民主派が8割超の圧勝 香港区議会選 民意でも中国動じず | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

民主派が8割超の圧勝 香港区議会選

親中派は1割超、与野党逆転

民意でも中国動じず 国際社会は厳しい視線

 

政府への抗議デモが続く香港で11月24日に行われた香港区議会選挙では民主派が全452議席の3分の2にあたる300を超える8割超の議席を獲得して圧勝した。1997年の中国返還後、民主派による過半数の獲得は初めて。民主派が圧勝したことで中国政府は香港政策の見直しを迫られるが、林鄭月娥行政長官の辞任や五大要求の一部譲歩に動くかどうかは極めて難しく、今後も抗議デモの継続が香港を衰退させる可能性が残っている。(香港・深川耕治)

 

▲若手の民主派候補が次々と当選した香港区議会選挙は「加油(ガンバレ)」の支持も

 

民主派の改選前の議席は約3割だったが、当方の半年前からの予想通り、今回の選挙で大幅に躍進。最終的には388議席まで伸ばした。

 

民主派はデモを支持する民意が示されたとして普通選挙の実現などの要求を強める構えだが、ここまでは予想通りで、今後は中国政府、香港政府がどう動くかが最大の焦点だ。現状では、民意が反映されたとはいえ、中国政府は現状を変える動きはほとんどない。

 

区議選の投票率は暫定で71・2%に達し、過去最高だった前回選挙の最終的な投票率を約24ポイントも上回り、投票率の高さを更新した。市民やデモ隊の要求を拒み続ける香港政府への不信や政治変革を求める強烈な機運が高まったことで、投票率が大幅に上昇した。

 

得票率では民主派が57%、親中派が41%で、民主派が圧勝というわけではない。

 

区議会選は議員1人を選出する小選挙区制度のため、民主派が接戦を制して地滑り的な勝利を収めた形だ。

 

民主派の大勝利と浮かれてはいけない。香港の政治動向に最も大切な立法会選挙、行政長官選挙での親中派と民主派のバランスがどう変化していくか、冷静に見通す必要がある。

 

中国政府としては、議席の勝敗よりも、むしろ、得票率の動向を意識し、親中派になお有利な立法会選挙で、いかに「負けない選挙にするか」、得票から有効な当選が導き出せるよう、来秋の立法会選挙での選挙対策に力を注ぐことになりそうだ。

 

 

 

民主派は選挙戦で、デモに参加する若者らを積極的に擁立し、政党に属しない無所属の若者候補も多く現れ、全選挙区で親中派と対決する構図となった。香港・中国の両政府を支持する親中派は社会の安定を訴え、巻き返しをはかったが及ばなかった。

 

区議会選挙では、政府への抗議デモを呼びかけてきた民主派団体トップ「民間人権陣線(民陣)」代表の岑子杰氏やデモに参加してきた抗議デモに参加してきた香港中文大学4年生の陳易舜氏、香港島の湾仔地区で現職候補をやぶった元警察官の邱汶珊氏ら多くの新顔議員が当選して異彩を放っている。

 

▲親中派の非常に注目された「三料議員」と呼ばれる張国釣候補、何君堯候補、田北辰候補は落選。親中派にとっては大きな衝撃だった

 

 

今回の区議選では暴漢に負傷された親中派の何君堯候補、香港財界を牛耳る親中派の田北辰候補などが落選。ただ、民主派も大物候補が落選しているが、無名新人の抗議デモに同調する無所属候補が圧倒的に健闘した。

 

▲急落して辞任に追い込まれた親中派政党・民建連の李慧琼党主席(左)と圧勝した民主派最大政党の胡志偉民主党主席(右)。民意の明暗がはっきり分かれた

 

民主派は飛龍のように躍進した。

 

区議会選挙で18区452人の当選者のうち、民主派は392議席。全体の86%を占めるようになった。民主派で最大政党である民主党は99人を立候補させ、91人が当選。新民主同盟は20人を立候補させ、19人が当選。公民党は36人を立候補させ、32人が当選。工党は7人を立候補させ、7人当選。民協は21人中19人が当選、熱血公民は2人が当選した。

 

▲香港区議選で地滑り的圧勝だった民主派の最大政党・民主党は満面の笑み

 

 

▲親中派の香港立法会での与党だった民主建港協進連盟(民建連)の李慧琼党主席(中央)は若手女性リーダーとしての求心力を失い、敗北会見を行い、職務辞任を表明した

 

一方、香港の真の民意に背いた親中派は泥船に乗った状態でボロボロだ。

 

親中派で当選したのは、わずか60人。

 

前回の327議席からの急落ぶりは、中国返還後、常に与党だった親中派が完全な野党に下野したことを意味し、面子すら保てず、目も当てられない状態だ。

 

香港での抗議デモが巨大化し、一部で過激化することへの批判があるものの、それを強圧的に取り締まり、無差別的に逮捕していく香港警察への対応に対して、大半の香港市民は強烈に反発。

 

しかし、親中派は、その警察を支援、支持する方針を選挙で打ち出したことが致命的となった。

 

今回の選挙でとくに急落したのは親中派の各政党の中でも民主建港協進連盟(民建連)と工連会だと言える。

 

親中派の最大与党である民主建港協進連盟(民建連)は181人を立候補させ、当選はわずか21人。117議席がわずか21議席になる急転直下の急落となった。

 

工連会は62人出馬し、当選はわずか4人。自由党は5議席、経民連3議席。新民党にいたっては議席ゼロに終わった。完敗である。

 

工連会は香港各地の親中系の労組組織が基盤となっており、弱者救済の政策で区議会でもかなりの求心力があったが、今回は62人の候補を出しながら、当選したのはわずか4人。

 

工連会の呉秋北主席は「テロの恐怖で正常な選挙活動ができなかったが得票数は倍に増えている。来秋の立法会選挙に向けて戦略見直しが必要だ」と悲痛な面持ちだ。親中派は来秋の立法会選に向けて、選挙のてこ入れを強烈に行うが、カギを握る無党派中間層は民主派支持の流れを変えそうにない。

 

ただ、工連会のように地元の生活密着型の政策を積み重ねてきた親中派の活動は侮れず、根強い親中派の岩盤層はなお厚く、香港に浸透している。この点を軽んじてはいけない。実際に直接取材してみても、この点は、かなり、重厚であり、地道な努力と年輪を感じさせる。もちろん、民主派も同様だ。

 

 

▲民主派は区議選後も五大要求を継続して政府に要望し続ける決意


区議選は1人1票の直接選挙で争い、香港で「最も民意を反映しやすい選挙」とされているが、立法を預かる立法会議員選挙に比べて、政治的な効力は限定的で地方議会のような役割。中国政府は区議会選での民意をさほど高くは評価しないスタンスを貫くと見られる。

 

だが、6月にデモが本格化してから最初の選挙で、政府への信任を問う「事実上の住民投票」であるため、国際社会からは、中国政府の頑なな態度は民主化への強い関心を示す西側諸国からは厳しい視線で批判を受け続けることになる。

 

▲香港警察の抗議デモ参加者への無差別の弾圧取り締まりに抗議する声

 

今後の焦点は選挙結果を通じた来年1月の台湾総統選挙と来秋の立法会(議会70)選挙だ。

 

今回の区議選では21人の現職の立法会議員も立候補し、うち11人は当選、10人は落選した。

 

当選した立法会議員11人のうち、7人は民主派、4人は親中派だ。

 

香港で新法案を通せるかどうかは立法会での議席割合で決まる。

 

今年6月から逃亡犯条例案の賛否をきっかけに激しい抗議デモが展開されたのは、香港で逮捕された者は中国本土に移送され、三権分立が確立されていない中国共産党一党独裁の中国で罪状が勝手に加味されて裁かれることへの徹底した不信と猛烈な反発がある。

 

さらにはデモ抗議者への覆面禁止条例が猛烈な抗議感情に輪をかけた。中国政府の一党独裁による「一国」最優先、「二制度」付随という論理では、香港市民をまるで国内法で押し切るウイグル、チベットと同じく対処しているようにしか香港人には見えない。

 

清朝が倒れる時、中華民国設立に動いた孫文が香港、広東省を拠点に革命を行い、中国全土に広がったように、広東の集約地でもある香港は政治デモに対して「死士」(抗議のために命を厭わない人々)を輩出する徹底した民主的な抗議を行う素地がある。そこを中国政府は見誤ったら、習近平政権の足元を揺るがすことになる。

 

▲中国政府の操り人形のような政治スタンスでレームダック化した香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官。「区議選の結果は、政府への不満だと真摯に受け止める」と表明したが、辞任の決断は中国政府の決断に牛耳られている

 

立法会で親中派が40議席を上回る状態では法案審議で否決権を持つ最低限の議席数を持つ全体の三分の一に達しない野党は、中国の意向が強い法案をごり押しで通過させることを阻止できなくなる。

 

民主党のベテラン議員である涂謹申立法会議員は、今回、区議会議員としても当選したが、「来秋の立法会選挙では民主派が30議席を超える可能性がある」と記者(深川)との単独インタビューで答えている。

 

 

香港の政局の現状では、70人の立法会議員のうち直接選挙で選ばれる35人については民主的な選挙で選ばれるため、30議席を超える勢いと可能性は潜在的には極めて強いものがあるだろう。

 

ただ、中国政府や親中派の各党は、徹底してこれを阻止するための画策、一国二制度の新解釈で次の一手を熟慮中だ。

 

来年3月の中国での全国人民代表大会(全人代=国会)で香港問題について、一国二制度に関する新たな解釈が出され、香港の普通選挙実現に向けて規制線が張られることも十分あり得るし、中国の圧力で抗議デモの第二幕が上がる事態になりかねない。

 

一方、民主派はデモ隊を「一部の暴徒」などとする香港政府を今回の選挙による民意で追い込み、警察の暴力を検証する独立調査委員会の設置などを粘り強く迫り、風穴を開けて行く動きだ。

 

香港の有権者は中国政府の圧力のかけ方に非常に敏感になっており、選挙では強烈な拒絶感が一票として反映されることが今回の区議選でも明らかだ。

 

レームダック(死に体)状態の林鄭月娥月行政長官がいつまで行政長官を続けるか。

 

立法会選挙前の辞任は、中国としては絶対にさせたくない中央政府としての面子がある。引き際のタイミングは面目を保つ形でしかできない。

 

 

このまま民主派有利の有権者心理が続けば、一国二制度が機能していない香港は、国際社会の厳しい視線に曝され、来秋の立法会選挙で香港情勢は大きな山を迎えることになる。

 

来年9月の香港立法会選挙に向け、今後、抗議活動はさらに激しさを増すことも予想される。

 

2020年9月に投開票される香港立法会選挙の結果次第では、林鄭月娥行政長官の中途辞任はあり得るし、2022年3月の行政長官選挙を待たずして、新たな行政長官を中国が水面下で擁立し、2022年3月の行政長官選挙に臨むというシナリオが十分立てられる。

 

さらには、来年1月に迫った台湾総統選への影響は絶大だ。

 

中国が台湾、香港に対して圧力をかければかけるほど、民意は猛烈な反発を示す。香港の一国二制度の現状を見れば、台湾で一国二制度を受け入れることは台湾を中国化したい意図のある人以外はあり得ない。

 

香港での抗議デモをめぐる一連の動向は、台湾の最高指導者を選ぶ台湾総統選で中国の脅威にさらされないために、どの政党を選ぶか、政治経済の問題に非常に敏感な台湾の有権者には露骨なほど、反映される。

 

今回の区議選での民主派の圧勝は、台湾総統選での蔡英文総統続投への強力な礎となるだろう。

 

【香港区議会】

香港の地方議会に相当し、4年に1回、18の区で一斉に改選される。予算や条例をつくる権限はなく、公共サービスや福祉など住民の暮らしに関わる政策を政府に提言するのが主な役割。直接選挙で選出される452人の議員のほか、先住民が暮らす地域の代表が務める27人の議員枠がある。選挙前の議席数は親中派が7割。行政長官を選ぶ選挙委員会1200人のうち、117人は区議会議員枠で、区議会選挙の結果は行政長官選挙にも1割程度、影響を与えることになる。

 

 

民主派  392席(86.7%)

親中派   60席(13.3%)

 

民主黨:參選99人,當選91人
公民黨:參選36人,當選32人
新同盟:參選20人,當選19人
工黨:參選7人,當選7人
民協:參選21人,當選19人
社民連:當選2人
民建聯:參選181人,當選21人
工聯會:參選62人,當選4人
經民聯:參選25人,當選3人
新民黨:參選28人,當選0人
實政圓桌:參選11人,當選2人
自由黨:當選5人
公民力量:當選0人

 

 

 

 

 

民主派、初の過半数獲得へ 香港区議会選

 

区議会選延期への方策か 香港 抗議の取り締まり強化

 

民意問う区議選へデモ休戦なるか 香港 過激化抑止できぬなら延期も

 

香港は持久戦、収束見えず景気低迷 区議会選で民意鮮明

 

建国70周年前に決着どこまで 香港デモ

 

白色テロ憎悪の連鎖、親中派も増幅 香港 民主派デモ隊に暴行

 

「熱血公民」の鄭松泰香港立法会議員に聞く

 

「香港の良心」陳方安生氏に聞く 指導力改め、真の一国二制度堅持を

大学生が見る暗い近未来 連載・香港憤激【下】

資金洗浄の逃避できず 逃亡犯条例案 連載・香港憤激 【中】

自由死守に立ち上がる若者 連載・香港憤激 【上】

過激化した立法会占拠に賛否 激憤する香港の若者たち

香港立法会をデモ隊が一時占拠 催涙スプレー使う警察

観衆なき異例の国旗掲揚式 香港返還22周年

厳戒体制がピークの香港 中国返還22周年
逃亡犯条例案、完全撤回どこまで 香港

民主派が惨敗 議員立法の否決権失う 香港補選
独立派の立候補排除 香港立法会 補選で民主派、代理立て苦慮  

香港カトリック教区の陳日君枢機卿に聞く 

香港カトリック教区名誉司教の陳日君枢機卿 【中華の「顔」】

香港立法会、補選スタート 剥奪議員の雪辱、選管の判断次第
同性婚容認の司法判断に反発 台湾
政治弾圧に反対デモ 「雨傘運動」の主導者ら2000人 香港

中国国歌へ止まぬブーイング 香港 中港矛盾で世論二分も
経済協力28兆円、米中首脳が北朝鮮問題で協調演出  

京劇観覧中にウトウト 中国夢にうなされるトランプ米大統領

習氏一強、見えぬ後継で基盤着々 中国指導部

頼行政院長の実務能力次第 台湾の蔡政権浮揚

革命英雄礼賛で愛国鼓舞 中国教科書
ポスト「一国二制度」問う動き 香港
返還50年後の色は赤と黒 香港青少年座談会

空母「遼寧」、時間差で香港へ 連載 「一国二制度」の前途(下)

民主化進まず格差拡大、独立論の背景に 連載「一国二制度」の前途(中)

中国から移民増、狭さに悲鳴 香港・中国返還20年(上)

民主化デモは大幅減少 香港返還20周年

習近平国家主席の香港での一挙手一投足 香港返還20周年  

香港自決派、台湾与党と連携強化へ 香港返還20周年で危機感

陣痛期の1年、大なた振るえず 台湾・蔡英文政権   
急成長する新型レンタサイクル業界 中国 ofo、摩拝単車に他社急追

台湾の同性婚合法化、ヤマ場に 賛否二分で着地点見出せず

親中派の林鄭月娥氏が当選 香港行政長官選

中国「本命」の林鄭氏優位に 香港行政長官選

旺角暴動の3被告、有罪に 香港区域法院(地裁)

林鄭月娥氏の優位変わらず 支持率は低迷 香港行政長官選挙

中国返還20周年で汚職「赤信号」 前行政長官に禁固1年8月 香港

香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察  

有力候補一本化できず激戦に 香港行政長官選

台湾の同性婚合法化、ヤマ場に 賛否二分で着地点見出せず   

親中派の林鄭月娥氏が当選 香港行政長官選   

中国「本命」の林鄭氏優位に 香港行政長官選

旺角暴動の3被告、有罪に 香港区域法院(地裁)
林鄭月娥氏の優位変わらず 支持率は低迷 香港行政長官選挙

中国返還20周年で汚職「赤信号」 前行政長官に禁固1年8月 香港

香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察  

有力候補一本化できず激戦に 香港行政長官選挙


【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】

劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回

大気汚染改善を自賛する陳吉寧中国環境保護相 【中華の「顔」】

劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第2回
秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回

呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  

新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回
親中派団体「愛港之声」代表の高達斌氏 香港「自治」の行方 連載第6回
梁家傑公民党名誉主席(上) 香港「自治」の行方 連載第7回

梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回   

香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回