「熱血公民」の鄭松泰香港立法会議員に聞く | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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香港基本法の改正こそ急務 混乱続く香港
一国二制度の矛盾、法改正せよ
「熱血公民」の鄭松泰香港立法会議員に聞く

 

 香港は「逃亡犯条例」改正案をめぐる問題が、ついに市民への暴力にまで波及し、社会の分断と亀裂が深まっている。7月21日夜、香港北西部の元朗駅構内で改正案の撤回を求める民主派デモに参加した市民らが突然、白いTシャツ姿の棍棒を持った数十人の集団に襲撃され、45人が負傷、うち1人が重傷を負った。香港社会は亀裂が深まるまま、混乱が続くのか。2016年の立法会選挙で民主派が躍進し、本土派を含む民主派勢力が議席数を伸ばしたものの、議員宣誓で問題を起こしたとして議員辞職を余儀なくされた民主派議員が多い中、唯一、香港本土派の政党「熱血公民」所属の立法会議員として香港の民主化を求めている鄭松泰香港立法会議員に香港の現状と見通しを聞いた。(聞き手=香港・深川耕治、写真も)

 

「中庸」「公共」こそ香港人の精神
香港独立は非現実的 台湾はすでに独立

 

▲香港・尖沙咀(チムサーチョイ)でインタビューに答える鄭松泰立法会議員

 

 ――北京五輪の前後に北京大学に留学し、中国の変化と香港の違いを見極めた上、香港が中国の一般的な普通の都市とは違う発展をすると、なぜ考えるようになったのか。


 「中国と香港の大きな違いは、香港は三権分立が保護されていて、貿易、経済、金融についても成熟していて、中国に対する優位性だ」


 ――香港北部の沙田など、新界エリアは中国大陸と接し、多くの中国大陸客が香港ブランドのものを購入し、中国に戻っていく。その際、いろんなトラブルを生む中で、やはり、地元民はかなり迷惑だと感じているのだろうか。


 「新界西区は中国・広東省深セン(土ヘンに川)に接しているエリアで中国大陸の観光客が香港ブランド品を数多く購入して中国大陸に帰っていく。中国人、外国人が香港に観光で来ること自体は問題ではないし、反対していない。ただ、地元住民や商店街でのトラブルもあり、そのための生活上の多大な悪影響が増えているので、香港政府が旅行客をコントロールした方が良いと考えている」

 

▲香港・尖沙咀(チムサーチョイ)でインタビューに答える鄭松泰立法会議員

 

 ――現在の一国二制度はどこが問題点か。中国と香港は共存共栄はできないと思うか。


 「今回のデモは外国勢力、国際的な勢力もいろいろ参加しているとの批判が中国政府からも指摘されている。でも、基本的には憲政上の部分、香港基本法(ミニ憲法)を変えない限り、法政上の問題点を解決できないし、香港と中国の共存共栄は困難だ。一国二制度に矛盾が噴出しているのは、その根本である香港基本法が香港の現状に合致した完全な法治となっていないからだ。法政上、香港と中国は違うので、長期的に見れば、連邦制は可能かもしれないと考える」


 ――雨傘運動と今回のデモの違いは何か。


 「雨傘運動と今回のデモの違いは、雨傘運動の時は香港基本法の解釈が中国政府と香港市民の間で大きく違っていて、選挙制度の改革をそれに沿って推進することを求めたが、今回は、『熱血公民』としては香港基本法の改正を求めている。社会運動として一つの部分だけの改革をもとめるのではなく、もっと香港社会全体の改革のために、ミニ憲法である香港基本法の内容自体に手を入れて変えていく必要があると主張している」

 

▲香港では香港独立を主張する一部の勢力もあるが、国際社会の支援は難しい立場


 ――香港独立についてどう見るか。


 「香港独立を主張すれば、香港基本法と対立することになる。香港基本法を修正するには中国政府の了承なしには不可能だ。2019年の現時点では極めて困難だが、2016年の時点では立法会選挙で民主派が躍進したので、香港で新たな基本法を策定しようとの気運は高まり、住民投票で決めようとの動きもあった」


 「主流民意になるべき民主派が、ここ数ヶ月で発生している問題(セントラルの人民解放軍の土地問題など)の本質も、結局は香港基本法を修正しない限り、根本的な解決ができない問題だ。香港独立は現状では国際的な支持も少ないし、その主張だけでは外国の支援を得る余地がなく困難。むしろ、香港基本法の改正、修正の方が現実的だ」

 

▲7月1日の民主化デモの直前、民主化を求めるカンパやチラシをまく熱血公民のメンバーたち(香港・コーズウェイベイ)


 ――香港の独自文化は英国領時代にあるか。社会学者として香港人のアイデンティティを一言でいうと何か。


 「香港人のアイデンティティは一言で言うと「中庸」あるいは「公共」だ。英領時代から受け継ぎ、培ってきたものだ。アジア各国、各都市の影響を受け、最強の都市を目指すわけではなく、様々な影響下で中庸を目指すということだ。中国本土では、『公』より『私』を優先し、主張するが、香港では、公共を優先し、自然保護なども重視するので公共の精神がアイデンティティーとして培われている」


 ――鄭松泰議員は唯一の本土派議員と言われている。香港本土派とは、香港の伝統文化を最も大切にし、優先しようとする考えだ。香港独立は香港では否定されているが、どう見るか。台湾は独立派が台湾与党を支えている。台湾の独立は支持するか。


 「台湾を見れば、すでに独立した国家になっているので、今さら独立を宣言したり、独立を主張する必要はないと考える。香港の本土派としては、台湾と協力して中国と対峙するようなことは考えていない。香港、台湾が政治上も経済上も安定することを望む」

 

【鄭松泰】
1983年、香港生まれ。香港理工大学卒業後、北京大学留学。同大で社会学・哲学博士号を取得。香港理工大学応用社会学系の専任講師となり、本土派政党「熱血公民」主席で16年10月から香港立法会議員(新界西)。

 

 

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