中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

反中デモ、民主派活動封じ込め 香港国家安全法
過激テロ抑止、独立派は窮地に
異例ずくめの可決、選挙対策も

 

7月1日、中国返還23周年を迎えた香港は、中国政府が香港で統制を強める「香港国家安全維持法」を可決成立させたことで、かつてない重苦しい緊張感と無力感、萎縮ムードに包まれている。中国政府が香港に治安維持機関となる「国家安全維持公署」を新設し、9月の立法会(議会・70議席)の選挙で民主派の立候補に資格剥奪などの規制が強まり、香港に50年間、高度な自治を認める「一国二制度」が23年で挫折し、有名無実化する懸念が深まっている。(香港・深川耕治)

 

 

6月30日、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会は中国政府が香港で統制を強める「香港国家安全維持法」を可決・成立させた(写真・上)。全人代常務委は2カ月に1回のペースで開かれ、中国の「立法法」は原則3回の審議を経て定めるが、同法案は6月18~20日に最初の審議をしたばかりで10日余りでの成立は異例中の異例。毎年、民主化デモが起きる7月1日の香港返還記念日までの施行を何が何でも押し込みたい中国政府の焦りも見える。

 


習近平指導部にとって香港での最大の懸念は、香港トップである行政長官、立法府である香港立法会で親中派が与党として「主権」を掌握していた権力構造が危うくなることだ。昨秋の区議会選で民主派が議席の8割超を獲得、圧勝して大きく変わり始め、9月の立法会選挙で親中派が過半数を割り、野党に転落すれば中央政府の意向に沿う立法が阻止されることにある。中国政府は建国以来、ただの一度も少数与党を経験したことはなく、「一国二制度」下にある香港でも返還23年目の「大異変」が目前だった。


民主派が与党となる「大番狂わせ」を断固阻止する苦肉の策が、国際世論を敵に回しても、香港の憲法に相当する「香港基本法」の付属文書に例外として追加し、香港立法会(議会)の審議を経ないで頭越しで施行する「香港国家安全維持法」であり、「国家安全維持公署」の新設だ。

 

▲2019年6月以降、逃亡犯条例案の反対デモは催涙弾が飛び交い、火焔瓶で炎が至る所に点火する状態が続いた


昨年4月、香港で逃亡犯条例案が審議されていることをきっかけに阻止するための大規模デモが昨年6月以降、最大200万人規模に膨れ上がって継続し、立法会議場での占拠・破壊活動や香港各地での放火、破壊活動が激化したため、基本法の例外規定を駆使して対抗する同法の制定を水面下で検討してきた。破壊活動を阻止する法律が不可欠とする中国側の道理はあるにしても50年間不変とした一国二制度を反故にした責任は重大だ。

 

▲2019年6月以降、逃亡犯条例案の反対デモは催涙弾が飛び交い、火焔瓶で炎が至る所に点火する状態が続いた

 

香港政府は即日、同法を公布、施行。若者らが再び過激な抗議活動を行った場合などを想定し、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を処罰対象として刑事訴追できる。新華社通信が報じた国家安全法の全文では、国家分裂や政権転覆などには最高で無期懲役を科すとしている。


中国政府が香港に出先機関として新設する国家安全維持公署は「特定の状況」で香港での抗議活動などを直接取り締まることが可能となる。香港政府は行政長官をトップとする「国家安全維持委員会」を新設し、中国政府が監督し、顧問を派遣して関与する。

 

▲「米国の香港への規制圧力は問題ない」「中央政府が助けてくれる」と話す香港トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官


今後、国家安全法に絡む事件を審理する裁判官は香港政府トップの行政長官が指名し、「司法の独立」を担保してきた外国籍の裁判官を排除、香港のほかの法律と矛盾する場合は香港国家安全維持法の規定を適用し、法律の解釈権は全人代常務委が持つことになり、判決が中国寄りになる懸念が強まっている。

 

▲香港衆志(デモシスト)の主要メンバーだった羅冠聡氏(左)、周庭氏(中央)、黄之鋒氏(右)

 

とくに独立派は窮地に立たされ、風前の灯火だ。同法施行による取り締まり強化を懸念し、民主派や独立派のドミノ解散、活動停止が続出。国際的にも知名度がある民主活動家の黄之鋒氏や羅冠聡氏、周庭氏らが率いる民主派団体「香港衆志」は6月30日、解散を発表した。周庭氏はツイッターで「絶望の中にあっても強く生きなければならない。生きてさえいれば、希望がある」と訴えている。独立派の「学生動源」、「香港民族陣線」も香港での活動停止を宣言し、海外に拠点を移す。

 

▲オランダに逃避行する 「香港独立連盟」の陳家駒氏(左)と独立派の「学生動源」の鍾翰林氏(右)


 「香港独立連盟」の陳家駒氏は同法案成立前に香港を出国し、オランダへ逃避行。自身のフェイスブックには「香港は法案が成立すれば歴史的に崩壊し、人災として次々と政治関係者が逮捕され、中国共産党は恐怖主義で香港を支配するだろう」と投稿。「香港城邦論」を出版し、中国メディアから「独立派」として厳しく指弾されている作家の陳雲氏も「香港での社会活動から引退する。今後は学術研究、時事評論を続ける」と公表した。

 

▲中国メディアから「香港城邦論」の発刊で香港独立の思想的な支柱として厳しく指弾されている陳雲氏

 

6月30日、黒ずくめで顔を覆って記者会見に臨んだ香港民間記者会は「香港国家安全法の施行が現実となり、一国二制度は完全に死んだ」とした上で1日の民主派デモ決行を宣言。「香港は白色テロの時代に突入した。当局はまず、有名なデモ人士から締め上げるので香港衆志(デモシスト)は解散を余儀なくされるが、創意工夫を凝らして海外へ行くか地下活動をすることになる」と今後の民主派の動向を見通す。

 

▲7月1日、香港独立の横断幕を使い、香港国家安全維持法の容疑で逮捕された男性

 

7月1日、香港島コーズウェイベイで「香港独立」の横断幕を持って歩いていた男性一人が警官隊の警告を無視し、香港国家安全法違反の容疑で拘束された。2003年以来、毎年7月1日に恒例となっていた民主派デモは当局から許可されず、それでも1万人以上がデモに参加。警官隊6000人が動員され、厳重な監視下にあって手も足も出ない状態ながら抵抗した。香港島の銅鑼湾(コーズウェイベイ)、湾仔(ワンチャイ)周辺では計370人が警官隊に拘束された。そのうち15歳の少女を含む10人が「香港独立」の旗を所持していたとして「香港国家安全維持法」違反で逮捕されている。

 

▲警官に拘束される民主派の尹兆堅立法会議員(民主党副主席)

 

7月1日、毎年恒例の民主化デモの主催団体である民間人権陣線は当局のデモ許可を得られなかったため、個人の身分で香港国家安全維持法の施行反対を訴えるデモを決行。香港島のコーズウェイベイ(銅鑼湾)で民主派(民主党副主席)の尹兆堅立法会議員が警官に拘束、連行された。

 

昨年の大規模デモから続いた抗議行動では、香港で当たり前だった抗議活動が一転、すべて香港国家安全維持法に違反し、終身刑になる恐れすらある。これまでとははるかに違う、自由への中国共産党流の弾圧が開始された。

 

▲7月1日、香港島コーズウェイベイでは警官隊が放水車から催涙水を放水した

 

 

現場周辺は、デモ決行を続けようとするグループと警官隊が押し問答となり、警官隊は放水車で催涙水を繰り返し放水し、違法集会を止める形となっている。同法が制定、施行されても、なお、抗議デモを続けようとする人の動きを完全には断ち切れない状況が続いている。

 

▲7月1日、香港国家安全維持法の施行後でも「香港国家安全維持法は悪法」と掛け声を上げる民主派の立法会議員ら

 

▲香港島のコーズウェイベイ(銅鑼湾)にあるタイムズスクエア(時代広場)で拘束されるデモ参加者

 

9月6日の香港立法会選挙に向けて立候補の届け出は7月18日から7月18日。民主派は、7月11~12日、「予備選挙」を実施して候補者を絞り込み、民主派同士の共倒れを避ける戦略を描いている。主な民主派団体は参加し、予備選では直接選挙の5選挙区すべてに計200以上の投票場を設ける予定。黄之鋒氏、羅冠聡氏、周庭氏らがメンバーの香港衆志(デモシスト)は解散を宣言し、選挙管理委の厳しい候補審査に対応しようとしているが排除される公算が大きい。

 

中国政府は7月1日、香港で施行された香港国家安全維持法について記者会見し、同法で処罰対象となっている「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為」の一例として「中国政府に制裁を加える法律制定を外国政府に要請すること」を挙げ、黄之鋒氏らが国際社会による対中制裁を引き続き求める動きを続ければ刑事責任を追及することを示唆した。

 

▲9月6日の香港立法会選挙は20代後半や60代の有権者が前回選挙よりも増えている

 

70議席のうち、直接選挙枠は半分で、残りの半分は親中派に有利な業界別の枠だ。選挙制度は親中派に有利な仕組みだが、民主派は定数70議席の過半数を狙う。香港国家安全法が施行され、民主派の立候補取り消しが相次ぐ懸念も出ており、有力な民主派候補が立候補できるかどうかが議席増減の鍵となる特殊な選挙戦となりそうだ。
 

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