back numberの「わたがし」にインスパイアされ、書き下ろしのショートショート。
残念ながらフィクションです(笑)
題:綿菓子
子供の頃は夏休みなんて永遠に終わらないような気がした。
そして8月に入ると、あちらこちらで盆踊りの祭提灯が飾られ始めるんだ。
西の空を赤く染めて太陽が沈んでいくのを待ちきれなくて、祭囃子の笛や太鼓の音に惹かれ、悪友たちと自転車を連ねて神社近くの原っぱに向かう。
家で使っているような擦りガラスではなく、透明で中のニクロム線が真っ赤になっているのが見えるとてつもなく明るい裸電球がいくつもいくつもぶら下がって、その眩しさは夕闇に慣れてきた眼を射抜くんだ。
焼きそば、ヨーヨー釣り、りんご飴、ハッカパイプ、快傑ハリマオや鉄腕アトムのお面、そして、そして綿菓子。ふわっとした青や赤や黄色の綿菓子が好きだった。
地元のお祭りに女の子と二人で出掛けるなんて到底できるわけはないし、そもそもそんな関係性の友人はいなかった。
もちろん地元のお祭りだから、人混みの中に同じ学年の知った顔は何人もすれ違う。
田舎の小さな盆踊り。
駄菓子のような普段買える些末なお菓子を何故か買ってしまって、あとになって悔やんだりもするんだ。
浴衣なんて動きにくいから誰も着てこない。
それなのに隣のクラスの女の子が家族と一緒に、それも全員浴衣で神社に向かう石畳を歩いているところを見たんだ。
妹らしき小さい子はヨーヨーをブラブラさせて母親に綿菓子をねだってた。
そして姉である彼女の手には透明なビニール袋に入った赤い綿菓子。
不思議な光景だった。「見惚れる」などという言葉は、その頃の自分には持ち合わせていない言葉だった。
その刹那、一緒に来た悪友の声にとっさに振り返り、理由もわからず彼女たちが歩く方向とは反対の向きに速歩きで走り出したんだ。
あのふわふわと揺れる赤い大きな綿菓子は今でも覚えてる。
窓をあけると住まいの近くで夏祭りの準備のざわめきが風にのって聞こえてきた。
今はもう実家から離れてしまい、あの頃の悪友たちとも疎遠になってしまった。
それでもこの季節になると、あの同級生の浴衣姿とパン!と膨らんだ大きな綿菓子を思い出す。
彼女とは進学するまでついぞ一度も話などしなかったけれど、その姿は遠い夏祭りの光景となって自分の中で残り続けてる。
また明日ね(^O^)/~~~
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