頼行政院長の実務能力次第 台湾の蔡政権浮揚
支持低迷、早過ぎる切り札器用
来年の統一地方選へ地盤強化
労働規制改革の混乱で支持率低迷に苦しむ台湾の蔡英文政権は、8日に発足した頼清徳・行政院長(首相)による新内閣発足で巻き返しを図っている。2020年の次期総統選の前哨戦となる来年後半の統一地方選に向けて求心力の底上げへ選挙態勢づくりを本格化。独立志向の強いポスト蔡英文とみられる高い人気の頼氏を行政院長に据える早すぎる“切り札”人事は与党・民進党だけでなく連立を組む小政党・時代力量にとっても背水の陣となり、弱体化する野党・国民党は再起の芽を狙っている。(香港・深川耕治)
台湾独立を明言、中国反発必至
時代力量は低迷、台北市長も台風の目
同性婚合法化の可能性浮上
9月24日、蔡英文総統は与党・民進党の党大会に党主席として出席し、対中関係で現状維持を掲げながら中国から外交、経済を通してじわじわと圧力が続く現状について「(1986年の)結党当時とはまったく違う」とした上で「中国の台頭に世界中の国々が慎重に向き合わなければならない状況に直面している。台湾の主権と主体性を原則として新交流モデルを模索する使命がある」と述べ、中国への警戒感をにじませながら対話が途絶えている現状から新たな段階を模索。
五年に一度の中国共産党大会が来月18日から始まり、習近平体制の人事が一新される時期に合わせ、「一つの中国」を迫る中国に新たな交流のあり方を呼びかけた形だ。
内政課題に限定した憲法改正の意向を示し、一票の格差是正や投票年齢の引き下げ、総統と行政院長(首相に相当)の権限の区切りがグレーゾーンである「半大統領制」であることの見直しも視野に議論を始めることを宣言した。
台湾民意基金会が調査した台湾の政党別支持率動向の最新結果によると、9月時点の与党・民進党の支持率は30.2%で今年7月よりも3.5ポイント増で、野党第一党の国民党は18.9%で2.6ポイント増。一方、少数政党で民進党と連携する時代力量は6.4%(5.7ポイント減)、野党第二党の親民党は2.9%(6.5ポイント減)で支持率が急落している(図表参照)。
ただ、民進党と連携している少数政党の時代力量が昨年7月時点で14.9%という高い支持率を得ていたにもかかわらず、民進党の政策との違いが裏目に出て今年9月では6.4%まで支持率が急落し、政党としての存続が危ぶまれる事態に追い込まれていることだ。
さらに第二野党の親民党も昨年7月には7%の支持率だったのが今年9月は2.9%に急落し、時代力量よりも政党存続の危機に直面している。
支持政党なしの無党派層が38.2%に上り、野党・国民党は不満の受け皿になりきれていない。小政党への期待度の高まりは「バブルがはじけた」(台湾紙「中国時報」)ように幻滅し、無党派が増えている中で内政をどこまで与党・民進党が一般住民の支持を得る目に見える業績としてあげられるか、頼行政院長の手腕にかかっている部分が大きい。
来年後半の統一地方選で台風の目となるのが無所属の柯文哲台北市長。与野党問わず自らの政策と協力できる政党とは協力するスタンスで、今後の政局にも影響を与えそうだ。
9月26日、頼行政院長は施政演説で「台湾はイスラエルから学ぶべきだ」と述べ、就任後、初の立法院(国会)での質疑で時代力量の林昶佐立法委員の台湾語による対中関係についての質問に答え、「外交部(外務省)による中台交流を進めることを目指し、中国の直接要求は受け入れない」と強調。「蔡総統の実務外交の積み重ねが和解と交流協力の素地を生む」と話している。
親民党の陳怡潔立法委員が「今回の組閣は20年の総統選の入場券を手にすることを意味するのか」と質問し、頼氏は「一秒すら考えたことがない」と次期総統選への出馬意志はないことを表明。24日に会談した李登輝元総統は「(20年の総統選の候補者になるかどうかについては)時期尚早すぎる」と話しつつも「台南市長としての実務はよくやっているし、優柔なリーダーは皆が支持し、励まして盛り立てていくことが大切」と期待感をにじませた。
頼行政院長は野党・国民党の質疑で「私は現実的な台湾独立を主張する」と述べ、独立宣言する必要がないことや住民投票で台湾の将来を決める必要性を強調。中国当局の猛反発は必至の情勢だ。
「これまで台湾独立を主張しているのに中台関係を『親中愛台』と表現するのは、かみ合わないのではないか」との質問には、「どんな職務ポストになろうと、台湾独立の意思表示は変わらないし、『親中愛台』は台湾の善意を表していて矛盾はない」と述べ、台南市長時代からの独立の主張には政治的な変節はないことを明言している。
台湾政策を主管する中国の国務院(政府)台湾事務弁公室は頼清徳氏の発言に対して翌27日、「いかなる台湾独立の言動も断固反対する」と猛反発。「台湾独立の試みは必ず自業自得の結果を招く」と警告し、「台湾はこれまでも国家ではなく、永遠に国家になれない」と痛烈に批判した。蔡総統が24日の民進党大会で憲法改正を提言したことについても「中台関係の底線ははっきりしている。動向を注視する」と牽制している。
頼氏は同日、これに対し、「台湾が国家であることは事実。(国民、国土、主権、選挙の)どの角度から見ても台湾は主権独立国家だ」と反論し「いかなる国も『中華民国』が存在する事実を正視するよう希望する」と主張している。
台北市内にある台湾大学はで9月24日に行われた中国・上海市政府主催の歌合戦形式のコンサートが「中国の統一工作の一環」「学内から出て行け」と主張する学生側の抗議で中止になり、急進的な中台統一を主張する政治団体「中華統一促進党」の男性メンバーが学生らに暴力を振るって骨折させるなど重傷を負わせる事件が発生。
中台関係が冷却化する中、対中関係での対立が先鋭化しており、今後の対中関係はさらに冷却化が進むと予想される。
一方、憂慮されるのは施政方針の中に口頭レベルで同性婚の合法化に関する内容を含めている点だ。
台湾には同性愛者に対する差別撤廃を求める与党・民進党の立法委員(国会議員)らや民進党支持者がいる一方、同じ民進党支持者の中にはキリスト教長老派を含め、多くの宗教団体や支持団体の中に家庭崩壊を憂慮して同性婚反対を強く求める勢力が根強く、民進党としては幅広い票獲得のために双方への配慮が必要なことだ。
施政方針の五大目標のうち原版の「公義社会」の部分に同性婚の合法化は含めなかったが、口頭報告には同性婚の合法化については「憲法解釈でコンセンサスを経て最終合意を目指す」との内容に変わってきている。
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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)
同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。
同性婚が認められる国・地域は以下の通り。
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)
登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。
フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア
※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。
アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。
写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。
中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。
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