中国式慈善、疑惑が権力闘争にも 愛国慈善家・陳光標氏が窮地 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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中国式慈善、疑惑が権力闘争にも
愛国慈善家・陳光標氏、一転窮地に
来秋の党大会人事へ派閥激化
共青団派への牽制、先鋭化も


派手なパフォーマンスで知られる中国の実業家、陳光標氏(48)が中国メディアから慈善活動組織の公印偽造や寄付金受領捏造疑惑を報じられ、政治的波紋を広げている。来秋の党大会で最高指導部入りが有力視されていた中国共産主義青年団(共青団)派の有力者、李源潮国家副主席との関わりがあることで共青団派を牽制する習近平政権内の権力闘争との見方も出ており、愛国慈善家の虚実からも党内人事の主導権争いは激化している。(香港・深川耕治)




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 汚職問題でスクープ記事を出している中国のニュースサイト「財新ネット」は9月20日、陳氏の経営する南京市の会社が公印170個以上を偽造、寄付金の領収書を捏造した疑惑があるとして当局が捜査中であることを暴露した。調査報道で知られる同サイトによると、陳氏が建設したとされる名前の小学校は実在せず、寄付金総額20億元(約310億円)も水増し疑惑があるとしている。

陳氏は9月22日の記者会見で疑惑を否定。記事が名誉毀損にあたるとして財新ネットの運営会社を相手取り、100万元の損害賠償と謝罪を求める訴訟を起こした。自身のダイエットに関しても胃の手術で痩せたとの疑惑を払しょくするため、突然、歌いながら上半身を脱いで身の潔白を証明しようとするパフォーマンスも行った。


陳氏は江蘇省宿遷市出身で南京中医藥大を卒業後、環境保全ビジネスで大成功。推定資産額が4億ドル(約407億円)以上とされ、陳氏江蘇黄埔再生資源利用公司理事長となり、派手な慈善活動で有名になった。

2008年の四川大地震では自社の救援隊約200人を組織して被災地に乗り込み、14人を救出。「全国道徳模範」「労働模範」などと評され、一躍、注目を浴びる。米紙に尖閣諸島(沖縄県石垣市)を「中国の領土だ」と主張する広告を掲載して愛国慈善家との評価を受けた。11年には台湾を訪れ、低所得者向けに現金5億台湾ドル(約16億円)分を提供。12年の反日デモでは日本車を壊された中国人に国産車を贈呈し、理性的な愛国を促したこともある。

米紙ニューヨーク・タイムズの買収に乗り出し、2013年8月、同紙に安倍晋三首相に靖国神社への参拝を断念するよう求める意見広告を出して注目された。14年1月、同紙買収を申し出たが、株主に門前払いされて断念。ワシントン・ポストやCNNなどの買収も検討し、中国内では、なお、愛国慈善家と見なされて来た。

一方では南京市で重さ計16トンもの百元札を積み上げて3面の壁と机を作り、決めポーズを作って自らの経済活動を自慢するパフォーマンスを行ったり、ベンツの上で熱唱するなど自己顕示欲も強い。14年、ニューヨーク訪問時には貧困者に「現金300ドル(約3万円)をプレゼントする」と新聞紙上で派手に告知しながら、実際は昼食を提供しただけに終わり、慈善活動に名を借りた売名行為との非難も浴びた。中国式の慈善活動には国益を前提とした愛国ボランティアのイメージが、良くも悪しくも広がったことになる。

しかし、「財経ネット」は陳光標氏が慈善事業の不正だけでなく、7月に収賄罪などで無期懲役の実刑判決を受けた令計画・前人民政治協商会議副主席の汚職事件をめぐり、15年から当局の調査を受けていたことを明らかにした。

同じ江蘇省出身の李源潮国家副主席とも親交があり、ネット上では3人が並んで一緒に撮影された写真も広く流布。令計画氏、李源潮氏は共産主義青年団(共青団)出身で習近平国家主席が共青団改革に乗り出し、共青団派の胡錦涛前国家主席や李克強首相などの政治力を削いで共青団包囲網を作っていく政治的思惑も見られる。

8月の北戴河会議で共青団派の更迭人事が相次ぎ、党内の駆け引きが活発化する中、最高指導部入りが有力視される李氏にとっては手痛い失点になりそうだ。

党内では一強となりつつある習近平国家主席を中心とする太子党(習派)、胡錦涛前国家主席や李克強首相らの出身母体である共青団派(団派)、江沢民元国家主席らを中心とする上海閥(江派)の三派閥が来秋の党大会人事に向けて激しい主導権争いを展開している。

現在、7人で構成される最高指導部の政治局常務委員会メンバーの中で習氏と李首相を除く5人は来秋の党大会で引退予定。次期指導部入りが有力視される候補者のうち、3人が共青団派であり、一強を目指す習派としては反腐敗闘争の名目で江派だけでなく、団派の粛正に力を入れ、人事権掌握に向けて党内対立が先鋭化している。


とくに8月初めの北戴河会議の後、雲南省や山西省など省トップの人事異動で共青団派の幹部が次々と引退。習氏の地方勤務時代の複数の部下が代わりに重用され、習派が人事面で主導権を握りつつある。

だが、習国家主席の側近である天津市トップの黄興国・党委員会書記代理(市長兼務)が10日、重大な規律違反で失脚し、団派や江派も反撃に出ている。陳光標氏の疑惑報道についても来秋の5年に1度の最高指導部人事に向けた駆け引きの一端との見方も出ており、党内派閥の先鋭化はさらに激しさを増しそうだ。



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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)


同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。


同性婚が認められる国・地域は以下の通り。


オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)

登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。

写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。


中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説

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連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体


連載 中華圏に浸透する同性婚