小説 / 車窓 2 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

訳あって大学卒業とともに別々の道を歩むことになった彰と多紀。

彰は東京で働く事になったが多紀は三重へ仕事の場所を選んだ。

都会の雑踏の中、総武線の車窓で見かけた多紀らしき女性は、本当に多紀本人だったのでしょうか。

 

その2:それぞれの道

 

「水谷君、実験の進捗はどうかな?種蒔きからそろそろ8週間だね。収穫はいつ頃になりそうかな」滝田教授は白衣に身を包みリムレスのメガネを掛けた女性に声を掛けた。

「・・・はい、教授。先に行ったシュミレーションではもうとっくに収穫できるレベルに生育していなければならないのですが、収穫までにはおそらくあと4日~5日ほど時間が必要かと思われます」水谷と呼ばれたその女性は少し残念な表情と低い口調でそう答えた。

「あぁ、やはりまだ改善が足りていないのか。水耕栽培の手順と肥料を溶かし込んだ培養液と二酸化炭素量、それとLED光の照射量とリズムなど、それぞれは間違っているところはないはずなのだがなぁ」滝田教授はそう言うと樹脂のトレイにずらっと並ぶ、くるりと丸くなった瑞々しいレタスに手をかざした。

平成25年当時には、この結球レタスを人工光と培養液で栽培し収穫するには、播種後4カ月程度の期間が必要だった。あれから5年。どうにか2ヶ月程度までその期間を短縮できるようにまでになった。でもまだもう少し連作のインターバルを短縮しなければ価格競争に勝つことができないんだ」滝田はそう言うと再びラボの中へと消えていった。

多紀が、水谷多紀が三重へ移り住んだことは間違いなかった。

三重は多紀の出身地で、それはもちろん彰も知っていた。多紀の実家は代々農業を営む農家だったが多紀は一人っ子として生まれた。子供の頃から祖父や父母の苦労を目にしてきた多紀は、高齢化が進む農業の未来を新しい技術で支えることができないかと、その道を進路に選んだのだった。

ところが卒業を迎える前に父の体に異変があり、多紀は志を遂げられないまま実家へと戻り母の傍で実家の農業を支えなければならなくなったのだった。

その後、農業の再編は多紀の実家のような田舎にも及び、多紀の母は先祖から受け継いだ土地を少しだけ手放して再び多紀を東京へと戻したのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『もう一度会いたい』

それが彰の胸の中で日に日に膨らんでいく。

あの時間、あの列車に乗ればまた多紀の姿を見かけることができるのではないか。

彰は可能な限りあの夜に乗った電車の同じ車両に乗り込んで、並走する総武線に多紀の姿を見つけようとした。

 

そして年も暮れようとする12月の中旬、再び偶然は起きる。

 

《 田邉さん、これから例の得意先へ出かけるんですけれど一緒に行きませんか? 》

昼過ぎに彰のスマホに榊からLINEが入る。榊は以前から彰をその得意先へ紹介したいと言っていた。

《 はい。ありがとうございます。どこに向かえばよろしいでしょう 》彰は今の仕事にとって非常に興味深い相手であることを榊から聞いていたため、矢も盾もたまらずに出向くことにした。

待ち合わせ場所は御茶ノ水駅3番線の総武線ホームの一番前だと告げられて、彰は足早に改札を抜け階段を駆け下りていった。

するとそこには見覚えがある姿の女性が一人で立っていた。そう、間違いない。6年間会うこともなかった多紀がそこに居たのだ。

彰は言葉を飲んだ。声を掛けることにはしばし躊躇ったが、抑えることは出来なかった。

「・・・・あの、スイマセン。し、失礼ですが。。み、水谷多紀さんではありませんか・・」

ところどころ詰まりながら、彰はその女性に声を掛ける。

不意に声を掛けられた女性は非常に驚いたのだったが、彰の顔を見てそれ以上に驚いた。

「え!・・・え!・・・田邉・・さん?彰さんなの?彰さんですよね、そうですよね!!」

彰は突然の出来事に言葉が出なかった。しかも、あと10分もせずに榊がやってくる。

榊が来れば多紀とゆっくり話などしていることは出来ない。思い立って彰は自分の名刺にスマホの番号を書いて渡すことにした。

「これ、俺の名刺。で、これが電話番号だ。話したいことは山ほどあるけれど、今は取引先の方と待ち合わせなんだ。もうすぐその方がここにやって来るから、ゆっくりと話をする時間がないんだ。だからもし今夜時間があったら電話を下さい。8時をすぎれば絶対に電話に出られるから」息継ぎもせずに彰はそう言うと名刺を差し出した。

「うん、彰くんありがとう。本当にびっくりしたんだ。まさかこの広い東京でまた彰くんに会えるなんて。。。今夜ね、分かった。じゃぁ私の名刺も渡しておくね」

そう言うと多紀はIDパスの中から名刺を一枚取り出して彰に渡した。

「じゃ・・・あ、それと・・・」彰がそこまで口にすると、遠くから榊がやって来るのが目に入った。

「うん。待ち合わせの相手が来たからとりあえずあとでね。必ず連絡してね」彰はそう言うとじっと多紀の目を見つめて、そして顔を榊に向けて手を上げ合図した。

 

榊が紹介してくれた会社とは、いわゆる電子機器などをコントロールする「組み込みコンピュータ」を製造するメーカー「トーマス&ソンズ」だった。

簡単に言えばロボット掃除機や様々な炊飯機能を持つ炊飯器に組み込まれた、オリジナルソフトを持つ電子機器メーカーだ。今の世では家庭電化製品のみならず、自動車の燃料コントロール、アクセルの開度、エアコンのフルオート作動、埋込み式のカーナビゲーションなど「埋め込み」は生活の場に蔓延しているのだった。

ミーティングルームには榊と彰、そしてこの会社の技術部長、営業部長、そして榊と親交がある営業1課の綿貫が着座した。

 

一通りの挨拶を終えたあと、営業部長からはこの埋め込みコンピュータの需要の高さと将来性について説明を受けた。

榊はこの会社との付き合いは長く、優れたところも混迷している問題点も知っていた。この会社の今後の飛躍に彰の会社を推薦したのだった。

「・・・で、田邉さんのところには基盤のみではなくそれぞれの「埋め込み」を管理する独自のソフトを開発することが可能かどうかをお聞きしたい。私どもの会社は大手家電メーカーを中心に「埋め込み」をアウトソーシングされているのです。私どもの製品のマーケット占有率はまだ2割程度ですが、この業界をリードするような圧倒的な性能を持つ「埋め込み」を作り出したいのです」営業部長はそう言うと次技術部長からは、より具体的な問題点や今後開発を求められている製品についての説明を受けた。

 

いくら課長職を任ぜられている彰とは言え、こんな話題を即答するような事はできない。

もちろんトーマス側も即答を求めなかった。今日の話題をプリントした資料を彰に渡し、もし受けてくれるのであれば、正式に技術協力関係を締結する書面を取り交わすことを約束してくれた。

トーマス社を出た二人は今日の話を互いに話題にしながら御茶ノ水駅まで戻り、そしてこの日はすぐに帰路についた。

もちろん彰は8時までに自宅へ戻っていなくてはいけない。

多紀からの電話があるかどうか不安はあったが、8時には電話に出られると約束したことを守りたかった。

 

そして期待通り8時丁度に彰のスマホには多紀から着信があった。

この電話が今後の二人の将来をかつてのように、でも少し違った形で再び歩み始めることになるとは彰はまだ知らなかった。

 

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ハイ!今夜はここまで。

第二話ですから、まぁ起承転結の「承」の段ですね。明日はいよいよ「転」の段です(^_^)/

彰と多紀の前にはどんな展開が待ち受けているのでしょう。

どうぞご期待ください。

また明日ね('-^*)/

 

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