中華圏に浸透する同性婚 第6回 香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上) | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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中華圏に浸透する同性婚 第6回

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)
説得力欠く同性愛の遺伝要因説
幼少期の虐待、性侵犯が影響
差別撤廃法案成立なら訴訟合戦に
ジェンダーフリーが究極目的


LGBT(性的少数者)の抱える課題や香港での権益拡大の動き、性解放運動の本質について香港で精神科医として同性愛者の診療や立ち直りを支援する活動を長年行っている康貴華医師に聞いた。



――香港で同性愛差別撤廃の法案が成立すれば、彼らが差別を受けたと判断する人々の行動を厳しく罰する動きになるのか。


悪影響が大きく、法律を盾に訴えられるようになる。少しでも差別的発言と見なされれば訴訟となる。もし、医師が同性愛の性傾向を持つ人を異性愛者に変えようと治療しようとすると、訴えられる。たとえ間接的にサポートしても性傾向を変えること自体が法律違反だと見るのが差別撤廃条例案だ。その行為自体がハラスメントだと主張すれば訴えることができるので、訴えられた医師側が裁判で勝訴しても裁判費用は医師が担当弁護士に支払うことになるので医師が同性愛者救済の診療をしなくなる。米国カリフォルニア州では18歳未満の未成年が同性愛であることが疑われる場合、親が治療を施したいと思っても、干渉できない動きとなっている。同性愛者が異性愛へ転換したい場合、出口がふさがってできないのが現状だ。


――同性愛者はなぜ、同性愛者になっていくのか。医学的な見地からどう見るか。


LGBT(性的少数者)は先天的な生まれつきのものか、研究が続けられている。現段階では同性愛の遺伝的な因子があるか調べているが、見つかっていない。一卵性双生児の場合、双子の中の一人が同性愛者であれば、遺伝的要因ならばもう一人も同性愛者になる確率が高いわけだが、00年の調査結果(ノースウェスタン大学のミッシェル・ベイリー教授、サンプル数=4901人)では、男性の場合、その確率は20%。女性の場合、24%。02年に行われた別の調査結果(米国社会学者のベアマン氏とブルックナー氏発表、サンプル=289組)では男性の場合、7.7%、女性の場合は5.3%でもっと低い(図表参照)


これでは先天的な遺伝的要因と断定できる説得力はない。少なくとも7割以上が、片方が同性愛ではないとすれば、逆に後天的な環境要因がかなり大きいと言える。先天的な遺伝的要因は、ある程度は認められるが、先天的な遺伝要因よりも後天的な生まれた後の環境要因によって同性愛者になる場合が圧倒的に多いと結論づけられるだろう。最新のゲノムワイド関連解析(GWAS)による全遺伝子研究から約2万人のサンプルをとって研究を行っても、同性愛の遺伝子要因は見つかっていない。医学的観点から見ると、同性愛は先天的な要因という結論は支持されていない。

――同性愛になる後天的要因とは何か。

虐待を含む不健全な父母と子女の関係やそれによる性の自覚異常、幼年期や青少年期に異性から拒絶されたり、暴力を受けたり、同性間での性的いたずらや性交渉を強いられたりして異性愛への感情が傷付いているケースなどがある。


――同性愛が先天的要因ではなく、後天的要因である場合、同性愛者が異性愛者に変わることもあるのか。

アメリカ心理学会のニコラス・カミングス元会長は法廷で数百人の同性愛者が異性と結婚した事実を述べ、個人の選択を尊重すると表明している。同性愛の研究と治療を行っている米国同性愛研究・治療協会は500を超える事例をもとに同性愛者が異性愛に転向することは可能であり、有害ではないと結論づけている。香港でも回復療法で同性愛者が自発的に異性愛者に転向することを手助けするプログラムがあり、転向した人々が「後同盟(ポスト・ゲイ・アライアンス)を結成し、性傾向の自発的変化を尊重する活動を展開している。



【康貴華(ホン・クァイワ)】
1955年3月、香港生まれ。79年、香港大学医学部卒業後、英国王立精神科医学会の会員となり、香港精神医学院院士、香港医学専科学院院士。81年から83年、香港の中国神学研究院で神学を学び、キリスト教の信仰と心理療法を研究。同性愛者やトランスジェンダーの人やその家族との対処経験が30年以上となり、同性愛で悩む人々や家族のために「新造的人協会」を共同設立。明光社理事。カトリック香港教区同性愛問題小組や性文化学会顧問。


【同性愛者の遺伝的要因是非に関する調査研究結果1】
一卵性双生児の片方が同性愛者の場合、もう一人も同性愛者である割合(カッコ内はもう一人が同性愛ではない割合)
男性 20%(80%)
女性 24%(76%)

2000年の調査結果(米ノースウェスタン大学のミッシェル・ベイリー教授、オーストラリアの学生・児童 サンプル数=4901人)


【同性愛者の遺伝的要因是非に関する調査研究結果2】

一卵性双生児の片方が同性愛者の場合、もう一人も同性愛者である割合(カッコ内はもう一人が同性愛ではない割合)
男性 7.7%(92.3%))
女性 5.3%(94.7%)
2002年の調査結果(米国社会学者のベアマン氏とブルックナー氏発表、サンプル=289組)




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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)

同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。


同性婚が認められる国・地域は以下の通り。


オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン
、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)


登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。


写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。


中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。



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