妄想のショート・ショート その2 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

性懲りもなく「小説の・ような・もの」を書きたいなぁなんて思っているのです。

今まで弄した作品の中では、偉大な星新一さんをリスペクトした「雨男」が好きなのですが、今回も同じようにSFチックな内容でお送りいたしましょう~

それでは早速、ショート・ショートで。

あ、もちろん登場する団体や人物、挿絵は架空のものですよ(^o^)

 

題:老人の夢

 

「おぉ・・・先生・・・それは本当か・・・いよいよ儂はこの老いさらばえた肉体を捨て去って、完全無欠な若い肉体を手に入れられるというわけか。。。」

 

手術着を着て執刀台に横たわる高齢の男性。彼は戦後のどさくさで米軍の物品を横流しし、それで得た米ドルを元手に、昭和25年にわずか17歳で闇金融業を興したのだった。

時代はすぐに高度成長期へと至り、彼の資産はまさに倍々ゲームで膨れ上がり次第に政財界の裏社会を牛耳るまでになった。

 

「えぇ、N様ご安心ください。私も貴方と同じような境遇と言ったら言いすぎでしょうか。N様とは親子ほど年が離れていますが、某国立医科大学を卒業してからはアメリカで修行を積んできました。ご存知のようにその頃のアメリカという国は社会保険制度が浸透していなかったんです。いえ、今でさえ十分とは言えません。富裕層の医療については保険外診療が当たり前で、実験的な施術など規制外だったため日本で学んだこととは少々違った技術を習得するに至ったわけです。えぇ、非合法な施術、倫理上制限される施術も何もかも」

「自ずと金は集まりました。次第に金銭などには興味がなくなるほど、私の手元には莫大な資産が転がり込むことになりました。それでも私は不完全燃焼だったんです。医師として通常は倫理観という箍(たが)で締め込まれている欲望を、私はその欲望を発散できる手術を望むようになっていたんです」

 

Q医師は執刀台の傍らに無表情に立ち、N氏へ自己の来歴を抑揚のない喋り方でそう告げた。

 

「先生。儂は今非常に興奮しているんじゃ。すべての老いていく者が切望する、若返りと永遠の命と肉体をこの儂が最初に手に入れられると思うとな。自分でも信じられないほど気分が高揚しちょる。さ、儂はQ先生を心底信用しておるから、手術を始めてくれ」

N氏はそう言うと目を閉じて麻酔をかけられる気構えを示した。

Q医師はたった一人でN氏の顔に透明なマスクをかけ、麻酔用のガスを送り込むバルブを静かに開け始めた。

 

 

**術後2日目**

 

「N様、お目覚めですか。やはり手術はお体に、いえ脳にはかなりの負荷があったようですね。急激な覚醒は神経系へのダメージが心配されるので、通常よりも緩やかな目覚めを試みてみました。いかがですか、気分が悪いとか目眩を覚えるとか、不具合はありますか?」

 

N氏は遠くからおぼろげに聞こえる聞き覚えのある喋り方と声をしばらく判断できずにいたが、やがて若返りの手術を行ったことを思い出していた。

 

「・・・う、う・・ん?Q・・先生かい? いや、気分・・・は・・・悪く・・は・・ない

ただ・・な、体が・・動かん。いや、動かそうと・・して・・も・・動けない・・んじゃ・・・・」

 

N氏は次第に焦点が合ってきた自分の両目を確かめて、目玉だけ動かして部屋の隅々を見回していた。

彼が変化に気づいたのは妙に部屋が清潔なことだった。壁は病院らしく真っ白で、様々なシグナルを明滅させている機械のパイロットランプも眩いばかりの輝度だった。

しばらく後に、彼はこれは持病だった白内障が完治している結果だということを理解した。

Q医師は無数の設備機器が表示する、N氏の現在の身体状況を確認しながら様々な説明を行った。

「Q先生。儂はなんとなく自分の背中や両手、両足の存在を感じてきたぞ。わずかながら指先も動くし、顎も引ける。一度自分の姿をこの目で見たいのじゃが。。。。」

「N様、もう暫くお待ち下さい。まだ体と脳は完全に一体化できていません。脳神経は物理的に結合させることはできないのです。ドナーの若い体が持つ自己治癒力に任せて、脊椎から伸びてきている神経がきちんとN様の脳幹と結びつくまで、そうですね、あと2日ほどこのままお待ち下さい。」

 

Q医師はそういうとN氏の二の腕につながるチューブに催眠作用がある薬液を注入した。

 

**術後8日目**

 

N氏はQ医師に促され車椅子に移乗し、無機質な空間が続く院内の廊下を別棟へと移動していた。その頃にはN氏は自身の体が完全にコントロールできるようになっており、老人性乾皮症で粉を吹くようだった両腕も両足も、みずみずしい若々しい体へと変わっていたことを確認できていた。大胸筋は厚く上腕二頭筋は昔のアメリカの漫画のポパイのようだった。それは腕だけに留まらず、引き締まった腹筋、盛り上がった大腿二頭筋も例に漏れず、これが本当に己の肉体であるのかと信じ難い事実に驚いていた。

 

突き当りの大きなドアのある部屋の前でQ医師は歩みを止め、N氏の車椅子をその部屋へと誘導した。

「さてここです。N様、ゆっくりと立ち上がってあちらへお進みください」

Q医師は車椅子のブレーキを掛け、N氏の右側に介添するように立ち、声をかけた。

指示された方向には大きく四角い、あたかも樹脂でできた棺桶のような箱が横たわり、Q医師はN氏をそちらへと促した。

 

「少々衝撃的なものをご覧いただきます。気分が悪くなったら無理をせずに離れてください」

Q医師がそう言い終わる前に、N氏はその樹脂製の箱に満たされた溶液の中に横たわる老人の肉体を発見した。

「あ・・あれは・・儂じゃ!!」

N氏はそう言うと左足の膝を見つめた。そこには戦後の焼け野原でMPに追われて負傷した傷跡があった。忘れようとしても忘れられないあの傷跡。あのときの痛みと屈辱感こそが、その後N氏を裏社会の頂点へと押し上げた原動力だった。

「・・・先生、儂の体を保存するというのかね。今の儂にとっては大事な記憶の一部ではあるものの、もうたいして未練もないのだ。できることなら処分してはくれないか。。。」

 

N氏はそう言うと再び車椅子へは戻らず、自らの足でゆっくりと部屋を後にした。

 

**術後45日目**

 

N氏はQ医師の実験材料であることを当初から理解していた。このところN氏はフィジカル・ラボのようなところでトレッドミルでランニングを行い、反射テストや要求酸素量の測定、摂取エネルギーと体温の変化などを測定したりと、いわばQ医師のモルモットのような生活を繰り返し続けていたのだった。

 

彼は確かに強靭で健康で何しろ若々しい肉体を手に入れた。

しかしこの頃なにか違和感を感じることがある。今朝もそうだった。それは起床時の洗顔だった。

彼は無意識に洗顔フォームを左手に絞り出し、その塊を両手に広げ直し額から頬、鼻筋からあごまで丹念に洗った。生まれてからそのような洗顔は一度もしたことがなかったのに、洗顔フォームを見つけた瞬間、彼は全く無意識に生まれて初めての行為が、さもそうすることが当然であるかのように洗顔を行ったのである。

とはいえそれは取るに足りないような些末なことでもあるのだが、却ってそのような生活習慣に違和感を感じるのだった。

 

思い返してみればここ数日間は食事、歩行、トイレ、風呂、着替えなどすべての行為が今までに自分とはわずかに異なる「習慣」を表現していることに思い当たった。

彼はもうじきこのラボを出ていくことが決まっている。Q医師との約束では術後2ヶ月は十分なデータ収集に協力する事になっていた。今日は45日め。後15日で再び彼は社会へ復帰する。

そのためにもこの何か胸に引っかかっている「自分が自分でない違和感」を払拭せねばならないと決心した。

「Q先生!少々相談があるんですが」N氏はそう声を掛けるとQ医師を手招きした。

『!!なんだ!今の手招きは!俺は人を手招きするときはずっと掌を下向きにして指先を曲げ伸ばししていたのに、今は掌を上向きにして呼んでいた!!どうしたんだ、俺は俺じゃなくなっているのか!?そんなバカな。若い頃からの記憶は全く変わらずにある。体は違えども、この脳はまさしく俺以外の誰でもないはずなのに』

 

N氏は改めて生活行動のそこここに、今までの自分とは違う自分を確信したのだった。

 

**術後60日目**

 

いよいよ明日はここを出ていく日だ。N氏は今までの人生で相棒と呼ぶべき対象は持ち得なかった。それは騙すか騙されるか、切るか切られるかを文字通り実践してきた人生だったからである。だが彼には部下と呼べる人物はいる。退院を前にメールを送り、今後の生活の準備を指示する相手は居た。

 

「Q先生、明日でここの生活ともお別れだね。俺にとっては長くて楽じゃない2ヶ月だったけど、まぁそれも生まれ変わるための使役だとも思えば致し方ないさ。先生には世話になったな、謝礼は明日部下がきちんと持ってくるから安心してくれ。今夜は退院祝いと洒落込もうじゃないか、なぁ先生」

 

そこまで喋ってN氏は気がついた。俺はいつから自分のことを俺と言うようになったのか。確か以前は「儂」と言っていたような記憶が僅かにある。いや、それは思い違いかも知れない。あまり確固とした記憶ではないから、状況に寄って「俺」と「儂」を使い分けていたのかも知れない、と。

でもそれだけじゃない。なんだか口調が柔らかい。まるでこの体と同じように喋り方まで若返ったような喋り方だ。今までの自分の喋り方はもう少し違っていたような気がする。

 

彼は決心した。

 

「先生!ちょっと俺、確かめたいことがあるんだ。少しだけ一人にしてくれないか」

 

そう言うと彼は例の「かつての自分」が保管されている肉体保存室へと向かった。

ドアは施錠しておらず、彼は2ヶ月ぶりにかつての自分と再開した。

Q医師はなぜこの老いさらばえた醜い肉体を保存しているのか、彼は訝しげに部屋を見渡しながら歩を進め、部屋の後ろ側まで回り込んだとき、そこにまた別な箱が置いてあるのを見つけた。

 

その箱は60センチ四方で横の面には何本かのシリコンチューブが刺してあった。おそらく人工的に作られた血液やリンパ液を循環させて、人体の一部を生存させている様子が伺えた。

そしてその箱に「Donor」と書いてあるのを見て、彼はすべてを理解した。

この箱の中には今の自分の本来の持ち主が保存してあることを。

彼の生活習慣が変わったわけではなかった。この本来の体の持ち主が日常的に行っていた生活習慣は単に脳だけが記憶していたわけではなく、彼の体そのものが記憶していたというわけだ。

だから体を入れ替えた後も俺の脳でありながら、体は体が記憶していた行動を反復して行っていたのだ。

 

俺は一体誰だ。おれは政財界の黒幕のトップと呼ばれた男だった。しかし今はなぜかそんなことにも徐々に興味を失っている。

そればかりか、今この眼の前にある醜い皺だらけの老人性斑紋がいたるところに出ている「かつての俺」の体が愛おしい。俺の左膝にはあのむごたらしい傷跡がなくちゃならない。

人を呪うこと、人を出し抜くこと、金を集めてのし上がること、それだけを追い続けてきた人生が正しかったのかなどと気弱な俺がここに居る。

 

彼は60センチ四方の樹脂製の箱を手に取ると胸元まで持ち上げた。

彼の両腕は自分の意思とは裏腹にその箱をしっかりと抱きしめ、そして何故か涙が止めどもなく溢れ出ていた。

 

「俺は・・・俺はここにいる。そしてもうひとりの本当の俺はここにいる。俺は蘇ること、永遠の命と体が欲しかった。けれどそれはもう本当の俺じゃないんだ」

「一体俺は誰なんだ。シャツは右腕から通すのに今朝は左腕から通して着てた。靴下だって右足から履くはずなのにそれも左足から履いていた。俺は一体誰なんだ」

 

 

Q医師はラボに戻っていた。医師は肉体保存室取り付けられた監視カメラとマイクを通じ、N氏の行動と音声を記録しながら満足気に微笑んでいた。

 

 

 

**************完*************

 

はい!ちょっとホラーなショート・ショートでした。

肉体が記憶を持つってどこかで聞いたことがありました。それを話しの中心に持ってきただけのあまり広げようがないネタですね(^o^;

医療系のお話は下調べをきちんとしておかないと駄目ですね(反省)

 

手慰みに下書き無しで書いたので推敲もしてません。

ちょっと不思議な世界を感じていただけたら幸いです(^_^)/

 

また明日ね('-^*)/

 

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題:【雨男】第1章第2章最終章

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