香港残留か、亡命か 立法会選の出馬制限で苦境 香港民主派 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

香港残留か、亡命か 立法会選の出馬制限で苦境 香港民主派
中国の愛国統治、選択迫られる


国家安全維持法(国安法)の施行を受け、香港の民主派は中国政府が香港統治の基本とする「愛国治港(中国に忠誠を誓う愛国者が香港を治める)」に刃向かう反中反共の違法政治活動と見なされ、存続苦境に直面している。香港での民主化活動に大幅な制限を受け、香港に残留するか、海外に活路を見い出すか、選択を迫られている。(深川耕治)


「非愛国的」なら出馬不可の呪縛解けず

中国式の我田引水に翻弄 なお抵抗続ける覚悟も

 

▲台湾に亡命した香港衆志(デモシスト)副主席だった鄭家朗氏

 

▲2020年7月、香港を離境し、一ヶ月後に香港に戻ったが、その後、台湾へ行ったと見られる鄭家朗氏

 

昨年7月に解散した香港の自決権を求める香港衆志(デモシスト)の元副主席、鄭家朗氏は長期的に香港を離れ、台湾へ向かった。昨年5月、香港衆志の販売するマスクが香港の商品説明条例に違反した容疑で拘束されたが、保釈され、香港の出入境を許可されたため、台湾行きを決めた。

 

▲香港から離れた香港衆志(デモシスト)の元副主席、鄭家朗氏

 

▲香港の危機的状況について答える羅冠聡氏


香港衆志の元メンバー、元立法会議員の羅冠聡氏は英国に亡命。ロンドンを拠点に香港民主化の根を張り、立法会議員を辞任した許智峯氏は香港から英国に逃れた後、3ヶ月滞在し、ロンドンからオーストラリア入り。14日間の強制隔離期間を経て特別な政治亡命申請などではなく入国した。

 

▲ロンドンで香港の民主化を訴える羅冠聡(ネイザン・ロー)氏

 

▲香港離境前、逃亡犯条例案反対を訴えていた許智峯氏

 


英国滞在中、羅冠聡氏とも協力しながら北米の香港人団体と接触し、情報交流を深化。長期的に海外からの連携による民主化運動の展開が今後の鍵となると見ており、中国当局は動向を常に警戒している。


香港の旧宗主国である英国は、1984年の「従来の資本主義体制や生活様式を返還後50年間維持する」と明記して「一国二制度」を保障する英中共同声明を反故(ほご)にする中国の姿勢に反発。

 

▲「英国海外市民(BNO)旅券」の保持者のメリットと申請費用


中国返還前に生まれた香港市民が持つ「英国海外市民(BNO)旅券」の保持者と家族の英市民権取得につながる特別ビザ申請受け付けを1月に開始した。英政府は、今後5年間で約30万人が香港から移住すると予測。再定住の困難を知り、考え直す香港市民もいるため、実際に特別ビザを申請する人は予想より少なくなる可能性もあるが、香港が中国化されることで移民を具体的に考える市民が増えていることは間違いない。

 

▲収監されて手錠をかけられてもマスク姿で移動する黄之鋒氏(右)ら


一方で、海外での活路を見出さず、香港に留まって、何度、収監されようとも、徹底して戦い抜く覚悟の民主派も多い。香港衆志の核心メンバーである周庭氏、黄之鋒氏らは収監され、周庭氏は模範囚として刑期が早まる可能性もある。

 

▲香港衆志(デモシスト)の解散前、記者会見する黄之鋒氏(左)、羅冠聡氏(中央)、周庭氏(右)

 

▲左から香港立法会議員の資格を剥奪された郭栄鏗氏、梁継昌氏、郭家麒氏、楊岳橋氏


昨年11月11日、香港政府は「香港に対する中国の主権行使を拒否する」行為を行った理由で民主派の立法会議員4人の資格を取り消し、同剥奪を受け、民主派の立法会議員15人が11月12日、一斉に辞職届を提出。立法会での民主派議員は2人の穏健派以外は不在となり、親中派が完全に牛耳ることで中国政府の意向に沿う法案が簡単に通過する形に激変した。とくに民主派の二大政党である民主党と公民党の萎縮、衰退は顕著だ。

 

▲民主派の立法会議員4人が資格剥奪されたことに抗議するため辞職を表明した民主派の香港立法会議員15人

 

▲2020年12月、史上最年少の民主党主席に就任した羅健熙氏

 

▲香港の民主派政党、民主党の執行部は大きく若返った


昨年12月、史上最年少の36歳で民主党主席に就任した羅健熙氏は区議会議員を3期、務め、若手のホープとして党副主席を経て党を任された。しかし、党を取り巻く状況は厳しく、「民主党は香港独立を支持しない」と唱えたことで本土派、急進独立派との軋轢も続く。過去の政治活動を理由に常に収監される恐れがあるが、「党主席就任に後悔はない。政治亡命の意思は皆無、香港から決して離れることはない」と怯(ひる)まない。

 

▲2020年、香港理工大学のキャンパス外での暴動容疑で拘束された羅健熙氏(当時は民主党副主席)


民主党は毎年7月1日の香港返還記念日に民主化デモを行ってきた市民団体「民間人権陣線(民陣)」からの離脱を表明。民陣は同性愛団体を含む50前後の団体が参加。03年の国家保安条例案に反対する50万人デモや19年の逃亡犯条例案反対200万人デモを主催し、社会現象となって中国政府の脅威だった。

 

▲2017年7月1日、香港返還20周年の民主化デモを主催した民間人権陣線。今では民主派政党が離脱し、弱体化している


しかし、コロナ禍によるデモ規制や国安法違反容疑が強まることで活動が大幅に制限。民主派政党の公民党や新民主同盟なども離脱を表明しており、今後は民陣が主催する会議や活動に代表らを派遣しない。民主派政党は事実上、当局の監視対象となり、弾圧の大波に身動きが取れず、衰退の一途だ。

 

▲2019年の香港区議会選で選挙活動を行う梁凱晴氏。親中派との接戦を制した

 


女性で若手の梁凱晴区議会議員(26)は会計士でありながら民主派の弾圧に憤り、区議会議員に出馬し、19年に当選。しかし、昨年の天安門追悼集会での活動罪状で4月末から再審され、投獄される可能性が濃厚だ。家族の憂慮を痛感しながらも「多くの香港人と共に香港に残り続けることを望む」と話している。

 

▲2019年の香港区議会選で選挙活動を行う梁凱晴氏。親中派との接戦を制した


中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は3月11日、香港の選挙制度改変に関する決定を採択して閉幕した。中国共産党主導の香港の選挙制度改変は「港人治港(香港人による香港統治)」の原則から「愛国治港(愛国者による香港統治)」へ中国式の我田引水に変質し、一国二制度の「死」を突きつけた。「非愛国的」と見なされた立候補者を事前にふるい落とす「資格審査委員会」の設置が確定し、民主派の政治関与は徹底的に弱体化される。普通選挙の実現を目指してきた民主派は、存亡の瀬戸際だ。

 

▲香港で行われた選挙制度に関する各界各層の意見聴取のための座談会

 

全人代常務委員会の法制工作委員会の張勇副主任は3月12日に記者会見し、香港の選挙制度の見直しを「迅速に進める」と強調。中国政府で香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室の張暁明副主任も3月12日に「選挙制度は欠陥があり、反中分子が選挙を通じて行政機関などに入り込んでいる」と述べ、見直しの正当性を主張した。4月にも全人代常務委が香港基本法(憲法に相当)の付属文書を改正し、香港側も法を整備する。


現行の香港行政長官選挙は、経済界や教育界、宗教界などの各界代表のほか、立法会(議会)や区議会の議員を加えた1200人の選挙委員の投票で選ぶシステム。これを1500人に増やす。分母が大きくなっても増員分は主に親中派に割り当てられる見通しで、民主派の影響力は相対的に弱まる。民主派が多数を占める117の区議会枠の扱いは明示していないが、立法会への影響力は弱まる。

 

 


立法会は現行の70議席から90議席に増員する(選挙委員による選挙、職能団体による選挙、市民の直接選挙の3方式で選出)。市民の直接選挙枠での選出が減る可能性が高く、国際的な非難を「内政干渉だ」と突っぱねながら、中国政府の意向に沿う大政翼賛的な傀儡(かいらい)議会に変貌することになる。


親中系香港紙「星島日報」(3月9日付)は、中国での制度見直し手続きが終わった後、香港政府は9月に選挙委員会の委員選挙、12月に立法会選挙を実施する方針と報じた。

 

▲最低レベルの支持率でも中国政府の後押しで再選続投が濃厚な林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

 

 

香港政府が発表した昨年12月から今年2月までの失業率は7.2%で0.2%増。新型肺炎(SARS)で大不況となった2004年以来、最悪を更新しており、失業者数は26万1600人。とくに飲食業の失業率は14.1%で深刻化している。市民の苦境は沸点に達しているが、政府へ不満の矛先を向けることができず、民主的なデモも御法度となれば、マグマのような不満の刃はどこにも収めようにない。矛盾に満ちた一国二制度に翻弄される「香港人に生まれた悲哀」というべきか。

 

▲支持率最低でも再選確実な林鄭月娥行政長官

 

香港民意研究計画が3月16日に発表した最新世論調査結果によると、林鄭月娥行政長官の支持率は18%、不支持が72%となっており、全体の43%が評価ゼロとした。民意としてはレームダック(死に体)の末期的状況だが、中国政府の盤石な後押しがあるため、民意が史上最低レベルになろうと、任期途中の辞任はあり得ないし、再選される見通しが濃厚だ。

 

香港選挙制度の主な変更点

 
【行政長官選挙】
■投票権のある選挙委員を1200人から1500人に増員
■工商・金融、専門職、漁業・農業など、立法会議員・地区組織代表、全人代代表・全国政協委員などの五つの職能枠で構成
■候補者は188人以上の選挙委員による指名が必要。五つの職能枠から各15人以上の選挙委員の指名を得ることも条件。
■当選には選挙委員全体の過半数の支持が必要


【立法会選挙】
■定数を70から90に増員
①選挙委員による選挙②職能団体による選挙③市民の直接選挙の3方式で選出


【候補者資格審査委員会を新設】
■選挙委員、行政長官選、立法会選の候補者の資格を審査。「愛国者」でなければ立候補を認めない

 

 

 

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