同性婚容認の司法判断に反発 台湾
推進の黄国昌氏、罷免ならず
反対派と国民党が結束し住民投票
台湾の憲法裁判所に当たる司法院大法官会議が５月、同性婚を認めていない現行の民法は違憲とする憲法解釈を下し、２年以内の法改正を命じたことで蔡英文政権が目指すアジア初の同性婚容認の法制化が時間の問題となっている。法制化推進に積極的な与党・民進党と共闘する時代力量も積極的な推進派だが、党主席で次期新北市長選への出馬に意欲を示す黄国昌立法会議員に対して新北市内で同性婚反対派や野党・国民党系の支持者らが結束して罷免投票を実施し、投票率が低迷して罷免は免れたが罷免賛成が反対の二倍となり、根強い同性婚反対の動きを反映させている。（香港・深川耕治）
家庭崩壊阻止で与党股裂き状態
来年の地方選に暗雲も
少数政党「時代力量」党首である黄国昌氏は台湾大学法学部卒業後、米国留学し、台湾の中央研究院副研究員だった２０１４年、中台融和を推進する馬英九前政権が中国との「サービス貿易協定」を締結しようとの動きに対して撤回を求めて「ひまわり学生運動」に参加し、リーダーの一人として活躍。
２０１５年、人気バンド「ソニック」のボーカルだった林昶佐氏らと時代力量を結党し、中国大陸の脅威から守る台湾独立を視野に「天然独」と呼ばれる若年層を中心に熱狂的な支持を受け、昨年の立法院（国会・１１３議席）選挙では同党が予想以上に健闘して５議席を獲得し、与党・民進党（６８議席）、最大野党・国民党（３５議席）に次ぐ第三党となった。
蔡英文政権が誕生できる土壌となったのは、民進党が地方選挙で着実に票を伸ばして国民党の鉄票を切り崩し、基礎票固めだけでなく、無党派中間層の支持を集めるため、友党として新政党「時代力量」と選挙協力を行ったことが大きい。同性婚推進についても一貫して変わらないスタンスで「身分は（総統に）変わったが、私の信じる価値は変わらない」の立場の蔡英文総統と協調。同性婚に反対する李登輝元総統にも薫陶を受けているが、同性婚合法化については「信念を貫く」として民進党の急進派と手を組むほどだ。
台湾最大の人口を占める新北市を選挙地盤とする黄国昌立法委員は蔡英文政権樹立後、民進党との政策路線で齟齬（そご）があり、摩擦を生じ、時代力量の支持率は低迷し、以前ほどの若年層からの熱狂的な支持は冷めつつあるが、依然として個人的な人気は高い。来年末の地方選で新北市長選への出馬に意欲を示していると地元メディアは色めきだっていた。
この動きに楔（くさび）を打ち込みたいのが、前回の立法院選挙で敗北した野党・国民党の候補者やその支持者だ。さらには同性婚に猛反対する民進党の支持基盤であるキリスト教長老派や「同性婚は台湾の伝統的な家庭を崩壊させる」と主張する各団体も巻き込み、「安定力量」が結成され、黄国昌氏の立法委員としての罷免案を新北市の選挙区有権者に署名活動で集めて住民投票まで実現させた。
１２月１６日、黄国昌立法委員の罷免賛否を問う住民投票が新北市内の選挙区で行われ、賛成票（4万8693票）が反対票（2万1748票）を２倍以上に上回ったが、有権者数の4分の1（6万3888人）に届かず、不成立に終わった。悪天候で有権者の関心が低く、投票率27.75％だったことが大きい。これまで立法委員の罷免をめぐる住民投票は７回実施されているが、いずれも罷免には至っていない。
黄国昌氏は投票結果について「個人の努力が不足していることを謙虚に受け止めるが、理想に向かって希望ある努力を続けたい」と述べ、次期新北市長選への出馬には触れず、「罷免投票と市長選での投票は有権者の傾向がまったく違う」と述べた。
安定力量の孫継正主席は「天候不良がなく投票率が４割を超えていたら罷免できたはずだ」と話し、游信義秘書長も「住民を覚醒させ、永久に放棄しない」と述べ、次の一手を模索している。
さらに同性婚に反対する台湾守護家庭連盟の張守一秘書長は「黄国昌氏だけでなく、民意に背いて同性婚の合法化を強力推進しようとしている民進党の王定宇立法会議員、蕭美琴立法委員も罷免の住民投票まで行動することを排除しない。同性愛を許容する林佳龍台中市長も同様だ」と次のターゲットを絞り込もうとしている。
蔡英文政権は同性婚の合法化を選挙公約にし、昨年末にも実現が見込まれていた。
しかし、昨年11月に立法院で本格審議が始まると、宗教界や保守派から「同性愛は異常な性関係で受け入れられない」「父母のいる健全な家庭のあり方や社会秩序を崩壊させる」との反発が表面化。数万人規模の反対デモも行われ、審議停滞を招いたが、今後は約一年半以内というタイミリミットの中、法制化への作業が本格化することになる。
ただ、与党・民進党では一部の急進支持派と同性婚反対で家庭の価値を重視する支持基盤のキリスト教長老派が対立し、民進党は股裂き状態になりつつある。
立法院では、結婚に関する民法条文から男女の区別をなくすことで合法化を実現する民法改正と同性パートナーに結婚と同等の権利を保障する特別法策定の２案が検討されていて、同性婚反対派としては民法に手をつけず、特別法による法制化なら許容できるとの気運が高まっている。
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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに５月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員（国会議員）らが性的少数者（LGBT）による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。（香港・深川耕治）
同性婚を認めている国は２２カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は２９カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。
同性婚が認められる国・地域は以下の通り。
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド（デンマーク自治領）、エストニア、コロンビア、フィンランド（2017年より）
登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。
フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島（英王室属領）、ジャージー諸島（英王室属領）、ジブラルタル（英国領）、マルタ、エストニア
※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。
アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。
写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。
中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、２０１４年７月１日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは２０１６年のデモに参加することを取りやめた。