ある無名な男の生涯 Season1 | 社会不適合オヤジⅡ

社会不適合オヤジⅡ

好奇心、いよいよ旺盛なもので・・・

小説を書くのって久しぶり。もちろんそれはぜひ文章に残したいという情熱が足りないのでしょう。

今回は初めての挑戦で、場面設定を古い時代にしてあります。

主人公の生い立ちからその後の人生を書いてみようかと、毎日更新はできないかもしれませんが長編になるのではないかと思います。

 

題:『ある無名な男の生涯』

 

第一章・・菅村の彦蔵

 

はじめに言っておこう。

この物語は歴史に名を残すこともなかった、幕末から明治を生きた男の物語だ。

無論、彼は後年の誰かに何かを伝えたいとか、教訓を残したかったわけではなかった。

 

物語の主人公、彦蔵の生まれは関東の北、生まれ年は安政5年(1858年)12月だったと、寺の過去帳に記されている。

父親は源蔵、母はトミ。裕福な家系ではなかったため寄進もできず、名字を名乗ることは許されていなかったようだ。

村の名前は菅村と言う名前で、古老によれば菅村の源蔵とか菅村の彦蔵などと呼ぶのが、名字のない村人の呼称だったらしい。

 

彦蔵が生まれた家は今の時代から考えれば、家と呼ぶのにはあまりにも質素なものだった。

無論農家、いや百姓が生業であり、ときおり藩の役人が荒れ地の開墾や街道の普請などの仕事を持ってきたときなどはそれで僅かな現金を得るような暮らし方だった。

幸いにも湧き水が豊富な地域だったため、田畑への水利については村長(むらおさ)の管理のもと、厳格に引き込みのルールは守られていた。

殺生はあまりおおっぴらにできる気配ではなく、時期によっては兎や雉などを罠で捕まえる程度の狩猟を行う程度だった。

彦蔵が3歳になった年、彼の妹が生まれた。名はゑいと付けられた

それまではいつもトミの背中にくくりつけられていた彦蔵もその居場所をゑいに取られ、夏などは腹掛け一枚でずっと過ごすようになり、裸足で田んぼや畑を駆け回るようになった。

 

「おっかぁ!」まだ片言ではあったが、トミのことをそう呼ぶようになり、トミはその発声の加減で腹が減ったのか珍しい生き物を見つけたのか、それとも小便を漏らしたのかなどわかるのだった。

「あんだ?彦蔵、しょんべんか?それなら畦を上がって草むらの中へでもすりゃぁいい」

「おっかぁ、おれ、帰(けぇ)る!」

そう言うと彦蔵は踵を返し一目散に家に向かって走り出した。

「あんだかなぁ、へんな坊だ。家になぞ帰ってもなぁんも面白いことなぞありゃせんのにのぉ」

彦蔵は数日前、裏の物置にある粗末な箱の中に見たこともない物が入っているのを見つけ、それが何なのかわからないものの、おっ父(とう)やおっ母(かあ)との暮らしにはそぐわない代物で、それを手にしているとなにか後ろめたいような好奇心が湧いていた。

 

その日の夜、源蔵は湯飲み茶碗にどぶろくを注ぎながら妻のトミに声をかけた。

「トミ、彦の野郎がな、俺はこの頃ちょっと気に入らねぇ・・・」

「なにさ珍しい。あんたはこんな貧乏をしていても初めての子が男の子で、俺にも世継ぎができたって喜んでいたじゃないか。一体どうしたっていうのさ」

「おめぇ、彦の野郎がさ、裏の武具を見つけちまったこと、知ってるのかい?」

「あ、やっぱりそうかい。今日もな、田んぼでカエルやバッタと遊ぶのかと思ったら、ぷいと家に帰るって行っちまったのさ。道理でそういうことか。。。」

「そういうこと、じゃねぇだろう!あんなものを年端も行かねぇ彦が面白がって遊びの道具にでもしたら上手くねぇってことよ」

「そうさねぇ・・・今更捨てちまうわけにも行かないしねぇ。ともかくあんたさ、彦蔵にさ、金輪際あれに触ることは許さねぇって説教してくんなよ」

 

源蔵の家にある武具は曽祖父の頃に手に入れたものだった。太刀と脇差の一揃い、甲冑と手甲、脚絆そして粗末な作りではあるが兜もあった。

ある日曽祖父が山仕事を終えて帰路に差し掛かった時、杣道にうずくまる落ち武者に出会った。

どうにか話ができることもあり、とぎれとぎれに語るその武者の弁によれば、その落ち武者は藩主の命を受け戦へと向かった下級武士の一人だったという。

この頃、天明6年(1786年)には箱根山を中心に2日に亘り100回を超える群発地震があり、江戸では大した被害はなかったものの、江戸への参入路としての東海道の宿場町は大混乱に陥り、北関東とはいえ曽祖父の周囲でも世情は不安定だった。

そんな中、十数名の下級武士が藩主に呼び出され村の警護へと赴いたのだったが、小さな噂話が暴動を引き起こし隣村から少数の武士が攻め入り、局地的な戦闘へと変わっていったとのことだった。

曽祖父の清右衛門は彼を自宅へと連れ戻り、出来得る限りの看病と手当を行ったが3日目の明け方、その落ち武者は息を引き取った。

ねんごろに弔い、裏山に塚を立て目立たぬように墓も設けたのだった。

今、源蔵の納屋に眠っている古ぼけた武具は、その時の下級武士が身につけていた装具の一式だったのである。

 

「・・・・・そうさなぁ、やつも男子(おのこ)だ、侍の持ち物だってことぐらいは教わらなくとも自ずからわかるのかもしれぬなぁ。切ったり切られたり、そんな時代はとうの昔に終わって、今の家茂様の時代は侍さえ剣術の練習が疎かになっていると聞いている。しかし、だ。一朝招集が掛かれば俺たちだって藩主様のところに馳せ参じることは免れねぇ、あの武具は爺さまから引き継いだ大切なものだ。泰平な世の中が続いているとはいえ、捨てちまうわけにはいかねえしなぁ・・・・」

 

源蔵は解決の筋道が整わないうちいつの間にか横になり、そのまま寝込んでいた。

そしてこの彦蔵の持って生まれた好奇心の強さが、彼の人生を左右することになるのだった。

 

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時代劇のような題材は初めての試みです(^_^;)

幕末から明治へと時代が変わるその狭間で、貧困の中からもがき出る彦蔵の話が上手く描ければいいのですが。

まだまだ先が長くなりそうです。途中で頓挫しないように仕上げていきましょう。

また明日ね('-^*)/


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