アルファロメオの登場する短編 Season16-3 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

というわけで今回は三部構成ですので、今回でまとめなければなりません。
和夫の乗るアルファロメオ・ジュリアスーパー1300は一体どうなってしまうのでしょう。

文中の画像はイメージです。予めご了承下さい。

題:忘れ得ぬこと

第三章 別離


母親から連絡を受けた康介は仕事を早めに切り上げて帰って来ていた。
妹の明美は夫が帰宅するまで子供の面倒を見なければならず、少し遅れてやって来た。
この話し合いを和夫に聞かれるのは何としても避けなければならなかったので、昼間将棋が終わる頃美代子はヒロさんに今夜はヒロさんの家に遊びに連れて行ってくれないかと頼んだのだった。
ヒロさんは事情を飲み込んでくれ、二つ返事で受け入れてくれた。

「母さん、北斗自動車の北川さんも来てくれるって? ありがたいね。何しろ車のことに関しては僕はさっぱりだ。特に親父のああいう面倒な車なんて言うのは全く持て余すよ」
康介は喜多川社長が来てくれることが何より頼もしかった。修理するにしろ売却するにしろ、自分からすればあんなマニアックな車は専門家にお願いする他ないと。

「こんばんは。遅くなりました」しばらくすると北川がやって来た。
「お話は奥様からお聞きしております。堺さんと家の店はもう50年のお付き合いになりますよ。父が元気だった頃からのお付き合いですからね」
北川は先代の父親から店を引き継いだ二代目。和夫のジュリア・スーパーは先代の頃から世話になっている1973年製の1.3Lだった。
「堺さんのお姿をお見かけしなくなったなぁと思っていたんですよ。それがまさかこんなことになっているなんて・・・」

「北川さん、いいんです。もう父も米寿を過ぎてます。自動車を運転させている私達家族がいけないんです」美恵子はそう言って頭を下げた。
「社長さん、親父のあの車ですが・・・」康介は村上ドクターから注進を受けた計画を北川に告げて、続いて
「・・・で、あの車ですが、私にはあの手の車は持て余しそうです。処分していただくということになっても一体あんな車、売り物になるのでしょうか」

「ご心配なく。親父の題からあのジュリア・スーパーはきちんとメンテナンスしてきました。走行距離こそメーター一周りしていますが、とても45年も前の車とは思えないほど健康です。
ただ、先日ぶつけてしまったフロントライト周辺は早急に修理しないといけませんがね」
北川は苦笑いしてそう言った。

「さて、それではこれからの計画を決めるとしましょう。明日の昼間。ヒロさんにもう一度親父を連れだしてもらって、その間に社長さんに車を取りに来てもらいましょう。帰って来て車がないことを訊かれたら、お袋は表情を変えずに答えてくれよ。いいかい?芝居を打つって感覚でだ」康介はそう言って美代子に念押しをした。

「分かったわ。何だか嘘ついて騙すようだから気がひけるけれど、それはわかってるのよ。でもね・・・」美代子は頭では分かっていたが、完全に納得しているわけではなかったようだ。その理由は康介も明美も知らない理由だった。

「そうだよ。俺だってそうだ。結局は自分の父親を騙すんだから。でもさ、今一番考えなくっちゃいけないのは、親父の安全と俺達の生活を守ること。そして他人を巻き込むことの防止だろう。だからさ、堪えてくれよお袋」康介はそう言うと湯呑みのお茶を一口すすった。

「そうね。私も父さんがこのまま元気でいてくれればそれが一番だわ。お父さんの運転するあの白い車、私は好きだったわ。乗り込んだ時の、あのゴムみたいな接着剤みたいな匂いが懐かしいわ。今でも時々不意にあの匂いを思い出す時があるの。そうすると子供の頃父さんが運転してみんなで出掛けた山や川でのキャンプとか温泉旅行とか思い出すの。凄いのよ。瞬間的に走馬灯のように頭の中を駆け巡るの。そうすると私も柄にもなくセンチメンタルな気持ちになって、斗真や綾香も同じような思い出を持ってくれるのかって不安な気持ちにもなるわ」
明美は夫とのあいだに設けた二人の子どもたちに、自分の思い出を重ねていた。

「それでは北川さん。よろしくお願いします」康介はそう言うと自分の車を出し、父親を迎えにヒロさんの家に向かった。




***翌朝***

「お父さん?まだ寝てるの?そろそろヒロさんが迎えに来る時間よ。タクシーは10時に予約していたから、そろそろ起きないと」美代子はそう言うと奥の座敷で寝ている和夫を起こすべく、ふすまに手を掛けた。
「お父さん?お父さん、聞こえないの?」美代子はすぐに異変に気が付き、誰にいうわけでもなく大声で叫んだ。
「誰か!!誰か来て!!誰か助けて、お父さんが、お父さんが・・・!!」

しばらくの後、隣りに住む吉田さんの奥さんが異変に気づき救急車を呼んでくれた。
「お父さん!お父さん!どうしたの!?ね、しっかりして!!」救急隊が到着したあとも、美代子は錯乱状態だった。

「息子さんと娘さんには私から電話しておきました。おふたりともどの病院に緊急搬送されるか、その連絡を待ってます」隣家の吉田夫人は救急隊員にはっきりとした口調でそう告げた。

「奥さん?ご主人の名前、生年月日、飲んでいる薬とかかかりつけのお医者さんとか分かるものを見せてください!」救急隊員は心臓マッサージとAEDを繰り返し行いながら美代子に訊ねた。

「お父さん!!お父さん・・・・」美代子の声は枯れていた。それでも彼女は和夫の顔の横にしゃがみ込み、耳元で和夫を呼び続けていた。

「確か、和夫さんは病院に行くときは焦げ茶色のクラッチバックをもってお出かけしていたわ。そうよ、確かそうだったわ」吉田夫人は日常的に挨拶をする間柄で、そんな記憶を引き出した。



***救急病院にて***

どうやら和夫は明け方に脳梗塞を発症していたようだった。
長いこと夫婦は別々の寝室で寝ていた。しかし美代子は夜間に数度、和夫の様子を伺って異変がないことだけではなく上掛けを直したり、電灯を点けっぱなしで寝てしまった時には、その電気を消したりと日々そんなことで和夫のことを見守ってはいたのだったが。
脳梗塞は発症後の素早い処置が求められるが、おそらく美代子が発見した時には、すでに5時間近くが経過していたようだった。

「奥さん、緊急の処置は無事終わりました」
搬送された救急病院の医師、石川は見るからにやつれてしまった美代子に向けてそう報告した

「先生。娘の明美です。私は須磨記念病院で看護師をやっております。ですからどうぞ何の躊躇もなく父の容体についてご説明ください。お願いします」明美はいつもの看護師の顔と口調でそう言った。

「・・・場所を変えようか。母さんがゆっくりと座れる場所でないと。。」康介のその発言を聞いた病棟の看護師は、廊下の奥にあるカンファレンスルームへと三人を促した。

「では簡潔にご説明いたします。処置が済んだとはいえ、堺様は非常に危険な状態です。今は人工心肺で命は保たれておりますが、意識は戻っていません。あくまでも可能性の話ですが、堺様はおそらくこのまま意識を取り戻すことは非常に難しいのではないかと思っています」石川医師は三人の顔をまっすぐと見つめながら一言一言はっきりと語った。

「いやぁ~!嫌よ、そんなの。お父さんがもう目を開けてくれないなんて!!私が悪かったの。いつも6時にはお父さんに声を掛けるのに、今朝だけはそれを忘れてた、もし6時に救急車を呼んでいたらこんな事にはならなかったんだわ、私がお父さんを・・・、お父さん、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」
美代子は再び錯乱状態になり、明美は思わず母をしっかりと抱いてあげた。

「母さん、母さんが悪いんじゃないさ。お医者さんが止めるのもきかず酒を飲んだりタバコを吸ったり夜更かししたり。親父の体を心配した母さんが勉強して作った料理だって食べることは無かったじゃないか」
「でもさ、自分の好きなことだけやって来れたのは全てお袋のおかげだよ。親父は古い人間だからそんなことは決して口に出さないけど、お袋のことを一番大事にしてたぜ。俺は聞いたことがある。それも一度や二度じゃない。しかも酔っぱらって言ったわけじゃない。真顔でそう言ったのを、俺は聞いてるよ」
康介は美代子にそういいながらも、実は自分自身に言い聞かせているようだった。



***平成29年5月11日***

「康介、ほらお父さんにお線香を上げて。今日はお父さんの誕生日だからね」美代子はそう言うと仕事に出かける前の康介へ線香の束を差し出した。

「うん。生きてれば89歳だ。この遺影はよく撮れてるね。本当に親父そのものだよ、この写真」
「あ、それとね、俺、今日は半休にしてある。午後には帰って来れるから、夕方から親父の誕生日を祝ってやろうぜ」そう言うとお鈴を鳴らし、仏壇に手を合わせた。

「そんなことなら早く言ってよ。まったくもう男の子は口が足りないんだから」満更でもない様子で美代子はそう言葉を返す。

「あぁごめんな。で、明美も来れるって。今夜はご馳走なんか要らないから、親父が好きだったお袋の料理を作ってよ。茄子とピーマンの味噌炒めとか揚げ出しとか塩サバとか」
康介はそう言うと玄関をあとにした。

仏壇に向かい、正座して美代子は手を合わせて和夫に話しかけた。
「父さん。結局あの白い車はまだこの家にあるわ。あの車のこと、もう少ししたら康介と明美にはきちんと説明しなくちゃね。父さんがずっとあの車を大事にしてくれたのは、本当は私のためだったこと」
そう言うと美代子は目を開けて、昨年の米寿の祝で満面の笑みを浮かべた和夫の写真に向けて微笑んだ。

そう、あのジュリア・スーパーは実は美代子が和夫にねだって買ってもらった車だった。
美代子の父もまた車が大好きな男で、彼女は和夫と結婚するときにいつかはオフホワイトか白のジュリア・スーパーを買うことを約束させたのだった。

「お父さん、やっぱり私ジュリア・スーパーは手放せないわ。あの車にはお父さんのすべてがある。富士スカイラインでオーバーヒートしたり、乗り入れ規制前の乗鞍スカイラインでは下りでエンジンが冷えきってプラグがカブっちゃったり」
「でも、いつでもお父さんは頼もしかった。俺に任せろっ!て腕まくりしてブツブツひとり事言いながら、それでもなんとか直しちゃう。私はそんなお父さんが好きだったわ。運転席のシートとバックレストの凹みはお父さんの体のあと。この前最後に乗った時に吸ってたタバコの吸殻も残ったままよ。車検を継続するかどうかわからないけど、私がきちんとワックス掛けましょう。あんなにたくさん買い込んだワックス、何年使うつもりだったの?使いきらないままに死んじゃうなんて駄目じゃない・・・・」
美代子の頬には細く涙の筋が流れていた。



その時インターホンが鳴り、美代子は我に返った。

「ハ、ハイどちら様でしょう?」

「あ~俺です、ヒロです。今日はカズちゃんの誕生日だからお祝いに来ました」

「あ~ヒロさん。いつもありがとう。どうぞ」

『こうやって生活が少しづつ変わっていく。ヒロさんもこの頃は足がうまく上がらないと、つまずいてころんだことを自慢話のようにしていた。もっとも私だってそうだ。ワックスを掛けるって約束したけど、屋根の上まで手を伸ばすのは正直しんどい』
『この頃は夕飯を用意して明美が仕事の帰りに寄ってくれる。康介もいい加減お嫁さんを貰えばいいのに。50を過ぎて独身だなんて恥ずかしいを通り越して滑稽だわ』
『ヒロさんたら仏壇の前に将棋盤を置いて駒を並べてる。本当に嬉しいわ。康介はきっと時計ばかり見て時間が過ぎるのをヤキモキしているに違いないわね』

『私はといえば時々あの和夫さんの匂いのする車に一人乗り込んで色々な出来事を思い出すに違いないわ』
『父さん、ありがとう。父さんと一緒だったからこんなにいい時間が過ごせた。おとなりの吉田さんも今夜はお線香上げに来てくれるって』

しばらくすると奥座敷の柱時計が10時になったことを告げる。美代子は買い物籠を手に夕飯の買い物に出かけることにした。

「ヒロさん!私買い物に行ってくるからちょっと留守番・・・いえ、お父さんのお相手していてくれます?」

美代子は居間にいるヒロさんにそう声を掛け、駐車場に佇むジュリア・スーパーにも声を掛けた。
『今夜は父さんの好物ばかりよ。楽しみに待っていてね』


********************了*******************


あ~漸く書き上げられました\(^o^)/
実は今日は風邪のひき始めらしく、あまり体調がよろしく有りません。
あとがきはこれくらいにしておきましょう。

ジュリア・スーパー1300は当時のベルリーナがヌォーヴァ・スーパーへと並行する最後の醜いジュリア。
きちんと手入れした無改造のジュリア・スーパー1300が欲しいなぁ  また明日(^.^)/~~~





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