コロナ対策敗因残した中国返還２５周年　香港

コロナ対策敗因残した中国返還２５周年　香港
現地高官を隔離、習近平氏の宿泊は深圳で厳戒
「一国二制度」折り返し多難

中国の習近平国家主席は６月３０日午後、香港の英国から中国への返還25周年記念式典に出席するため、香港に隣接の中国広東省深セン（土ヘンに川）市から高速鉄道で香港を訪問した。習氏の香港訪問は５年ぶり。習氏が中国本土から出たのは、新型コロナウイルス感染が広がった２０２０年１月下旬以降、初めて。（深川耕治）

▲６月３０日午後、香港側の西九竜駅で手を振る習近平国家主席（中央）と彭麗媛夫人

習近平国家主席は「２５年」と刻まれたマスク姿で陸路での到着後、香港側の西九竜駅で演説し、「香港は緊迫した試練を経験したが、困難の中からよみがえった」「私の心、中央政府の心は香港同胞と共にある」と語った。2019年の民主派による大規模デモ後に国家安全維持法を施行し、「一国二制度は強大な生命力のある良い制度だ。今後も揺るがずに維持していく」と香港統治が軌道に乗ったことを強調した。

▲香港入りした習近平中国国家主席と彭麗媛夫人、香港政府高官はいずれも「２５年」のマークが入ったマスク姿に

習氏は７月１日午前、英国から中国への香港返還２５年の記念式典と李家超・次期香港行政長官の就任式に出席する。習氏の訪問は６月３０～７月１日の２日間のみ。返還２０周年の際は３日間の日程だったが、一日あたりの新型コロナウイルスへの感染が１０００人超、確認されている香港は中国式のゼロコロナ政策が通じていないため、特別な厳戒態勢となった。中国政府が盛大に「困難からよみがえった」と誇示しても、コロナ対策での感染収束には及んでおらず、香港は感染被害が深刻化している。

▲６月３０日、香港返還２５周年を前に演説する習近平中国国家主席

習氏は香港には泊まらず、３０日は香港政府高官や各界関係者らと面会した後、深センに戻って宿泊。１日朝に再度香港入りし、記念式典に出席する異例ずくめのスケジュールとなった。習氏への感染防止を優先した措置で、３０日に予定されていた香港政府による歓迎夕食会も、新型コロナ対策を理由に取りやめになった。

▲６月３０日、習近平国家主席と記念撮影する香港政府高官や各界代表者たち（香港政府新聞處）

習氏の香港訪問を実現するため、迎える側の香港の林鄭月娥（キャリー・ラム）行政長官ら高官や各界代表者らが事前に一週間にわたってホテルで隔離。習氏を感染させないため、異例の厳戒対応が取られている。

▲６月３０日、香港の発展状況を説明する林鄭月娥香港行政長官と習近平中国国家主席（右端）＝香港政府新聞處

▲６月３０日、香港を視察する習近平中国国家主席（左）と林鄭月娥香港行政長官（香港政府新聞處）

1997年の返還時に「50年間維持する」と約束された一国二制度は、折り返し地点となったが、政治や社会の各方面で中国本土との一体化が進む。７月1日には民主派への強硬姿勢で知られる李家超氏が政府トップの行政長官に就任し、香港の「中国化」はさらに加速する見通し。民主派の声はメディアでは廃刊を余儀なくされ、国家安全維持法に抵触することにおびえ、ほぼ反映されなくなって黙り込んでいる。

警察出身で保安局長の経験もある李氏は、習近平国家主席がその忠誠心を高く評価する「愛国者」。就任後は、国家への反逆行為を処罰する「国家安全条例」制定や愛国教育の推進など、中国に都合の良い政策が多く実現するとみられている。

【香港の統治をめぐる歴史】

１８４２年　アヘン戦争に勝利した英国が、南京条約で香港島を獲得

１８６０年　北京条約で九竜半島南部も英国に割譲

１９８４年　中英共同声明。１９９７年の中国への返還が決まる。返還後も「従来の資本主義制度と生活様式を保ち、５０年変えない」とする

１９９７年　香港返還

２００３年　国家安全条例案に反対する５０万人デモ。廃案に

２０１４年　普通選挙を求める「雨傘運動」

２０１９年　逃亡犯条例改正案に反対するデモ。最大２００万人にも

２０２０年　香港国家安全維持法が施行される

２０２１年　元民主派議員らが次々と逮捕される

２０２１年　「リンゴ日報」やネットメディアが弾圧を受け、廃刊・閉鎖

２０２２年　警察出身の李家超氏が新行政長官に就任