村上春樹現象に見る日本との絆
熊本地震でも首長など義援金多く
くまモンカフェも“奮闘”
2014年以来、各国語に翻訳されている日本の人気作家、村上春樹氏の造語「小確幸(しょうかっこう=小さいながら確かな幸福)」が台湾で大流行し、村上春樹ブームが続いている。
同年8月、台北郊外の私立大、淡江大学では、村上氏の作品を研究する「村上春樹研究センター」が設立され、曽秋桂教授は初代主任として日本や台湾で村上春樹作品に関する国際シンポジウムを行いながら学術交流を広げている。
村上春樹氏と言えば、台湾で最も人気のある日本人作家の一人。1980年代から翻訳作品が数多く出版され、若者を中心にブームを巻き起こし、香港、中国大陸など中国語圏に拡大し、書店では翻訳物がズラリと並び、根強い人気がある。最近は、日本文学を学ぶ学生の中でも村上作品を研究対象にするケースが増え、村上作品の国際的な研究拠点として淡江大学がいち早く研究センターを立ち上げた。
「小確幸という言葉は昨年12月、台湾総統選の総統候補討論会で蔡英文氏がスピーチで引用したほど。村上作品の影響は文学だけでなく、文化、経済、社会現象にも影響を与える消費やメディアなど多分野から見た『村上春樹学』を確立していきたい」と語る。
毎年、ノーベル文学賞候補に挙がる村上春樹作品を日本国内で専門に研究するセンターがない中、村上春樹さん自身が祝電メッセージを送っており、親日の台湾でこれほど熱心に研究する組織があることに日台の絆の深さがある。
曽教授は「選挙を見ても、選んだリーダーが実務上、役に立たないと判断すれば更迭し、別のリーダーを選ぶ台湾は米国よりも人情味があるが、日本よりも実力主義」とした上で20歳~35歳の若年層が仕事や社会をどうとらえるか、台湾メディアで特集した時、「立身出世や高年収を得るよりも台湾に住む故郷の仲間同士の絆を大切にし、自己表現で仕事をして小確幸を得て社会貢献したいという価値観が圧倒的に主流に変わってきている」と分析する。
5月28日には淡江大学で「村上春樹文学における秩序」をテーマに国際シンポジウムを準備中。第6回シンポは来年7月、村上さんの母校・兵庫県立神戸高校のある神戸市での開催が決まっている。
与党に返り咲く民進党の主流派は全面的に政治、外交上は米国を最重視しているが、文化的には日本への親近感が強い。対中傾斜で景気浮揚が底上げできなかった馬英九前政権と違い、両岸(中台)関係の現状維持を掲げる蔡英文政権にとって、中国依存から脱却するために日本とは貿易、観光、文化交流でさらなる深化が景気浮揚にとっても欠かせない。
学者出身の蔡英文新総統は専門が国際貿易法であるだけに日本とのFTA(自由貿易協定)や東アジア包括的経済連携協定(RCEP)、環太平洋連携協定(TPP)加盟に積極的な意欲を示し、政権一期目での実現を目指す勢いだ。
熊本地震を受け、台湾各地で被災地支援の動きが即日始まった。
蔡英文氏のほか、高雄市の陳菊市長、台中市の林佳龍市長や2月の台湾南部地震で被害が集中した台南市の頼清徳市長、柯文哲台北市長が自身のフェイスブックやツイッターで日本語を含めながら応援メッセージを発表。
2013年に熊本県と国際交流促進覚書を結んでいる高雄市では14年に高雄市で起きたガス爆発事故で熊本県から約800万円の義援金を受け取っていたこともあり、義援金募集をいち早く行い、陳菊市長は一ヶ月の給与(約64万円)を寄付すると発表した。
熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」をテーマにした台北市内のカフェ「KUMA cafe」(くまモンカフェ)でも売り上げの一部を義援金にする活動を開始し、日本人被災者への同情と関心は高い。くまカフェを経営している101グループの今井哲雄社長は「故郷が被災し、台湾から熊本に戻って炊き出しをしてきた。台湾では熊本地震に家族で義援しようとする人が多く、今年中に高雄店、来春までには上海店を準備している」と語る。
日本の対台湾窓口機関・交流協会台北事務所の水ノ江秀子経済室主任は「13~16日、高雄で行われた旅行博では台湾人は熊本観光に行くことを前提で詳細な宿泊情報を求める反応が圧倒的にに多かった。地震で一時運休していた中華航空の熊本-高雄便も近く再開する」と話す。来年8月、大学生の体育祭典である夏季ユニバーシアードが台北で開催されることもあり、「政権が変わっても親日、友日の文化・スポーツ交流は不変」と見通す。
観光では2015年度に訪日した台湾人は約390万人で中国(約554万人)、韓国(約343万人)に次いで3位だが、住民6人に1人という高い割合だ。訪日台湾人に比べると、台湾を訪問する日本人は大幅には増えておらず、新政権樹立後の台湾側からの独自アプローチが重視されることとなる。(台北・深川耕治、写真も)
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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)
同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。
同性婚が認められる国・地域は以下の通り。
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)
登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。
フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア
※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。
アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。
写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。
中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。
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