和夫の認知機能はここ僅かの間に急速に低下してきていると思わざるを得なかった。
問題は和夫は自動車の運転をやめることに同意しないばかりではなく、心療内科の受診にも頑なに拒否し続けていることだった。
「康介、母さん交番に迎えに行ってくるわね。父さんが可哀想」
『どうするんだ一体。親父はもう以前の親父と同じじゃないって思わなきゃダメだ。困ったな。俺には認知症に対する知識など全くないに等しい。明美なら分かるかなぁ・・・いや、看護師とはいえ、奴は介護の専門家じゃないしな』
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20170120/18/alfa1900colli/54/66/j/o0698046513849881303.jpg?caw=800)
二丁目の交番で妻の迎えを待っている康介の父、堺和夫は昭和3年生まれの満88歳だった。そして今年5月で89歳になる。
年齢は高いが介護認定は受けておらず、歩行も食事も手洗いも着替えも入浴も全く人の手を借りずに安全にできる。ただし認知機能の低下は昨年夏頃から顕著に見られ、自家用車の自損事故もそれに応じて増えてきていた。
中核症状として「見当識障碍」が現れているのは疑いもない事実であり、失認(しつにん:体に問題がないのに五感による認知力が正常に働かず、状況を正しく把握することが難しい状態)や失行(しっこう:体は動いて運動することが出来るのにもかかわらず、目的とする行動の方法が分からなくなる状態)も顕在化するのも時間の問題だった。
しかし、まがりなりにもマニュアルトランスミッションの車を運転できるということは、それらの周辺症状はまだ軽度であろうと、家族は心配しながらももう少し父の意思を尊重してあげようということで話はまとまっていた。
だが今日まさに和夫は通い慣れたコンビニへの道の途中にある交番で、自分の家に帰る道順がわからなくなるという事態を生じさせてしまった。
家族の中で最も和夫の車の運転について否定的だった康介は、もうこれ以上時間的猶予は許されないと決心していた。
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さて、第一話はここまで。
近頃は高齢者の暴走事故や逆走行為が大きく取りあげられる事が増えました。
考えてみれば当然のことです。今の高齢者は所得倍増計画の産み落とした世代。
車の運転免許所有率は非常に高いのです。
比べて若い世代の免許証保有率は下がる一方で、少子高齢化をそれに重ねると高齢者に拠る自動車事故の実数が多くなることは自明の理。
だからといってほうっておくことは出来ません。康介の家でも今まさにその問題が起こってきています。
さて、堺家の高齢者問題はどのように展開していくのでしょうか。
・・・え?アルファロメオが出てこないって?
まぁまぁ、もう少しお待ち下さい。「アルファロメオの登場する短編」ですからそんなことはありません。左ハンドルっていう表記があったでしょ?
さて今回登場するのはどの時代のアルファでしょうね~ また明日(^.^)/~~~
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