読者さんのnaoさんに刺激を受けて、下書きなしに小説を書こうかと思い立ちました。
ショート・ショートで行こうと決めておりますが、何しろ下書きもありません。。。
しばしお付き合いの程を(^o^)
題:車窓
その1・邂逅
御茶ノ水の駅で降りて聖橋に向かいながら、彰は相変わらず多くの学生が溢れ、談笑する若い女性や友人を呼び止める男子学生の大声などを耳にしていた。
『俺も数年前まではこんな学生だったな、社会人になってからは大学時代の友人にも疎遠になっちゃったし、なんだか寂しいような懐かしいような光景だな』
彰はぼんやりと、そしてとりとめのない感傷のような気分で歩き始めた。
そんな御茶ノ水駅の夕暮れの改札口はいつもの風景だった。
彼はこのあと用事を済ませ再び御茶ノ水から四谷まで乗り一度取引先へ出向いたあと、再び中央線に乗り直して今日は直帰の予定だった。
四谷にある取引先の大同商事は、彰が一人で初めて任された顧客で、お付き合いはもう4年になる。相手方の担当者である榊もその頃から変わらず、しかも彰とほぼ同世代だったこともあり、仕事以外で付き合うこともある関係だった。
「・・・そうならこれで交渉ごとの話しはおしまいで良いね。それにしても田邉さん、あんたはいつも上手い数字を持って来るよなぁ、これなら課長も一言で承諾するよ、きっと」
大同商事の榊は彰に向かってそう言うと見積書の冊子を束ねて封筒に仕舞い、席を立った。
「えぇ、そう言って貰えると嬉しいです。榊さんのところの仕事は部長から権限委譲されているんです。今までのお付き合いを十分に考慮すれば、それほど間違った見積もりも作らずに済みますしね。こちらこそうちの会社の真意を汲んで下さってありがたいですよ」
彰は床に置いたバッグを手に取りながら微笑んだ。
「そうだ、田邉さん。このあとはもう直帰なんでしょう?もう6時ですからこのまま一杯どうですか?」と榊が切り出す。
「えぇ、久しぶりに駅近くのあの店にでも行きましょうか」と彰も快諾して噺はすぐにまとまった。
居酒屋での話題はもっぱら仕事の話だった。
それはもちろん互いの接点が仕事だという関係であったことはもちろんだが、30代になったばかりの二人は今の仕事を通じて、どうやれば自分を磨く手段にできるかということにひたむきな心を持っているからに他ならなかった。
「それにしても田邉さんはもう課長だもんなぁ、いいよなぁ。俺が課長になれるのはもう少し先のことだなぁ、きっと」榊は盃を唇から離しながら、そう呟くように言った。
「いやぁ~、ほら、俺の会社って榊さんの会社とは規模がまるで違うじゃない?だから俺は恵まれてるだけだと思う。榊さんほどの実力があれば、うちの会社なら部長職も狙えると思うんだ、きっと」酒が入っているとは言え、それは彰の本心だった。榊は非常に有能で、彰は彼と出会ってからは仕事の進め方に於いても様々に影響を受けていることを実感しており、男として尊敬できる大事な友人だった。
「まぁな、俺のところの会社は上が詰まっているから、よっぽどデカイ仕事でも取ってこない限りすぐの昇進は望み薄だものなぁ」榊はそういうともう一度盃をあおった。
榊は故郷を離れ中野坂上のマンションを借りていて、会社のある四谷には丸ノ内線で通っていた。彰は実家からの通勤で、住まいは国分寺だった。
一通り飲んで摘んでとりあえずのお開きになり、二人はそれぞれの家へと向かう電車へと乗り込んだ。
四谷を出てどれくらいしただろうか。それほど遅い時間ではなかったが車内には仕事帰りの乗客が目立ち、彰は座席に座ることもなくつり革に凭れかかって窓の外をみるともなく見ていた。
目の前に総武線が並走している。三鷹駅までこうして並走することは日常的な光景だった。
総武線の車内は比較的まばらな乗車で、ドア付近に立つ乗客はそれほど多くはなかった。
ふと彰はその中のひとりに目を留めた。
『え!まさか、そんな。。。。』
思いもしなかった人物の姿を目にして、彰は思わず声に出しそうなほど驚いた。
しかしシルバーに黄色の塗色のその電車は次第に彰が乗る中央線との距離が離れていくとともに、彰の電車は少しづつ加速してその人物を目で追うことを許さないかのように速度を上げた。
『多紀・・・だったよな?総武線の車内でこっちを見ていたのは。絶対に多紀だった。なぜ多紀がこの時間に総武線などに乗っているんだ。あいつはもう三重へ引っ越して、東京にはいないはずなのに・・・』
大学時代に彰とひとつ年下の多紀は友人以上の付き合いをしており、彰は卒業後のことまで考えるほどの間柄だった。
システム工学を学んでいた彰と有機農法を学ぶ多紀はその目指すものこそ違ったが、互いに切磋琢磨できる関係を築き上げることができ、二人の前途には洋々たる未来が見えているはずだった。
先程まで榊と盃を酌み交わしていた彰だったが、程よい酔いと車窓の向こうに広がる夜の闇に流れていく街の灯を見ながら、彰は大学時代に過ごした多紀との記憶を手繰り寄せていた。
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さて第一話の終了です。
ショート・ショートのつもりですが・・・長くなるかもしれません(^_^;)
また明日ね('-^*)/
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