中華圏に浸透する同性婚 第3回 同性婚の拡大に警戒する中国当局 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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ルポ・中華圏に浸透する同性婚 第3回

同性婚の拡大に警戒する中国当局

家庭崩壊は党の崩壊に直結

禁欲より性交避妊策、根強く


米国連邦最高裁が昨年6月26日に同性婚を全州で認める判決を下したことで同性愛をタブー視する中国やシンガポールでも新たな動きが出始めている。


09年からシンガポールで始まり、米国各地や沖縄で広がった性的少数者(LGBT)団体「ピンクドット」が主催する同性愛差別撤廃を求めるイベントが6月4日に行われた。


シンガポールに拠点を置く多国籍企業にネット上から支援や賛助金を集める活動を展開。シンガポール政府は「外国組織が国内問題に干渉すべきではない。同性愛差別の撤廃を呼び掛けるイベントに外国企業が協賛金を出すことは認められないし、今後、厳しく取り締まる」と警告した。


シンガポールでは公演された音楽劇「レ・ミゼラブル(悲劇世界)」で男優2人が濃厚なキスシーンを演じる場面があり、地元メディアが演劇自体の取りやめを求める要求をし、改編した経緯がある。


シンガポール政府が同性婚を認める動きは現段階ではないが、ピンクドットのスポンサーはゴールドマン・サックス、JPモルガン、バークレイズ、米グーグル、英石油BPなど欧米の大手企業が多く、今年は18社(昨年9社)に倍増している。


中国本土でも、同性婚の権利を求める動きが多面化している。昨年7月2日、北京で中国の女性活動家の李●●(●=女ヘンに亭)
氏がパートナーの女性と同性結婚式をお忍びの形で挙行した。香港のRTHK(香港電台)など一部の海外メディアも呼んで式場スタッフが見守る形のごく少数での披露宴の形だが、式を行った写真がネットで急速に広がり、中国でも同性婚の主張に関心が高まっている。

李氏は3月、国際女性デーに合わせ、バスや地下鉄での痴漢防止を訴える計画を立て、中国当局に拘束された。男女不平等や性的少数者への差別撤廃を求める女性リーダーで同性婚の合法化を目指している。中国当局から見れば、民主化に巧妙に同性婚の権利を絡めた動きで、二重の側面で強く警戒している。


中国の政府系シンクタンクである中国社会科学院の李銀河教授は欧米で拡がる同性婚の動きをいち早く奨励、禁欲による純潔よりも性交教育のメリットを礼賛する中心人物だ。


李銀河氏は1952年、北京生まれで山西大学卒業後、米国ピッツバーグ大学で社会学博士号を取得。同大留学中に小説家の王小波氏(97年に逝去)と結婚し、性の権利に関する研究では「同性愛は社会和諧の一つとして尊重すべきだ」「禁欲純潔よりも婚前性行為による避妊法を教える性教育こそ少女妊娠や流産を防ぐ道」と主張し続け、中国での急進的性教育の第一人者となっている。

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余談ですが、同性婚や同性愛差別撤廃を強烈に推進する李銀河氏が香港で講演した。


7月25日、香港ブックフェアに合わせて香港で講演した李銀河氏は「中国のネット調査では35歳以下のネットユーザーの85%が同性婚に賛成。全国人民代表大会(国会)代表の平均年齢は49歳なので14年後には同性婚を認める法案が全人代で通過するはずだ」と述べ、中国での同性婚推進の旗振り役になっている。


7月25日、香港ブックフェアで自著が紹介される李銀河氏が香港で「静かに進む性革命」と題して中国での性に関する現状を講演した。


李氏は講演で「あるネット調査では35歳以下のネットユーザーの85%が同性婚に賛成している。全国人民代表大会(国会)代表の平均年齢は49歳なので14年後には同性婚を認める法案が全人代で通過するはずだ」と述べ、中国内での同性愛に対する見方についても全国でのサンプル調査で一般大衆の同性愛を受け入れる考え方は比較的高いとしている。


米国では同性婚に反対する人は43%、47%は賛同しているが、中国では20~30%が「同性愛は間違っている」と答え、10~20%が「同性愛は異性愛と同じように認められるべきだ」と答え、大多数が態度を保留して示していないことを紹介。「同性愛や同性婚に猛反対するのは外国人や宗教が原因であり、中国が伝統的に中庸を重んじる文化なので中国人は同性愛問題でも急進的に極端な選択をするケースは少ない」と分析している。


また、李教授は独自の調査報告から「中国では大部分の同性愛が家庭や社会の圧力や異性との恋愛結婚に起因する形で生じており、それが男性同士の同性愛や女性同士の同性愛による結婚という形式的な婚姻として発展している」と結論づけている。


李教授は「中国人は家庭の伝統的価値観が第一優先であり、個人の快楽は二番目。形式的な婚姻は圧力ばかりを生じ、ねじ曲がった婚姻関係になってしまう」と述べ、同性婚や同性愛を擁護している。


ちなみに李銀河教授は夫と死別後、女性の同性愛者でトランスジェンダーとして男性になっている人物と17年にわたって同棲していることを中国メディアに告白している。右写真はその人物だ。



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同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。


同性婚が認められる国・地域は以下の通り。


オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン
、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)


登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。


写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。


中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体


連載 中華圏に浸透する同性婚