中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

中国当局、若者の「低欲望主義」警戒 静かな抵抗「躺平」
「躺平」とは、あくせく働くより慎ましく
静かな抵抗、賢者の行動か


今春から中国の若者の間で流行語となっているのが「躺平(とうへい)主義」(寝そべり主義)。どんなにあくせく働いても金儲けの道具に利用されるぐらいなら、最低限しか働かず、お金を使わず、結婚しない「低欲望」の草食系ライフスタイルを指す。中国共産党創立100周年を迎えて「強国」路線を突き進む習近平指導部にとって若者のあえて頑張らない「静かな抵抗」は大きな足かせになりかねず、当局は厳しい情報統制で警戒、やり場のない閉塞(へいそく)感を増幅させている。(深川耕治)

 

無力感増す香港にも波及 寝そべり主義=躺平主義
消費意欲の低迷 当局が規制
強国路線への心理的反発も


今年4月5日、河北省唐山市の貧しいトラック運転手が道交法違反の罰金刑を受け、罰金2千元(約3万4千円)が全預貯金の約三分の一にも上り、理不尽さから服毒自殺した。これをきっかけに中国内のSNS上では低所得者層が未だに生活困窮し、当局が強調する「小康社会(ややゆとりのある社会)」の実現とは対極にある人々の悲劇的な事件が数多く横たわり、彼らが経済発展の恩恵を受けていないとの論議が活発化した。

 

▲中国のSNS百度で登場したネット名「好心的旅行者(親切な旅行者)」の発言内容が多くの中国の若者に支持され、社会現象化した


躺平主義が社会現象になるきっかけは、その論議の後、4月17日、SNS上で「親切な旅行者」というネット名で「躺平(寝そべり)主義は正義だ」と題した文章が投稿され、注目されたことに始まる。躺平(タンピン)とは、ゆったり横たわることで、精神的ゆとりを伴う。躺平主義は若者の体制への抵抗を含め、「低欲望(寝そべり)主義」と訳すとわかりやすい。2015年まで続いた「一人っ子政策」解除も「今さら二人以上産めるか」と若者世代の猛反発を生み、低欲望主義を助長している。

 

▲「ドイツの声」で英文紹介された躺平主義(寝そべり主義)


「食事は1日2回でいいし、働くのは年に1~2カ月でいい。寝そべり(低欲望)は賢者の行動だ」との主張に共鳴する若者が続出。


「二年以上仕事がなくて、ずっと遊んでいるが、私は間違っていない」。

 

「いつも周囲との比較、伝統的観念から圧力を受けて晒(さら)されているが、人間はそうであってはならない」。

 


発言内容は既成概念からの圧力に屈せず、「躺平すれば資本は搾取されない」「新時代の非暴力、非協力運動だ」と頑張らず、競争で欲張らないストレスのない生き方を悟るように投げかける。


就職難、住宅費の高騰で貧富の格差に苦しむ1990年代以降生まれを中心にSNS上で共感を呼び、「躺平族」との新語も生まれた。大手通販サイト淘宝(タオパオ)では「躺平」の文字入りTシャツなどが売れたが警戒した当局の介入で販売中止となった。

 

 

▲大手通販サイト淘宝(タオパオ)では「躺平」の文字入りTシャツなどが飛ぶように売れたが、途中で当局の規制で販売中止に

 

▲大前研一著「低欲望社会」(中国語簡体字版)

 

▲大前研一著「低欲望社会」(台湾繁体字版)


伏線は日本。大前研一著「低欲望社会 大志なき時代の新・国富論」が2018年に中国語版でも出版され、中国の若年読者層で大きな注目を集めた。日本のバブル崩壊後の長引く不況と人口減が需要不振をもたらし、社会全体、特に若者が全般的に低欲望状態に陥っていることと関係があると指摘。中国は日本ほど経済が成熟、衰退していないが、少子高齢化で若者の低欲望主義が到来する可能性を「低欲望社会は中国の命題」(中国青年報19年12月23日付)と指摘し始めた。

 

▲大前研一著「低欲望社会」(日本版)

 

▲寝そべり主義(躺平主義)を象徴する猫の寝そべりイラスト


中国では日本の高度経済成長の時期と同じように右肩上がりが続き、猛烈に働き、地位や財産を得て裕福になることが庶民の目標となった。しかし、激化する受験競争、就職難、低賃金で「996」(朝9時から夜9時まで、週6日勤務)と呼ばれる過酷な勤務などが社会問題化。両親が望む出世や結婚に無関心な若者が増え、躺平が若者たちの心を捉えた。昨年は不毛な過当競争にいつの間にか巻き込まれる状態を指す「内巻」が流行語になるほどだ。

 


中国では、日本の若者に広がる引きこもりを「蟄居(ちっきょ)族」と表現。躺平族と同様、傾国となる兆候と見ている。中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」公式アカウントは「現代の若者は決して〝躺平〟を選択しない」と発信して批判。「快適な環境に雲隠れしても成功は断じて天から降ってこない」(中国青年報)、「躺平は恥。どこに正義感があると言うのか」(南方日報)と酷評し、関連ワードの検索に制限をかける動きも出ている。

 

▲中国共産党の青年組織「共産主義青年団(共青団)」の公式アカウントは「現代の若者は決して〝躺平〟を選ばない」と発信。寝そべり主義を批判した=短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」から

 

▲「中華民族の偉大な復興と奮闘の実現」(人民日報2021年7月10日付)


習指導部は、新中国建国100年の2049年までに米国に肩を並べる「強国」を目指し「新時代は奮闘の時代」「強者は常に挫折から奮起し、気落ちすることなどない」「奮闘する人生こそが幸福な人生だ」とスローガンを掲げている。だが、水面下では「奮闘」「奮起」だけの精神論だけでがむしゃらに働くだけでは実入りがない虚無感、焦燥感を持つ若者が増え、過分な欲望を捨て、自分の身の丈に合った仕事、ライフスタイルで良いという静かな「抵抗」が中国版「引きこもり」現象として顕在化し始めている。


台湾では中国の国威発揚による猛烈な経済発展至上主義、物質的な豊かさを満たすだけの拝金主義に奮闘するだけの生き方に抵抗する動きが出てきてる。村上春樹ブームによる「小確幸」(ささやかな確かな幸せ)」を求めるライフスタイルが流行となったことが最たる例だ。これも富国強兵に猛進する中国への台湾式アンチテーゼ(対立思考)で香港でも支持され、反響が大きかった。

 

▲香港青年連合会の式典で講演した中弁連の陳冬副主任


6月11日、香港で開かれた香港青年連合会の式典で講演した中央政府駐香港連絡事務所(中弁連=中国政府の香港出先機関)の陳冬副主任は「香港青年連合会は愛国愛港(中国と香港を愛する)の青年団体。香港青年は困難に直面しても『躺平』ではなく、圧力下でも国力増強と生活水準アップのために努力奮闘するのだ」と述べ、香港若年層に中国本土発の躺平主義が香港式に変化浸透することを強く警戒している。

 

▲親中国系の青年組織「香港青年連合会」の総会。香港での躺平主義の浸透を警戒している

 

▲香港人ジャーナリストの区家麟氏


休刊するまでの香港紙「リンゴ日報」や民主派の「立場新聞」に投稿している香港人ジャーナリストの区家麟氏は「躺平主義はコロナの変異株のように第一波、第二波、第三波と変化して広がっていく」と分析する。

 

周永新香港大学名誉教授(社会行政学)は「香港人の生活環境は逼迫(ひっぱく)し、上流に志向せず、下流に流されないよう努力している。中国本土の躺平主義、台湾の小確幸は怠惰なライフスタイルであり、贅沢な生活」と述べ、香港市民は中国本土や台湾とも違う香港式の若者生活、価値観を培っていく時期だとみている。


香港では国家安全維持法(国安法)の施行1年を過ぎて若者は敗北感、無力感を増大させており、反中の香港紙「リンゴ日報」廃刊、民主派区議会議員の大量辞任など民主化に挫折した若者世代に香港版の新たな躺平主義が静かに醸成し、吹き荒れそうだ。

 

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