白色テロ憎悪の連鎖、親中派も増幅 香港 民主派デモ隊に暴行 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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白色テロ「憎悪の連鎖」、親中派も増幅 香港
民主派デモ隊に暴行、混乱

 「逃亡犯条例」改正案をめぐる抗議活動が続く香港では抗議を主導する民主派の中でも急進的な若年層と政府や警察を擁護する親中派の対立が深まり、暴力行為に発展している。香港政府は早期沈静化をめざすが、政権弱体化で長引けば、11月の区議会選で民主派が優位になるとしても景気低迷で来年1月の台湾総統選には与党・民進党には不利に風向きが変わる可能性もあり、予断を許さない。(香港・深川耕治)

 

対立先鋭化で景気低迷も
長引けば台湾総統選に影響

 

▲香港北西部の元朗駅で白いTシャツの集団が棍棒で黒Tシャツの民主派の人々を次々とたたいて血だらけになる場面も

 

中国広東省深圳に隣接する香港北西部エリアにある元朗駅構内。

 

7月21日夜、改正案の完全撤回を求めるデモに参加した黒Tシャツを着た香港市民らが、突然、白いTシャツ姿の棍棒を持った数十人の集団に襲撃された。45人負傷、うち1人重体。元朗区は少数民族や新移民が増え、犯罪率が高い。14年の雨傘運動の時も民主派への襲撃事件は起きており、民主派に批判的な勢力に雇われたグループとの疑念が消えない。

 

▲元朗駅周辺で棍棒をもって民主派を狙い撃ちする白Tシャツ集団

 

国民党独裁体制下の台湾で民進党など野党関係者に対して行われた暴力行為が「白色テロ」だが、権力者が政治的敵対勢力に対して行われる暴力的な直接行動を指して言うとすれば、これは、香港の白色テロと言える。

 

黒服で黙々と逃亡犯条例案に反対するデモを行っている香港のサイレントマジョリティ(沈黙する大多数)に対して、これをぶち壊したい白Tシャツ集団の白色テロによる暴動、暴行行為だ。

 

香港では、強烈な脅迫で弱者をつぶすため、黒社会(暴力団)を使って白色テロを起こすことがよくあるが、今回は露骨過ぎた。

 

▲白Tシャツ集団のメンバーらと記念撮影に応じる親中派の何君堯立法会議員(中央)

 

香港メディアによると、集団はバスで計画的に現場入り。白Tシャツ集団に親中派の何君堯立法会議員が「ご苦労様」「君たちは英雄だ」と激励して握手したとされ、証拠画像もネット上で出回っているが、「たまたま知人と握手しただけ」と否定している。

 

▲21日夜、白Tシャツ集団のメンバーと握手を交わす親中派の何君堯立法会議員(左)=香港のネット画像より

 

7月23日、何氏は香港の公共ラジオテレビ局「香港電台」の番組に出演した際も民主派の朱凱廸立法会議員に反対デモの中止を求め、朱議員が拒むと、勝手に番組を中途退出。その後、自分の祖先の墓地が何者かに荒らされ、「朱支持派の仕業。番組出演時の一万倍の憤怒だ」と語っている。

 

▲香港の公共ラジオテレビ局「香港電台(RTHK)」の討論番組で民主派の朱凱廸立法会議員(左端)に抗議デモ停止を求めた親中派の何君堯立法会議員(中央)=RTHKの画像より

 

▲香港の公共ラジオテレビ局「香港電台(RTHK)」の討論番組で民主派の朱凱廸立法会議員(左)に抗議デモ停止を求めた親中派の何君堯立法会議員=RTHKの画像より

 

▲親中派の何君堯立法会議員は自分の祖先の墓を破壊されたのは民主派の朱凱廸立法会議員の支持者の仕業だと非難

▲親中派の何君堯立法会議員は自分の祖先の墓を破壊されたのは民主派の朱凱廸立法会議員の支持者の仕業だと非難。黒社会(暴力団)との関わりを「官黒勾結」と黒スプレーで書かれた

 

親中派は7月20日、民主派の抗議活動に対抗するため、主催者発表で31万6千人(警察発表は10万3千人)が参加する大規模集会を行い、中国国旗を掲げて香港政府や警察を支持する中国回帰の祖国愛と忠誠を「警察がんばれ」とアピール。その勢いが翌日の襲撃事件に繋がったとの見方も根強い。

 

▲7月20日、親中派が行った守護香港大連盟の集会。主催者発表で31万6千人(警察発表は10万3千人)が参加

 

 

▲7月20日、親中派が行った守護香港大連盟の集会

 

一方、香港の民主派団体「民間人権陣線」は7月21日、「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模デモを再び実施。約43万人(主催者発表、警察発表は13万8千人)が参加した。同デモの参加者の一部である千人超の若者らが中国政府の出先機関前で初めて激しい抗議デモを行った。

 

▲催涙弾に逃げ惑うデモ参加者たち

 

▲催涙弾をデモ参加者に打ち込む香港警官隊


香港にある中国政府の出先機関「中央駐香港連絡弁公室」(中連弁)の前に集結し、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、革命の時だ)」とシュプレヒコールを上げ、建物に卵を投げつけ、中国の国章に黒い液体をかけ、抗議活動を行った。スローガンは中国からの香港独立を志向する運動家の梁天琦氏(暴動罪で収監中)が使っていた表現で急進的な若者らに強いカリスマ性を持つ。

 

▲催涙弾に逃げ惑うデモ参加者たち

 

今月に入り、若者らと警官隊の衝突が常態化し、催涙弾使用や逮捕者増でさらに抗議行動が先鋭化。いら立ちを深める若者の批判の矛先が香港政府だけでなく、中国政府にも向けられた形だ。中国政府が今後、香港政府に若者に対する取り締まりの強化を要求する可能性がある。

 

中国の一党独裁による愛国、忠誠を求める親中派と一国二制度の民主化と普通選挙実現を訴え続ける民主派の「憎悪の連鎖」は、香港社会に大きな亀裂を生む。増幅すればするほど、先鋭化して収拾がつかないばかりか、中国の統治能力に大きな疑問符がつき始める。

 

▲レームダック(死に体)状態になった香港トップの林鄭月娥行政長官

 

香港トップの林鄭月娥行政長官は非公式に中国政府へ辞任を申し出たが拒否されたとされ、求心力が大きく低下。レームダック(死に体)状態が続きそうだ。習近平指導部も中央政府が指名した香港トップへの指名責任を恐れ、習氏の国家元首としての権威と面子をつぶす懸念があるので、「外堀が冷めるまで辞任は保留。できるだけ2022年の一期終了時までは引き伸ばしたい」(香港の親中派団体幹部)と見ている。

 

11月の区議会(地方議会)選挙に向け、有権者登録した人は返還以来、最多の約35万人となり、若者の新登録者数が急増。国家安全条例案の廃案を求めた2003年時と同様、民主派が議席増する動きとなっており、20年秋の立法会議員選挙も控え、親中派は危機感を募らせる。

 

▲香港警官隊に花で応戦するデモ市民

 

懸念されるのは、大規模デモが長引くことで消費に悪影響が出始め、小売の業績が減り、レストランや旅行業界も厳しくなっていることだ。6月上旬以降ほぼ毎週末起こり、地域中心部から郊外ベッドタウンまで広がっている。香港の化粧品や宝飾品などの販売大手では4~6月期の既存店売上高が前年から1割超減少し、まだ限定的だ。

 

しかし、長引けば、金融・不動産市場にまで影響が及び、深刻化する恐れがある。来年1月の台湾総統選で与党・民進党が香港の民主化を支持し、一国二制度を受け入れない姿勢で支持率がアップしていたとしても、香港経済の低迷が続けば、台湾の有権者の見方も反中一辺倒では説得力がなくなり、急速な支持率回復は見込めなくなるリスクを孕んでいる。

 

 

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