台湾の同性婚合法化、ヤマ場に
5月の憲法解釈で決着へ
賛否対立、着地点見えず
台湾では昨年末から同性婚を認める法案の審議が立法院(国会)で行われ、同性婚を追加する民法改正、憲法修正を経て成立すればアジア初となる。昨年5月、人権や平等を重視する民進党政権が復権し、蔡英文総統は総統選前に同性婚支持を表明したことで若年層を中心に早期実現への期待が高まる一方、民進党を支持するキリスト教長老派など各宗教団体は結束して同性婚合法化に猛反対して蔡総統も慎重になってきており、法案の着地点がなお見通せていない。(香港・深川耕治)
アジア初を狙う巧妙な推進派
宗教団体、大同団結で猛反対
昨年12月26日、台北市内の立法院周辺には約3万人の同性婚推進派と約8千人の反対派が対峙(じ)し、猛烈な抗議を展開する反対派50人が立法院広場前に乱入し警察に逮捕される騒ぎとなった。同日、同性婚を実現する民法改正案が立法院を通過し、本会議で協議。
与党・民進党の同性婚推進派である尤美女立法委員(国会議員に相当)(写真左)が提案した「同性または異性の婚姻当事者には夫妻に関する規定を平等に適用する」とする案や条文の「夫妻」や「男女」を「配偶者」、「双方」と置き換える野党・国民党の許毓仁立法委員らの案を一本化し、今年に入って本会議での審議を進め、大きなヤマ場を迎えている。
台湾の現行憲法では、同性婚を合法化するためには民法で「結婚は一男一女に限られる」と明記されている部分を修正し、憲法改正しなければならず、法務部(法務省)の大法官会議で解釈を討議した上で結論づけられる。
3月24日から大法官で同性婚合法化をめぐる法案を通して憲法解釈が審議されており、二ヶ月以内で憲法解釈の結果が出されるため、遅くとも5月24日までには同性婚の合法化が民法改正という形で実現するかどうかが最終決定する運びだ。
台湾世論は民法改正による同性婚実現への賛否が完全に二分している。昨年11月、台湾智庫による世論調査結果によると、同性婚の合法化に賛成は47.8%、反対は41.7%。昨年12月、台湾民意基金会による世論調査によると、同性婚の合法化に37.8%が賛成、56%が反対。反対派であるキリスト教長老教会は民進党を長年支援しており、同党内部も賛否に割れている。
最大の焦点は、台湾の民法、憲法修正で同性婚を一気に完全合法化するか、完全合法化の前段階として同性カップルに婚姻に近い権利を付与する同性パートナー法という特別法を導入後に合法化する二段階論にするかだ。
欧米での潮流は、同性婚の合法化を実現した22カ国中21カ国が同性パートナー法を制定後、同性婚合法化にこぎつけているため、台湾でも同性パートナー法の制定が先決との世論も強まっている。
同性婚反対派は台湾の伝統的な家庭観を守ろうとするキリスト教各派や道教、儒教などの宗教団体が台湾宗教団体愛護家庭大連盟を組織。支持者は高齢者が多い。憲法で一夫一婦による男女の婚姻と本来あるべき家庭に制度的な保障が付与されているとし、「同性婚は違憲。性的少数者(LGBT)の権利拡大による過激なジェンダーフリー教育が子どもたちに悪影響を与え、性の乱れを拡大する」(下一代幸福連盟)と危機感を募らせている。
反対派は、一夫一婦の婚姻よりも同性パートナーが下位にあるとする特別法となる同性パートナー法ならば受け入れるとのスタンス。遺産相続権など配偶者や養子をめぐる問題で制限を求めるべきだと主張し、同性婚の賛否を問う住民投票を呼びかけている。
一方、LGBTの権益団体など同性婚支持派は同性愛者と異性愛者を異なった性的趣向として区別する前提となっている特別法のパートナー法を「同性パートナーを夫妻よりも下位にあると差別している」(台湾伴侶権益推動連盟)と断固として拒絶し、あくまで民法改正による同性婚合法化を急ぐことにこだわっている。
ただ、急進的な同性婚合法化を訴えるほど、世論が二分する現状に民進党政権としては慎重なスタンスが強まっている。
総統選前にフェイスブック上で「愛の前に人は平等だ」と同性婚支持を表明していた蔡総統だが、与党・民進党も立法委員(国会議員)に支持派が増える一方、キリスト教団体など宗教団体が「伝統的な家庭の価値観を守れ」と猛反対。
2月18日には総統府で同性婚推進派と反対派の双方と面会し、「社会の対立解消が先決だ」とトーンダウンする慎重姿勢に変わってきており、社会の二分対立による混乱、支持率低下による求心力低迷を憂慮している。
台湾は2018年に統一地方選、20年に次期総統選を控えており、強行成立させれば民進党の支持基盤が割れ、成立が難航遅延すれば同性パートナー法による特例法措置のみに留まり、LGBT権益団体や若年層の支持を失い、合法化実現が難しくなる可能性もある。
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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)
同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。
同性婚が認められる国・地域は以下の通り。
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)
登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。
フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア
※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。
アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。
写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。
中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。
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【香港行政長官選挙】
中国が主権を持つ香港特別行政区のトップを金融や不動産、教育、医療など職業別団体の代表、立法会(議会)議員らで構成する選挙委員会(定数1200)が投票し、選出する間接選挙。立候補には選挙委メンバー150人以上の推薦が、当選には過半数の得票が必要となっている。
昨年12月11日の選挙委メンバー選では、親中派が786人(約66%)と過半数を握ったが、民主派は325人(約27%)と改選前の約200人に比べて勢力を拡大。民主派寄りメンバーも加えると、計339人で30%近い勢力になって民主派も徐々に力をつけてきている。
1997年の香港返還時に、有権者「1人1票」の普通選挙を将来導入すると規定したが、中国は2014年に事実上、親中派しか立候補できない制度を一方的に決定。反発した市民や学生らの大規模な選挙民主化要求デモ「雨傘運動」が14年9月から約3ヶ月続いた。制度改革は白紙に戻り、17年も選挙委による間接選挙のままとなっている。
【香港の近年の主な動き】
2014年8月 中国が17年の香港行政長官選挙で、事実上、民主派の立候補を制限する制度改革案を決定
2014年9月〜12月 改革案に反発した香港の若者らが香港中心部の大通りを占拠する「雨傘運動」。抗議は79日間続き、計955人が逮捕
2016年1月 中国共産党に批判的な本を扱っていた書店関係者5人の失踪が問題となり、抗議デモに約6千人が参加
5月 中国共産党序列3位の張徳江氏が香港を訪問し、「少数の者が(国の)分裂をあおっている」と独立論を牽制(けんせい)
7月〜8月 立法会選挙で、独立などを訴えていた計6人の立候補を取り消し
9月7日 立法会選挙で独立を視野に入れる「青年新政」の2議員が当選
10月12日 議員宣誓が無効に
11月7日 全人代常務委が2議員の資格を無効とする基本法の解釈を示す
11月30日 香港高等法院(高裁)が議員資格失効に異議申立をした2議員の申し立てを却下
12月2日 香港政府が香港高等法院(高裁)に新たに4人の立法会議員の議員資格失効を求めて審査申し入れ
12月9日 梁振英香港行政長官が来年3月の行政長官選挙への不出馬を表明
12月12日 11日に投票された香港行政長官選挙の選挙委員(定数1200)を決める各界グループ別選挙で親中派が786人、民主派は339人(約27%)を獲得。
2017年1月12日 林鄭月娥政務官が辞任表明し、行政長官選挙への出馬を表明
2017年1月19日 曽俊華前財政官が中央政府から辞職受理され、行政長官選挙への立候補を正式表明。
2017年2月22日 香港高等法院(高裁)で曽蔭権前行政長官に禁固1年8月の有罪判決
2017年3月13日 中国の政策助言機関である全国政治協商会議(政協)で香港の梁振英行政長官が政協副主席に選出される。
2017年3月16日 香港地域法院(地裁)が昨年旧正月に発生した旺角(モンコック)暴動の被告3人に有罪判決。
2017年3月26日 香港行政長官選挙が行われ、選挙人(定数1200)による第1回投票で過半数を超える777票を獲得した前香港政務官の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が当選。7月1日から行政長官に就任する(任期5年)。
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