蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題 連載4(最終回) | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題   連載4(最終回)


女性の地位向上 政界でも進む
立法院での女性議員38%
陳水扁政権で憲法修正 躍進へ
閣僚は女性1割、失望感も
出生率向上策が国力決める


台湾で民主的な総統選挙を開始した1996年に李登輝総統が誕生してから20年を経過し、陳水扁政権、馬英九政権を経て4人目に初の女性総統として蔡英文氏が就任した。


女性の地位向上という面では、台湾はここ20年で大きく改善している。とくに最初に国民党から民進党へ政権交代が実現した陳水扁政権(00年~08年)では、女性初の副総統として呂秀蓮氏が8年間、任期を全うし、女性の政治参加という面では女性政治家の割合が大きく増加。

民進党政権下で2005年には立法院(国会)定数の約3割の比例代表選出議員で女性を半数以上にする条文が憲法に加えられ、女性議員の割合が飛躍的に増えた。


今年1月の立法委員(国会議員)選挙では113議席のうち、女性議員は43議席。約38%となり、アジア諸国・地域の中で最も高い割合になっている。


 2008年の馬英九政権発足時では閣僚10人が女性(28.5%)、12年の馬英九政権では閣僚47人のうち11人(23.4%)が女性。しかし、今回の蔡英文政権では林全行政院長(首相)率いる閣僚40人のうち女性はわずか4人で1割しか入らず、歴代最低となっている。


野党に下野する国民党の王育敏立法委員らが「馬英九政権では女性閣僚が28.5%だったが、今回はわずか10%。蔡英文氏は女性を軽視し、林全内閣は時代に逆行している」と批判するだけでなく、民進党内からも「女性総統が初めて誕生し、立法院での女性議員が38%に達したのに閣僚に四分の一すら満たない女性しか入っていないのは失望した」(呉玉琴立法委員)との批判も噴出。

女性の権利と地位向上のために長年闘ってきた呂秀蓮元副総統も彼女らの失望に対して「正義の呼び声だ。林全行政院長は女性が蔑められてきた歴史観がない」と手厳しい。蔡英文氏も5月4日に行われた呂秀蓮氏の新著「非典型副総統の呂秀蓮」発表会で「みんなが失望し、党本部で抗議した友人たちの指摘を謙虚に受け止める」と謝罪の意を表明。今後の閣僚人事に大きな課題を残した形だ。



さらには合計特殊出生率(一人の女性が15~49歳の時期に生む子どもの数)向上のための具体的政策を求める声もある。黄天麟・元総統府国策顧問は「独身の蔡総統に提言するのは酷」と前置きしつつ、「女性がたくさん子どもを産み育てたくなる具体的政策を出すことで13億人の人口を抱える中国に対抗できる」「少子高齢化で国の体力を落とさないためには子どもを一人産めば、大学卒業まで年間どれぐらいの援助が出るか新たな家庭重視の政策をとるかが台湾だけでなく、アベノミクスを成功させたい日本や韓国でも大切になる」と話す。


外交や軍事では中国が「一つの中国」を認めようとしない蔡氏に対して政権樹立前から台湾に対して徐々に圧力をかけている。今年3月、中国はアフリカのガンビアと国交回復。台湾と断交する国が増え、台湾と外交関係があるのは22カ国となった。台湾が対中傾斜だった馬英九前政権から独立志向の強い蔡英文政権に変わったことで「台湾と外交関係のある国は半分ぐらいまで減るだろう」(淡江大学国際事務戦略研究所の翁明賢所長)との予想もあり、今後は中台関係は表向きは現状維持でも「冷たい平和」が冷却化していくとの見方も出ている。


GDP(国内総生産)では2020年代に米中が逆転し、中国が世界一の経済大国になるとの予想も出る中、中台関係の安定には米国が台湾を守る台湾関係法だけでは不十分となり、日本版の台湾関係法を制定することで日台の協力強化が必要な時代を迎えている。(終わり=台北・深川耕治、写真も)



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【連載 蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題】

 

「天然独」という若者のうねり 蔡英文時代の台湾 連載1


村上春樹現象に見る日本との絆 蔡英文時代の台湾 連載2


 

経済浮揚、日本と連携が必要 蔡英文時代の台湾 連載3


 

蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題 連載4(最終回)


  

【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】


劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回


劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く  連載第2回


呉秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回   


呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  


新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回


親中派団体「愛港之声」代表の高達斌氏 香港「自治」の行方 連載第6回   


梁家傑公民党名誉主席(上) 香港「自治」の行方 連載第7回    

梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

 

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回


香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回


 

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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)


同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。

同性婚が認められる国・地域は以下の通り。


オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン 、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)


登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。


写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。


中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体


連載 中華圏に浸透する同性婚





【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】


劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回


劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く  連載第2回


呉秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回   


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香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回


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【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】


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呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  


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