雨男、最終章 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

さていよいよ『雨男』も最終章を迎えます。
大型のタンカーに救助された乗組員は、無事全員Q王国へ戻る事ができました。
ついにQ王国へ辿り着けたN氏は、はたして雨男としての役目を果たすことができるのでしょうか。

では、いざ、始まり始まり~

「続・雨男」
最終章

一時は皇太子以下、国家の首脳全員が太平洋の藻屑と消えたかと思われていたのだったが、M船長の救助により一人も欠けること無く、再びQ王国に戻ってこれたことは奇跡のようなことであった。
王国で悲観の念に暮れていた国王は皇太子との再会を果たすことが出来たことを至上の喜びと告げ、帰路であったM船長のタンカーに原油を満タンにするというお礼までしたのだった。

「M船長。なんと礼を申せばいいかわからない。そなたの行動はまさに船乗りの鑑であろう。こうやって乗組員全員が再び家族や友人と酒を酌み交わし、互いの無事を噛みしめておる」
「本当にありがとう。僅かな礼しか出来ぬが、私からのささやかな感謝の意として、どうかあの石油を持って帰ってくれぬか。そなたの船の乗組員が何名居るかは存ぜぬが、おそらく数年は仕事をせずとも暮らしていけるだけの価値はあるはずじゃ」
Q国王はそういうとM船長に向けて盃を掲げ、続いて広場に溢れ出た国民全員に向け、もう一度祝杯を掲げた。

「ありがとうございます、国王陛下。しかし私は船乗りとして当然のことを行ったまででございます。それに発見できたのはあの不思議な力を持つN氏のお陰でございます。もしあの島に黒雲が覆っていることがなければ、私はきっと何も気づかず通り過ぎてしまったに違いありませぬ。ぜひともN氏へも褒美をお願いしたく申し上げます」

全員絶望視されていた今回の墜落事故がこのような結末を迎えるとは予想だにしていなかった。
砂漠化が進むQ国王はまずは雨を降らせることが急務ではあったものの、彼らを迎え入れる宴会は三日三晩続き、Q王国の国民全員で生還を祝うとともにM船長たちの勇気と行動力を褒め称えたのだった。

***************数日後****************

N氏は皇太子と相談して、試験的に砂漠の一部を実験場にして雨を降らせることと決めた。

「Nサン イヨイヨ アメ フルンデスカ?」
通訳のP氏はそう言うと砂漠行動用のハマーへと乗り込んできた。



ストレッチリムジンのハマーにはQ皇太子の他、皇太子の側近が4名、通訳のP氏、そしてN氏の7名だった。

「Nサン、コウタイシ カラノ シツモン デス」
通訳のP氏が続けて口を開く。
「ナゼ イマハ アメガ フッテ イナイノ デショウ? ソレニ ユウベモ クモッテ イタケレド アメハ フラナカッタヨ」

確かに不思議なことだった。
N氏がこの王国へ上陸してからは曇りがちではあったものの、雨は降ってきていない。
これでは皇太子の意向は実現できないし、この国へやって来た意味がない。

「Pさん、この国には土着的な呪術師のようなお仕事をなさっている方はいらっしゃいますか?」
「そうです、シャーマンです。僕はこの国に来てからと言うもの、なにか見えない力でコントロールされているような気配を感じるのですが」
N氏はそう言うと皇太子へと顔を向けた。

「そうだ、確かに我が国には古くからシャーマンがいる。作物を植えるとき、新しい家を建てるとき、結婚の義を結ぶときなどなど、すべてのことをシャーマンに尋ね、神の声を降ろしてもらうのがしきたりだ」
Q皇太子はそう言うと古い地図を開き、過去から受け継ぐこの地の厄についてN氏へ説明を始めた。



彼によれば王国の北の果てにシャーマンの住む山があり、先程のような占いを降ろすほかにも外からの邪を払ったりすることも行うのだと聞かされた。

『・・・そうか。俺は外からやってきた厄災の一つだと思われているのかもしれないな』
N氏は面倒なことになりそうだと顔をしかめて、まずはそのシャーマンのことを調べてみようと決めたのだ。

古地図に描かれた山々は緑色で塗られているものの、この絵は描かれてからすでに500年のときが流れていた。
いまではその山々は全て赤茶けた地肌をむき出しにしており、まれに雨が降ったりすれば山肌は削られ土砂崩れを引き起こし麓の街は赤茶けた土石流に飲み込まれることも屡々だった。

皇太子によれば森林減少の一番の原因は、人口の増加に伴う燃料として森林の伐採が無計画に進んだことだったという。
そして森林が減少することで空気中に放出される水蒸気も減り、雨をもたらすことができる森林面積の臨界点を過ぎた途端、それは極端な降雨量の減少を引き起こし一気に森林減少に拍車を掛け、Q王国は砂漠化への道を進んでしまったのである。
その後Q王国は豊富な地下資源を埋蔵することが明らかになり、森林を伐採などとうの昔に行われなくなった。
歴代国王はその潤沢な外貨を利用して幾度も森林の再生を試みたのだったが、天候を変えるでもしない限り古来のような緑豊かな国土には戻れないことを知った。

N氏は古来より続くこの国の歴史の中に何かヒントがないだろうかと、宮殿の近くにある国立国会図書館へ出向くことにした。
古代のシャーマンが描いた壁画には非常に興味深いものも数多くあり、図書館の図録に収められた古代絵画を調べていくうちに、この一枚の壁画の写真のページでN氏は愕然とした。



『これは・・・おそらくこれは俺のことだ。古代の、何代目かのシャーマンが、将来俺がこの国へやって来ることを予言していたんだろう。けれど雨が降って鉄砲水が出ることは森林減少こそがその原因だろうに。極端な少雨は砂漠化を加速度的に進めてしまうのだから、適度な雨は意味があるのではないのか・・・」
『俺ができること・・それは適度な雨を降らすことか・・・そうか。いままでのような降り続く雨ではなく、シャーマンが望むのは適度な降雨量なのだろう。上陸してからずっと彼が俺の力を制限している目的は、一気に長雨が続けば多くの街が酷い土石流に覆われてしまうことを恐れてのことだ』
N氏は自分に与えられた使命を、おぼろげに理解し始めていた。
それにしても「適度な雨」などというのはどうすればいいのだろう。どうすれば適度な雨を降らせる技術を得られるのだろうか。

ふとN氏は、飛行機の中での異常な出来事を思い出していた。
彼が日本を出発するときに、確かに雨は降っていた。けれどしばらくしてジェット機が高高度へと達する頃には雨は上がり、その代わりにジェット機のキャビンの中にはまさに車軸を流すと言わんばかりの豪雨に見舞われたのだった。
N氏は何故ジェット機の中だけ雨が降り、外界は晴天のままだったのかという答えを見つけられたのだ。

『そうか!俺は雨雲ができる高さの限界を超えた高さに上がってしまうと雨を降らせることが出来ないんだ!
それならば俺の居場所は決まった。あのシャーマンが住む、雲海を抜けた高さにある岩山のてっぺんこそが俺の住む場所としてふさわしいんだ!』

彼は皇太子に接見する希望を申し出て、この話を伝えた。

「・・・・そうか。もしやお前はシャーマンの後を次ぐ男かも知れぬな。実は今のシャーマンは今年で96歳になる。いや、きちんとした出生記録などないのだが、彼の話を信ずるのであれば、彼がシャーマンの座についたときに既に私の祖父の子供時代を知っておるほどの高齢だ」
「この国を守り、この国のために生涯を賭けてその役を果たしてくれた彼は、なぜか跡継ぎについてはずっと口を閉ざしておる。そのことを問うと、これからの新たな社会においては彼のような呪術師などに頼らない国造りをするようにと、頑なに私に説くばかりなのだ。もしや彼はそちがこの国へ招かれることを見抜いており、その日が来ることをずっと待っていたのかも知れぬ」

****************3年後******************

やはりN氏はシャーマンが待ち望んでいた男だったようだ。
あの後、彼がシャーマンに会い、握手をすべく手を差し出した途端、その老人は大粒の涙を流しながら「良く 来たな N」と名前まで言い当てたのだった。
N氏が予想したとおり、代々シャーマンが住む場所は雲海を見下ろす山の高みに穿たれた横穴式の住居であった。
雲海が出ているときは下界は薄曇りであるが、N氏が一歩山を下り始めると途端に雲はその黒さを増して、雨が降ってくるのだった。
暫く雨を降らした後、再び洞窟の中へと戻れば、今度は雲海は消え去り灼熱の太陽が顔を出し始める。

彼は皇太子と連絡を取り合い気象変化のリズムを綿密に打ち合わせ、並行して植林や土壌の改善のために持ちうる資金を惜しみなく投入して環境改善に取り組んだ。
その効果は予想以上に早く現れた。僅か三年の期間で禿山だった峰々を古代の地図と見まごうばかりの青々とした山嶺へと変貌させることに成功したのである。
その後彼は日本へと連絡を取り、大学時代の友人のR男を呼び寄せて農業の指導も依頼した。
R男は3年と少し前、N氏に雨を降らせてもらい地元の農作物の乾燥被害を免れることが出来た恩を返そうと、地元の農業指導職員とともにQ王国にやってきてくれた。

『おれは結局日本でもここでも一人暮らしというわけだ。この洞窟は一体何世代のシャーマンが住んできたのであろう。しかもこの洞窟の壁画は人類の遺産と言っていいほど貴重なものだ。俺はきっとQ王国で嫁を貰い、次の世代へこの大事な仕事を受け渡すことが必要だ』
『でもこんな俺のところに来てくれるような女性がいるとは思えない。まあ国賓待遇の約束は守られているから生活に全くの不自由はないけれど、街へ繰り出せば雨が降り続いて迷惑だし、時々顔を出したり引っ込めたりて日差しのコントロールも大事な仕事だ。自由のようでいて実はそうでもない。こんな生活を受け入れてくれる女性などいないことだろう』

頬を撫でる風は柔らかい。峰々を亘る風にはどこからか小鳥の声も運ばれてくる。
同時にその風は、季節ごとに咲き乱れる無数の花の香りもこの岩屋へと届けてくれる。
はじめてこの岩屋にやって来たときと比べれば嘘のような穏やかさだ。

「あぁこれはきっと幸せと呼んでいいのだろう。俺はQ王国のみんなから必要とされ、花も草も木々も小鳥も動物も魚もすべて俺の友人だよ」
「それにしてもこのおれがシャーマンだって?笑わせるねぇ」

相変わらず穏やかな風はN氏の周りを吹き、遊び、そして次の峰へと飛び去る。
はるか下界の遠くには、豊かに実り始めた青い麦の穂が一面に揺れているのが見える。
きっとR男はあの麦の穂一つ一つを確かめながら、その出来に微笑んでいるに違いない。
それもきっと幸せな風景なのだろう。

N氏は天上に煌めく初夏の太陽を眺めながら額の汗を拭った。
『そろそろ夕立を降らせないとな』そう呟きながら。


******************了*****************



はい!完成です\(^o^)/
どうにかこうにか書き終えました。
雨量のコントロールをどうするか、それが一番の課題でした(^o^;
シャーマンという存在を見つけたときには、出口が見えてきました~


久しぶリの小説・のようなもの。
煮詰め足りずに未消化な部分もありますが、まずはこれにておしまいです。また明日ね('-^*)/


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