梁振英行政長官が再選不出馬を表明 香港 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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梁振英行政長官が再選不出馬を表明 香港
支持率低迷、「家族問題」が理由に
曽俊華財政官が最有力、葉劉淑儀も出馬表明


香港トップの梁振英行政長官(62)は12月9日、香港で記者会見し、来年3月の行政長官選挙に立候補しない意向を明らかにした。香港の行政長官は任期5年で再選すればもう一期5年まで務められるが、「家庭の問題で再選出馬はしない。父親、夫としての責任を考慮し、決断した」と表明。記者会見では「中央政府から職責を高評価されている」と自賛しているが、支持率低迷が続いており、中国政府指導部の了承を得ての判断とみられる。(香港・深川耕治)


 

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来年3月末の行政長官選挙を控え、「突然の爆弾発言」(12月9日の香港地上波テレビTVBニュース報道での表現)だった。


同記者会見で梁長官は「父親、夫としての責任感から立候補しないことを決めた。香港は選挙で優れた行政長官を選ぶことができるが、子どもたちや妻にとって父親や夫は私以外にはいない」と述べた上で「もし、立候補すれば、今後数ヶ月間の選挙運動中、家族は耐えられない圧力を受けることになる。家族を守らなければならない」と話し、「立候補しない意向はここ数日で中央政府に説明した。これまで中国最高指導部、中央政府がずっと支援してくれてきたことは香港のだれもが知るところだ」と中央政府からの解任圧力があったことを否定。


後継者問題については「だれが適任であるか自分なりの考えはある。だれが当選しても、中央政府が指名しても支持する」と中央政府の意向通りの考え方を示唆した。


梁長官は最近取り沙汰されていた長女の情緒不安定による体調不良問題については一切コメントせず、「プライバシーが侵害されないようにすることが家族を守る私の務めだ」と牽制。最近、梁長官は唐青儀夫人と共に香港・新界地区の沙田(シャーティン)にあるプリンス・オブ・ウェールズ病院をたびたび訪れ、心療内科の治療を含めて入院している長女を見舞っており、8、9日も訪れていた。


梁氏は2012年3月、行政長官選挙で1200人の選挙委員の投票で689票を獲得して当選。同7月、行政長官に就任し、2014年秋の大規模デモ「雨傘運動」で民主派への対話譲歩を拒否して強制排除するなど中国指導部の意向に従ってきた。しかし、独立を視野に置く本土派、自決派の立法会議員に対する資格剥奪を司法に委ねる形で断行するなど、中国寄り過ぎるスタンスに対する拒否反応も強く、中国本土観光客の爆買問題などで財界系の親中派政党・自由党からさえも反発が強まるなど、支持率が低迷していた。


中国政府は梁長官が再選立候補しないことを表明したことについて9日、中国国務院の香港マカオ事務弁公室の報道官は「決定は残念だが国の主権を守り、香港独立の気運を抑え、香港の安定のために尽力した。今後は次期政権基盤を築くことを期待する」とし、香港基本法を遵守し、香港独立と闘ったことを高く評価。親中派の最大政党である民建連も「社会の損失だが長官の個人的意向を尊重する。家族をそっとさせておくべきだ」と惜別した。


一方で民主派は「再選のための立候補をしないことは歓迎するが、今後半年、警戒を緩めてはならない」(公民党の毛孟靜立法会議員)と述べ、政治制度改革の推進が重要であるとの考えを示した。香港政府から就任宣誓の無効を香港高等法院(高裁)に訴追されている香港衆志の羅冠聡立法会議員は「家族問題はあるのだろうが、決定は本人の意志ではなく、北京政府上層部から来たものだろう」と分析している。


親中派内では梁振英行政長官の不出馬宣言は「家庭問題だけでなく、習近平指導部が行政長官選挙で梁氏が過半数となる601票以上を獲得できる見通しが立たないことが要因」との見方が出ており、「立候補断念を中央政府から迫られた」(香港紙「明報」、「りんご日報」など)と報じる香港メディアもある。


梁氏の不出馬表明を受け、親中派・新民党の葉劉淑儀主席(66)が9日、正式に出馬表明し、「香港に奉仕するため常に最善を尽くしてきた。梁長官の決断は私には大きな違いはない」と述べ、すでに立候補表明している胡国興・元高等法院(高裁)判事(70)は「梁長官の決断で社会の分裂が緩和される。中断していた政治制度改革が再開できる」と話している。




世論調査で最も高い支持率を維持する香港ナンバー3の曽俊華(ジョン・ツァン)財政官(65)も立候補に意欲を示しており、ポスト梁振英は曽財政官が最有力との見方が大勢となっている。


中国系の香港紙「文匯報」は12月10日、速報で香港ナンバー2の林鄭月娥政務官が「行政長官選挙(出馬是非)へ新たな考慮をしている」と報じ、中央政府の意向で林鄭政務官の出馬も取り沙汰され始めている動きとなっている。


奇しくも12月9日は韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追案が国会で可決され、職務停止に追い込まれた日。


香港の金融街であるセントラル(中環)を占拠する運動を展開し、雨傘運動へ発展させた発起人の一人、香港大学の戴耀廷副教授は「韓国でのデモ効果と同様、海外メディアにアピールしていけば大規模デモを再び展開できる」として毎週土曜に政府庁舎前を再占拠することを呼びかけており、第二の雨傘運動による大規模デモを準備し始めている。


梁長官が再選立候補を断念したとしても、政府による民主派の立法会議員4人に対する議員資格取消訴追は継続するため、今後、親中派と民主派、本土派との対立は激化する火種は多い。来年4月以降、議員就任宣誓を認められずに議員資格を剥奪された本土派の立法会議員2人の補欠選挙が行われるため、だれが行政長官に選ばれても、香港独立や自決を主張するグループとの対立は避けて通ることはできない。一国二制度の矛盾点は50年という猶予期間の中で決着を見るにはなお道は険しい状況が続いている。


 



【香港の近年の主な動き】

 

2014年8月 中国が17年の香港行政長官選挙で、事実上、民主派の立候補を制限する制度改革案を決定
 

2014年9月〜12月 改革案に反発した香港の若者らが香港中心部の大通りを占拠する「雨傘運動」。抗議は79日間続き、計955人が逮捕
 

2016年1月 中国共産党に批判的な本を扱っていた書店関係者5人の失踪が問題となり、抗議デモに約6千人が参加

 

5月 中国共産党序列3位の張徳江氏が香港を訪問し、「少数の者が(国の)分裂をあおっている」と独立論を牽制(けんせい)

 

7月〜8月 立法会選挙で、独立などを訴えていた計6人の立候補を取り消し
 

9月7日 立法会選挙で独立を視野に入れる「青年新政」の2議員が当選

 

10月12日 議員宣誓が無効に
 

11月7日 全人代常務委が2議員の資格を無効とする基本法の解釈を示す


11月30日 香港高等法院(高裁)が議員資格失効に異議申立をした2議員の申し立てを却下


12月2日 香港政府が香港高等法院(高裁)に新たに4人の立法会議員の議員資格失効を求めて審査申し入れ


12月9日 梁振英香港行政長官が来年3月の行政長官選挙への不出馬を表明


梁振英行政長官が再選不出馬を表明 香港


民主派議員4人の資格取消申し立て 香港政府  


独立の動き、早期封じ込め 香港  

 

本土派2議員の資格喪失で圧力 香港政府  



習近平国家主席が香港行政長官と会談 再選支持表明なし  



香港高裁も2議員資格「剥奪」判決 両議員は控訴準備へ  

 

議員資格剥奪問題で揺れる香港 一国二制度の矛盾噴出

 

危うい反米親中路線へ転換 中比首脳会談  

 

中国式慈善、疑惑が権力闘争にも 愛国慈善家・陳光標氏が窮地  

 

【中華の顔】

 

議会での宣誓問題で議員活動ができない游蕙禎香港立法会議員【中華の顔】  


中国を支那と表現した梁頌恒香港立法会議員 【中華の「顔」】

 

香港立法会選でトップ当選、脅迫受ける朱凱廸氏 【中華の「顔」】  

 

香港独立は市場経済では不可能と語る曽俊華香港財政官  

 

香港立法会選挙で脅迫を受ける何麗嫦・選挙管理委員会主任     
 

映画「十年」の蔡廉明プロデューサー  

 

 

【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】

劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回


劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く  連載第2回

 

呉秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回   

 

呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  

 

新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回


親中派団体「愛港之声」代表の高達斌氏 香港「自治」の行方 連載第6回    

梁家傑公民党名誉主席(上) 香港「自治」の行方 連載第7回    
 

梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

 

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回

 

香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回

 

 

 

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中台安定維持へ第一投 翁明賢淡江大学国際事務戦略研究所長に聞く 上  
 

対中依存脱却へ経済浮揚策 翁明賢淡江大学国際事務戦略研究所長に聞く 下


 

【連載 蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題  

 

「天然独」という若者のうねり 蔡英文時代の台湾 連載1


 

村上春樹現象に見る日本との絆 蔡英文時代の台湾 連載2  


 

経済浮揚、日本と連携が必要 蔡英文時代の台湾 連載3  


 

蔡英文時代の台湾 本土派路線のビジョンと課題 連載4(最終回)  

 

 

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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)

 

同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。

 

同性婚が認められる国・地域は以下の通り。

 

オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)

登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。

写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。

 

中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説

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連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体

 

連載 中華圏に浸透する同性婚