香港「自治」の行方 連載第8回
梁家傑公民党名誉主席に聞く(下)
若年世代の台湾との政治交流深化
一国二制度の破壊許さず
――香港の雨傘運動を主導した新党「香港衆志(デモシスト)」の羅冠聡党主席や同党の周永康副秘書長は6月1日、台湾入りし、台湾のひまわり学生運動を行った台湾与党勢力である新政党「時代力量」の林昶佐(フレディ・リム)立法委員と討論して活発な交流をしている。今後、香港と台湾の若者の交流は香港政局にも影響を与えるか。
雨傘運動を主導した香港大学生連合会(学連)秘書長だった周永康氏や羅冠聡氏、香港の学生団体「学民思潮」秘書長だった黄之鋒氏(香港衆志秘書長)らは台湾総統選の前から台湾の学生団体や若年層グループとの交流を盛んに行っている。総統選でも現場を細かく視察し、一部には個人的なつながりを持っている。公民党でも台湾与党の民進党と最大野党の国民党とも交流をしていて、とくに台湾が蔡英文政権となり、香港の民主派政党と台湾与党・民進党との政治交流は密接になっていく。中国共産党の圧力は「きょうの香港は明日の台湾」と見られていて、香港での経験、台湾での経験をうまく共有していくことになる。
――台湾は蔡英文政権になり、中台関係は香港から見ると、どう変化していくか。
中国政府の香港への政治的圧力を緩衝材にして台湾への圧力を減らしていくということだ。中台関係については香港からはとくに提言はできない。
――同性愛者の差別撤廃条例の制定や同性婚について公民党はどう対処するか。
同性愛者の差別をなくす動きには人権と平等という立場から公民党は賛成している。7月一日の民主派デモでは公民党の一部のスタッフも参加して同性愛差別撤廃を訴えている。同性婚については賛否について十二分に討議して結論を出す必要がある。
――英国のEU離脱は香港での独立論の動きや立法会選への影響はあるか。
英国のEU離脱は香港への直接的な影響はない。立法会選の有権者に望むのは反対のための反対ではなく、当選して立法会でどんな法案を通していくか。英国の問題はその重要性を学んだことになる。
――来年7月に香港が返還20周年を迎える時、中国の習近平国家主席が香港を訪問する際、迎えるべき香港行政長官は来年3月の行政長官選でだれが当選するかで決まる。梁振英行政長官が再選することがふさわしいか。
行政長官は他の人物に変わるべきだ。香港の地上波テレビ局は新たに香港電視網絡が免許申請しても却下され、ATVは継続と許可されず、放送を終了している。香港大学副学長の人事介入問題、公務員のモラル低下問題など行政長官の手腕が足りない部分が大きすぎる。新たな香港トップが一国二制度を堅持して中国本土にも良い影響を与えるようにしてほしい。
――来年は中国返還20周年で一国二制度50年の5分の2が過ぎる。一国二制度は矛盾と評価は。
普通選挙改革案を否決にするために立法会議員の4割が反対票を投じたということは、まだ、香港は何が真理で何がニセモノか見識眼を持っている。一国二制度の期限は2047年6月までで31年しか残っていない。不動産ローンも30年ローンがあるわけで、そろそろ討論して最終結論を出さないといけない時だ。(聞き手・深川耕治、写真も)
【梁家傑(アラン・リョン)】1958年、香港生まれ。香港大学卒業後、英ケンブリッジ大で法学修士号取得。香港弁護士会会長などを経て2004年から立法会議員。06年、民主派政党の公民党から行政長官候補に推薦され、翌年、正式立候補したが曾蔭権氏に敗れた。公民党名誉主席でカトリック教徒。
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【記者の眼】香港の民主派で現役の立法会議員として最も政治力がある議員といえば梁家傑氏ということになる。香港行政長官選挙にも一度、民主派の代表として立候補したこともあり、弁護士としても高い評価を得ているため、親中派や中国政府が圧力をかけても、財力においては微動だにしない。親中派に入っていたら、間違いなく行政長官の最有力候補になった人物だ。香港の未来、とくに2047年以降の世界に対しては今の若者たちへの期待が非常に熱く、彼らを育てることが香港の未来を育てることだとの見方をしている。
【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】
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【中華の顔】
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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)
同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。
同性婚が認められる国・地域は以下の通り。
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)
登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。
フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア
※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。
アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。
写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。
中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。
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