香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察
党幹部親族の資産運用、汚職取締も
揺らぐ一国二制度、長官選にも影響
銅鑼湾書店主の失踪と酷似


習近平国家主席ら中国共産党幹部の親族らの資産運用に深く関わっていたとされる香港滞在中の中国本土出身の著名財界人、肖建華氏(45)が中国公安当局によって香港内の高級ホテルから拉致・連行されて中国本土へ入境した疑いがあるとして香港警察当局は1日までに捜査を開始した。15年にも書店関係者が香港で中国公安当局から拉致・連行される事件が発生。香港の高度な自治を保障する一国二制度が根底から揺らいでおり、3月26日の行政長官選挙にも影響を与えそうだ。(香港・深川耕治)



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事件は1月30日、米国に拠点を置くニュースサイト「博聞社」(写真左)が、肖氏は1月27日未明に居住する香港フォーシーズンズホテルから中国公安局と国家安全部の私服職員らに連行された報じたことで発覚。


香港警察は1月28日、家族からの通報と捜索願を受けて捜査を開始し、1月27日に香港から中国本土へ出境したことを確認している。1月29日、家族が本人から無事でいるとの連絡を受け、警察当局への捜索願の取り下げを申し入れたが、香港警察は捜査を継続し、中国の担当部門に協力を要請している。

ニュース報道で騒ぎが大きくなり、肖氏は自社ウェブサイト(写真右)や香港紙「明報」の全面広告などを通じて誘拐や拉致を否定する声明を発表。「海外で療養中だ。安心してほしい」として反政府勢力との関わりも否定し、近日中に記者会見を開くと説明して火消しに躍起だったが、その後、ネット上の声明も閲覧できなくなっており、事件の真相は不透明な闇の部分が多い。


肖建華氏(写真左)は商業銀行や証券会社など複数の中国企業を傘下に持つ明天集団の創業者。1971年、山東省肥城市生まれで北京大学法学部に入学後、北京大学学生会主席、全国学生連合副主席などを歴任したが、1989年6月の天安門事件当時、民主化デモを突然止めて大学当局と協力し、武力鎮圧前に抗議活動が収束するよう工作したとされる。


しかし、香港誌「壱週刊」の直接取材には同事件当時、学生の抗議活動に参加したことを否認している。


大学卒業後、北京大学周辺でパソコン販売を手がけ、大学が資金援助するハイテク企業を立ち上げ、潤沢な資金力で明天集団を急成長させた。資金力は曽慶紅元国家副主席の息子で石油ビジネスを手広く行ってきたオーストラリア国籍の曽偉氏(48)と密接な関わりがあるとの一部報道もある。


また、戴相龍・元人民銀行総裁(元天津市長)の娘婿である車峰氏、梁光烈元国防相の息子の梁軍氏、賈慶林元全国政治協商会議(政協)主席の娘婿の李伯譚氏など汚職疑惑の絶えない太子党(党幹部の子弟)と親しいとの香港紙報道もある。


12年から香港に移住し、就労ビザ(査証)を取得して香港の高級ホテル住まいを続け、カナダ国籍も取得。資産総額は400億元(約6400億円)超という資産家だ。


北京大学情報管理系を卒業した妻の周虹文氏は北京大学方正集団で勤務後、事業を拡大。銅鑼湾書店の拉致事件で香港滞在を不安視し、日本への転居時期もあったという。肖氏は太子党との関係が深く、習国家主席ら党幹部の親族の資産運用に関わっていたとされるため、今回の拘束は習近平政権が進める反腐敗との関連性、権力闘争が取り沙汰されている。


明天集団は06年、中国の太平洋証券の上場問題で取り締まりを回避するため、肖建華氏は中国を出国して香港に滞在し、カナダ国籍も取得している。反習近平派が習氏家族の不正をあぶり出すための拘束との一部報道もある。


2015年、香港では中国の習近平指導部に批判的な書籍を扱っている銅鑼湾書店の関係者5人が中国公安当局者に拉致・連行される事件が発生し、中国当局が香港内では捜査権を執行できないとする一国二制度の原則を有名無実化する事件に大きな波紋が広がっていた。


失踪後、香港に戻った銅鑼湾書店の林栄基店長は失踪事件の捜査取り消しを香港警察に求めるよう当局に指示されたことを香港メディアの取材に答えており、香港滞在期間は携帯電話のショートメールでの行動報告が義務づけられていたという。


今回の事件も中国公安当局の私服組が香港で拉致・連行するという点や家族に無事を知らせる連絡が来て失踪事件の捜査取り消しを求めている点では銅鑼湾書店事件と酷似しており、中国が香港の司法権を侵害する露骨な行為に香港では深刻な不安と失望が広がっている。


港では実質トップの評価を誇る香港大学のピーター・マジソン学長が2日、同大の人事問題が政治的に複雑化する中、任期途中で辞任することを発表。学界でも中国政府の干渉圧力が強まり、行政長官選の立候補者の党派制、中央政府との連携などに注目が集まっている。


香港経済紙「信報」が香港中文大学に委託した最新世論調査(1月18~24日実施)結果によると、3月26日に行われる香港トップの行政長官選に立候補表明している候補者の中で支持率トップは曽俊華前財政官(33.5%)、2位は林鄭月娥前政務官(30.9%)、3位は胡国興・元判事(8.1%)、葉劉淑儀新民党主席(6.4%)となっている。


現実的にだれが当選するかとの問いには林鄭月娥氏が63.1%でトップ。2位の曽俊華氏(17.4%)を大きく引き離している。



【香港の近年の主な動き】

 

2014年8月 中国が17年の香港行政長官選挙で、事実上、民主派の立候補を制限する制度改革案を決定
 

2014年9月〜12月 改革案に反発した香港の若者らが香港中心部の大通りを占拠する「雨傘運動」。抗議は79日間続き、計955人が逮捕
 

2016年1月 中国共産党に批判的な本を扱っていた書店関係者5人の失踪が問題となり、抗議デモに約6千人が参加

 

5月 中国共産党序列3位の張徳江氏が香港を訪問し、「少数の者が(国の)分裂をあおっている」と独立論を牽制(けんせい)

 

7月〜8月 立法会選挙で、独立などを訴えていた計6人の立候補を取り消し
 

9月7日 立法会選挙で独立を視野に入れる「青年新政」の2議員が当選

 

10月12日 議員宣誓が無効に
 

11月7日 全人代常務委が2議員の資格を無効とする基本法の解釈を示す


11月30日 香港高等法院(高裁)が議員資格失効に異議申立をした2議員の申し立てを却下


12月2日 香港政府が香港高等法院(高裁)に新たに4人の立法会議員の議員資格失効を求めて審査申し入れ


12月9日 梁振英香港行政長官が来年3月の行政長官選挙への不出馬を表明


12月12日 11日に投票された香港行政長官選挙の選挙委員(定数1200)を決める各界グループ別選挙で親中派が786人、民主派は339人(約27%)を獲得。


2017年1月12日 林鄭月娥政務官が辞任表明し、行政長官選挙への出馬を表明


2017年1月19日 曽俊華前財政官が中央政府から辞職受理され、行政長官選挙への立候補を正式表明。


香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察


有力候補一本化できず激戦に 香港行政長官選挙


【中華の顔】


香港行政長官選で財界支持を広げる曽俊華氏 【中華の「顔」】


香港行政長官選へ出馬間近の林鄭月娥政務官 【中華の「顔」】

 

議会での宣誓問題で議員活動ができない游蕙禎香港立法会議員【中華の顔】  


中国を支那と表現した梁頌恒香港立法会議員 【中華の「顔」】

 

香港立法会選でトップ当選、脅迫受ける朱凱廸氏 【中華の「顔」】  

 

香港独立は市場経済では不可能と語る曽俊華香港財政官  

 

香港立法会選挙で脅迫を受ける何麗嫦・選挙管理委員会主任     
 

映画「十年」の蔡廉明プロデューサー   


梁振英行政長官が再選不出馬を表明 香港


民主派議員4人の資格取消申し立て 香港政府  


独立の動き、早期封じ込め 香港  

 

本土派2議員の資格喪失で圧力 香港政府   


習近平国家主席が香港行政長官と会談 再選支持表明なし   

香港高裁も2議員資格「剥奪」判決 両議員は控訴準備へ  

 

議員資格剥奪問題で揺れる香港 一国二制度の矛盾噴出

 

危うい反米親中路線へ転換 中比首脳会談  

 

中国式慈善、疑惑が権力闘争にも 愛国慈善家・陳光標氏が窮地   


【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】

劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回


劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く  連載第2回

 

呉秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回   

 

呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  

 

新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回


親中派団体「愛港之声」代表の高達斌氏 香港「自治」の行方 連載第6回    

梁家傑公民党名誉主席(上) 香港「自治」の行方 連載第7回    
 

梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

 

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回

 

香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回

 

 

 

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中台安定維持へ第一投 翁明賢淡江大学国際事務戦略研究所長に聞く 上  
 

対中依存脱却へ経済浮揚策 翁明賢淡江大学国際事務戦略研究所長に聞く 下


 

【連載 蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題  

 

「天然独」という若者のうねり 蔡英文時代の台湾 連載1


 

村上春樹現象に見る日本との絆 蔡英文時代の台湾 連載2  


 

経済浮揚、日本と連携が必要 蔡英文時代の台湾 連載3  


 

蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題 連載4(最終回)  

 

 

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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)

 

同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。

 

同性婚が認められる国・地域は以下の通り。

 

オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)

登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。

写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。

 

中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体

 

連載 中華圏に浸透する同性婚