今夜はアドリブで描き下ろし(^_^;)
短い中で上手いことできるかなぁ~
題:厚揚げ
1)帰路にて
「家に戻ったら簡単なものでご飯にしようか。旅行中はちょっと贅沢しちゃったからあっさりとしたものがたべたいなぁ」
ハンドルを握り交通量が徐々に増してきた中央道を都内に向かいながら、まっすぐ前を向きながら康介はそう呟いた。
「うん、そうね。でも冷蔵庫に何があったかなぁ。え~と、小松菜と大根と・・・・」
助手席に座る礼子は全行程運転を任せた康介に感謝の気持ちも込めて献立を考えていた。
「う~ん。野菜の身びたしみたいな、そんなものがいいなぁ」と康介。
そろそろ三鷹のジャンクションに近づいた。ここでやや急なS字カーブを抜けると首都高速の雰囲気が増してきて路側帯が狭くなる。
この先高井戸出口で高速を降りて、環状八号線を北上すれば二人が暮らす家はもうすぐだった。
「あぁやっぱり家が良いな。今回泊まった旅館もいい部屋だったけど、やっぱり自分の家が一番落ち着くな」
康介は荷物を片付けながらそんなことを口にした。
「あれ?康介、それって年を取ったっていうことなんだって聞いたよ。三日間の移動中ずっと運転しっぱなしだったからきっと疲れているんだよね。ありがとう」礼子はそういうと洗濯機に旅行中の汚れ物をいれてスイッチを押した。
「でね、礼子。お願いがあるんだ。確か冷蔵庫に厚揚げがあったよね?さっき小松菜があるって言ってたじゃん?小松菜と厚揚げの煮たのが食べたいな」と、康介が声を掛ける。
「良いわね!なんかお腹に優しい感じ。じゃぁさ、この前優子から貰ったキンメの干物が冷凍してあるから、それと厚揚げの煮物とご飯とお味噌汁。あ、旅行で買ってきた野沢菜も開けようか」
礼子はそういうと、康介に運転の疲れを癒やして欲しいと風呂の湯を張るために給湯ボタンのスイッチを押した。
2)食卓
実は康介は先に風呂には入らず礼子と一緒にキッチンに立ち、自分がリクエストした厚揚げと小松菜の煮浸しを作ることを担当していた。
「やっぱり康介の料理はお義母さんの味がする。以前ご実家にお邪魔したときこの厚揚げの煮物頂いたわ。とても美味しくて私もこんな煮物が作れたら良いなって思いながら食べたこと思い出すわ」
「俺ね、そうだなぁ中学の頃からおふくろの作る、この厚揚げの煮物が好物でさ。それって実は親父の好物でもあったんだ。だからおふくろはちょくちょくこれ、作ってたんだ」
「そうか、これは康介の家のおふくろの味、そういうことなんだね」
礼子の大学時代からの友人、優子が送ってくれた金目鯛の干物もとても美味しかった。
彼女は職場結婚して伊豆へと引っ越してしまったのでこの頃はあまり会うことも少なくなってしまったが、事あるごとに伊豆の名産品を送ってきてくれた。
「このね、金目鯛もさ、優子のご主人のご実家のお店で扱っているんだって。お魚も美味しい時期が決まっていて、とても出来が良い干物が出来たからって送ってきてくれたの。ご実家と長くお付き合いがある漁師さんの作った干物らしいわ。きっとこれも優子のご主人のおふくろの味なのかもしれないわね」
礼子はそう言いながら、自分にとってのおふくろの味ってなんだろうかと考えていた。
その言葉を受けて康介はこういった。
「旅行って非日常だから楽しいよね。でさ、こういう家で食べる食事って日常でしょ?こういうバランスがきっと大事なんだろうと思うのよね。だからこの厚揚げはもう俺の家だけのお袋の味じゃなくって、この家の定番料理にしていきたいな」
「うん、それが良いな。子供が生まれるまでにはこの厚揚げの煮物をマスターして、康介の厚揚げじゃなくて私達の家庭の味にしたいな」
康介は礼子の言葉に微笑んで食事の片付けに席を立った。
洗い物を済ませば風呂に入ってさっぱりとしよう。礼子が言うほどは運転の疲れは無かったけれど、やはり湯船にゆっくりと足を伸ばして湯に浸かるのは幸せな時間だった。
礼子は康介が洗ってくれた食器を拭き上げながら今回の旅行のことと、帰ってきてからの会話を思い返していた。
『長野の旅行ももちろん楽しかったわ。初めて尋ねた場所ばかりだったし、歴史オンチな私でさえ聞いたことがある有名なお寺さんや神社にも行けたし』
厚揚げなどというとても身近で見慣れた食材ではあったが、礼子はなにかとても貴重な食材に思えてきた。
康介が言う日常の生活ってこういうことなのだろうとなぜか不思議な実感があった。
その時康介の声が礼子を呼ぶ。
「お~い!もう片付いた?俺そろそろ上がるからさ、お風呂の準備して礼子もお風呂に入ってね」
全く何という絵に書いたような日常会話なんだろうって、何故か礼子は可笑しくなって声を出して笑ってしまった。
「は~い!分かったわ。下着出てるからちゃんと着てから出てきてね。裸で出てこないでね」
リビングのテレビが23時のニュースを告げる。早く入らないと下の階の方に迷惑になる。
日常って大事な時間だし空間だわ。康介も私ももうそんなことを気にする歳になったってことね。
「お~い!早く入りなよ。早くこないと裸で出ちゃうぞ~!」
そんな声に礼子は再び可笑しくなって『馬鹿な人、いつまで経っても子供みたいな康介』と呟いた。
気がつけば暖房がいらないほど暖かな夜。もうファンヒーターもしまう準備をするタイミングかな。
春爛漫の季節になったら、今度は伊勢志摩にも行ってみたい。
康介は6月生まれ。誕生石は真珠だから。
そんなことを思い巡らせて礼子は康介に声を掛ける。
「は~い!ちゃんと下着とパジャマ着てきてね。厚揚げが大好きな康介くん!」
今夜は心静かに眠りにつけそうな気がする。礼子はほほえみながら脱衣場に向かった。
**********了**********
ってことで久しぶりの超ショートショート。
下書きもなしに書いてしまう無鉄砲さをお笑いください(^o^)
また明日ね(^O^)/~~~
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【ある無名な男の生涯】その1・その2・ その3・その4・その5・その6・その7
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