香港カトリック教区の陳日君枢機卿に聞く | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

香港カトリック教区の陳日君枢機卿に聞く
中国の宗教弾圧、改善せよ
天安門事件犠牲者は“殉教者”


香港カトリック教区の陳日君枢機卿(名誉司教)は単独インタビューに応じ、香港の一国二制度の問題点や中国内の宗教弾圧、バチカンと中国の国交正常化に向けた中国司教の任命権問題など信仰の自由と民主化について実情を訴え、天安門事件の犠牲者を“殉教者”として追悼すべきだと述べた。(聞き手・深川耕治、写真も=2015年6月30日インタビュー再録)

――中国政府が提案する香港行政長官の普通選挙改革案が6月18日、香港立法会(議会)で否決された。否決を支持する立場から、香港にとって今回の選挙改革案にどんな問題点があるのか。


民主派としては自分たちの尊厳を保つことができた。われわれは真の普通選挙が実現することを望んでいる。指名委員会で民主派候補の立候補を排除するニセの普通選挙は望まない。その点、反対し、否決されたことは良かった。


――現役の枢機卿時代、香港では7月1日の返還記念日にビクトリアパークで香港の民主化を願う集会を行い、香港のあるべき姿を伝えてこられた。今後、香港は中国の一党独裁に対して、どんな取り組みをすべきか。



中国最高指導者だった鄧小平氏が考え出した一国二制度は、中国政府が香港を統治するのには良い制度だった。とくに高度な自治と権利を与えたが、現在の選挙制度は真の普通選挙を実現するのではなく、毎回、法律を変えて中国共産党にとって都合の良い方向に修正しようとしてきた。たとえば2004年、07年、10年の時はそのような動きだった。その都度、ご都合主義を止めるよう声を上げてきた。


――中国の全国人民代表大会(全人代)は7月1日、台湾や香港に対しても国家主権や領土統一を守ることを義務付けた「中国国家安全法」を採択し、施行された。同法は「中国の主権と領土保全に対する侵犯は決して許さない」とし、国家主権と領土を守ることは「香港、マカオ、台湾の同胞を含む全ての中国国民の共通義務だ」と規定している。現時点で同法が香港で適応されるわけではないと説明し、実際の適応には香港基本法(ミニ憲法)第23条(国家安全条例の制定)を使って新たな立法措置が必要になる。梁振英行政長官は「関連法案を提出する計画は当面ない」としているが、言論や政治活動の自由が制限される恐れはあるのか。


1点だけ言っておきたいのは、香港基本法23条に反対する立場ではなく、手続きの方法に反対しているだけだ。基本法は完全ではないので、改善すべき部分はたくさんある。中央政府が強硬に中国の国益優先で変更しようとしていることに反対し、不満を持っている。香港の現実を直視すると、差し迫って基本法第23条は必要があるのか。緊急性はない。香港が中国本土を転覆させるようなことはありえない。しかも非民主的な手法で基本法第23条を使って国家安全条例を策定する手法には断固反対だ。


――バチカンと中国政府との国交正常化に向けて香港教区は関与しない意向を示しているが、中国政府が官製聖職者組織「愛国協会」を通してバチカンの指示と違う司教を任命し、管轄し続ける動きは、今後の中国国内のカトリック信者にとってどんな障害をもたらすか。


中国政府は香港に対し、宗教については特に弾圧したりしていないが、(香港で多くの小中高校を運営するカトリック教会にとって)学校建設については管理運営の内容精査を厳しくしている。中国大陸では地下組織は認めていないし、表面で現れている教会活動は信仰に基づく真の自主権がない。唯一、残念なことは中国本土での宗教弾圧の現状をバチカンに正確に伝えて説明しても理解してもらえず、楽観視し過ぎている点だ。中国では宗教の自由は得られておらず、真の自由には程遠い。


――中国大陸の司教は最初のキリスト教殉教者である聖ステファノのような勇気をもって教会の教義をとるべきだとの立場だが、中国大陸の司教が行うべき牧職行為とは何か。



カトリック教会の規則があるので、地下教会は真っ向から中国政府の司教の任命権について反対している。しかし、表向き、中国の愛国教会から指名される司教は銃や刃物で脅されれば仕方なく従うしかない現状がある。そういう一部の人は受任し、譲歩して受け入れたか、心の中では拒絶しながら受け入れたか、現状のままで良いと妥協する人もいる。いろいろな状況がある。



カトリック側としては迫害され、仕方なく宗教上、認めた場合は黙認するしかない。中国政府のやり方に内外ともに受け入れて良いという場合はバチカンとの関係が絶たれることを意味する。それは断固として妥協できない。つまり、一番目は本当の信仰の自由を得るためには中国政府の任命した司教を受け入れない厳格なバチカンの立場がある。二番目は譲歩して面従腹背で表向きだけ受け入れる立場。三番目は表向きだけでなく心から中国政府の司教任命を受け入れる立場。四番目は三番目の立場に立つ人たちに罰を与える立場だ。


――1989年6月4日の天安門事件をどう評価するか。中国政府の主張する動乱を鎮圧する行為だったのか。犠牲者を追悼し、事件の再評価を求める香港での動きは進展するのか。


宗教上の殉教者は信仰のために命を犠牲にすることだが、一般的に社会の理想のために自らの命の犠牲にすることも殉教者だと思う。天安門事件の場合、学生たちが中国の民主化のために運動を行い、人民解放軍によって数多くの貴い命が虐殺され、迫害された。迫害された彼らのために支援しなければならない。まずは中国政府が天安門事件で行った武力弾圧の非をを認めてなければならない。謝罪するまで何度も何回も闘い続ける。事件で迫害を受けた中には海外に亡命した人もいるし、投獄されて長期間、自由を奪われた人もいる。親、兄弟、親族まで監視され続けて不自由な生活を送るケースもある。中国政府が正式に謝罪を認めなければ、再び天安門事件のような武力弾圧が起きる可能性があることになり、安心できない。再び天安門事件のような政府による弾圧を行わないということを保証、約束してほしい。そのために徹頭徹尾、活動を続けている。


――故郷である上海に戻ったり、台湾を訪問しているが、今後の中国と台湾の関係はどうあるべきだと思うか。


台湾は民主制度が導入されて定着しているが、中国大陸では民主制度はまったくない。台湾が民主制度を捨てて中国に統一されることは避けるべきだ。民主制度は存在しないよりは存在した方がはるかに良い。中国は香港で導入された一国二制度を台湾に取り入れようとし、中国側は経済、貿易を中心に中台(両岸)関係をさらに円滑にしようとしているが、昨春の台湾のひまわり学生運動のように海峡両岸サービス貿易協定の早期発効を願う中国に対してNOを突きつけた。つまり、経済協定で民主制度を犠牲にしたくない明確な意志を示した。香港の一国二制度もそれほどうまくいっていない。台湾も香港の一国二制度の状況を見ているので、一国二制度は暫時的な制度に過ぎないと言えるだろう。台湾は香港の現状を見れば、こんな一国二制度を簡単には受け入れることはないはずだ。


――キリスト教に限らず、宗教者の中国国内での迫害、弾圧はいまだに厳しいものがある。キリスト教ではプロテスタント、カトリックに関わらず、地下活動で厳しい取り締まりを受け、気功集団の法輪功は邪教として弾圧されている。中国内での宗教者の政治迫害についてどう見るか。


中国政府は宗教をコントロールしようとしている。憲法では信仰の自由を保障しているし、宗教を認めている。とくに仏教に対しては政府が支援していて関係が良好だ。香港政府も、ある仏教の集まりに対しては大きくサポートしている。なぜ、中国政府はカトリックをコントロールしようとしているかを見ると、カトリックはリーダーがバチカン法王庁の法王一人だけで、仏教のように各宗派によってリーダーが至る所に分散しているわけではない。政治と宗教は別なので本来は、良い国民でありながら良い信徒にもなれる。バチカンでは良い国民は良い信徒になることができている。


――昨秋、オキュパイ・セントラル(香港金融街の中環を占拠する)運動が大学の教員や牧師を中心として始まり、さらに学生組織が取って代わって雨傘革命運動を展開した。79日間の持久戦で結局、強制排除され、その後、香港大学生連合会(学連)のような学生組織は分裂し、弱体化しているように見える。今後、香港の若者たちはどのような方向へ動くべきか。

青年たちが自分たちの将来や利益を捨てて香港の自由、民主化に向けて闘っていることに感心している。海外メディアでも大きく報じられ、香港の若者が香港の自治、民主化のために立ち上がったことを高く評価しているが、青年たちは自分たち単独では何もできない。当初、学生たちはオキュパイ・セントラル運動を指導した3人(戴耀廷香港大学副教授、陳健民香港中文大学副教授、朱耀明牧師)の指導を受けて一緒に行動していたが、その後、だんだんと学生たちが先に立って話を聞かなくなった。デモの手法についても経験不足でどうすれば効果的に行えるか、指導を受ける方法がなく方向性を見失った。良かった点はオキュパイ・セントラル運動で平和と愛を強調していたので、小競り合いはあっても大きな暴力行為は発生しなかった点だ。若者が何度も討論して経験のある教授陣のアドバイスを受けながら、戦略的に次に何をするかを熟慮し、行動していかなければならない。普通選挙の改正案が否決され、2017年までに何か新しい活動方法を考えて展開していけば良い。オキュパイ・セントラル運動を指導した3人や学生組織が連携して新しい同盟を作ってこれからを準備していかなければならない。


【陳日君】


1932年1月、上海生まれ。上海のサレジオ会修道院に入り、国共内戦の避難のため香港に移動後、トリノのサレジオ大学卒業後、61年、司祭に叙階。マカオサレジオ中学校長、香港仔工業高校院長を経て96年、香港カトリック教区司教、06年には教皇ベネディクト16世から枢機卿に任命される。09年に香港教区司教を退任し、名誉司教となる。04年、上海を訪問し、13年1月、台湾を訪問。今年7月1日の民主化デモにも参加している。


【取材メモ】


人口700万人の香港でキリスト教信徒は約13%でカトリック信徒はカトリック系の学校に通う生徒も含めて約40万人。曾蔭権(ドナルド・ツァン)元行政長官や李柱銘(マーチン・リー)民主党元主席、唐英年(ヘンリー・タン)前政務官らはカトリック信徒で香港政治にもカトリックは大きな影響を与えている。中国内では政府が認めるカトリック愛国会の信徒数が500万人、プロテスタント系が1800万人で、バチカンの影響下にあるカトリック教会は非合法組織として地下活動するしかない。陳日君枢機卿が海外メディアの取材を受けることは極めて少ない。過去18年、陳枢機卿の動向を取材し続けてきたが、香港カトリック教区司教時代、03年7月1日の民主化デモスタート直前のカトリック祈祷会では民主化を強く訴えかけ、中国共産党の一党独裁による宗教弾圧を批判し、党派を超えて民主化の連携を続けている。毎年、老齢ながらも猛暑の中、7月1日のデモに必ず参加し、若者たちと共に心身ともの汗を流している姿は深い印象を残している。



香港カトリック教区名誉司教の陳日君枢機卿 【中華の「顔」】

香港立法会、補選スタート 剥奪議員の雪辱、選管の判断次第

同性婚容認の司法判断に反発 台湾

政治弾圧に反対デモ 「雨傘運動」の主導者ら2000人 香港

中国国歌へ止まぬブーイング 香港 中港矛盾で世論二分も


経済協力28兆円、米中首脳が北朝鮮問題で協調演出  

京劇観覧中にウトウト 中国夢にうなされるトランプ米大統領

習氏一強、見えぬ後継で基盤着々 中国指導部

頼行政院長の実務能力次第 台湾の蔡政権浮揚

革命英雄礼賛で愛国鼓舞 中国教科書


ポスト「一国二制度」問う動き 香港

返還50年後の色は赤と黒 香港青少年座談会

空母「遼寧」、時間差で香港へ 連載 「一国二制度」の前途(下)

民主化進まず格差拡大、独立論の背景に 連載「一国二制度」の前途(中)

中国から移民増、狭さに悲鳴 香港・中国返還20年(上)

民主化デモは大幅減少 香港返還20周年

習近平国家主席の香港での一挙手一投足 香港返還20周年  

香港自決派、台湾与党と連携強化へ 香港返還20周年で危機感

陣痛期の1年、大なた振るえず 台湾・蔡英文政権   


急成長する新型レンタサイクル業界 中国 ofo、摩拝単車に他社急追

台湾の同性婚合法化、ヤマ場に 賛否二分で着地点見出せず

親中派の林鄭月娥氏が当選 香港行政長官選

中国「本命」の林鄭氏優位に 香港行政長官選

旺角暴動の3被告、有罪に 香港区域法院(地裁)

林鄭月娥氏の優位変わらず 支持率は低迷 香港行政長官選挙

中国返還20周年で汚職「赤信号」 前行政長官に禁固1年8月 香港

香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察

有力候補一本化できず激戦に 香港行政長官選


台湾の同性婚合法化、ヤマ場に 賛否二分で着地点見出せず

親中派の林鄭月娥氏が当選 香港行政長官選

中国「本命」の林鄭氏優位に 香港行政長官選


旺角暴動の3被告、有罪に 香港区域法院(地裁)

林鄭月娥氏の優位変わらず 支持率は低迷 香港行政長官選挙

中国返還20周年で汚職「赤信号」 前行政長官に禁固1年8月 香港

香港在住の中国富豪、本土連行か 中国警察  

有力候補一本化できず激戦に 香港行政長官選挙



【中華の顔】


陳水扁氏と12年ぶりに再会、95歳になった台湾の李登輝元総統

香港の全人代代表選を祝う中国の王震全人代副委員長


ASEANとFTAを締結した香港の立役者、香港中華総商会の蔡冠深会長


上海市トップになった習派の李強氏 【中華の「顔」】  

去就が注目される中国の王岐山・党中央規律検査委書記【中華の「顔」】  


台湾の行政院長に就任した頼清徳台南市長【中華の「顔」】  


鳥取の星空をPRする香港人写真家ウィル・チョーさん 【中華の「顔」】

香港メディア大手ネクストメディアの黎智英(ジミー・ライ)元会長【中華の「顔」】  


習政権擁護を強調する江沢民氏の妹、江沢慧氏【中華の「顔」】


台湾の国民党主席選挙で先行する呉敦義前副総統【中華の「顔」】

朝鮮半島問題で中国の立場を説明する王毅中国外相【中華の「顔」】

女性初の香港行政長官に就任する林鄭月娥氏【中華の「顔」】   

政協副主席への就任濃厚な香港の梁振英行政長官【中華の「顔」】  

汚職スキャンダルがヤマ場を迎える香港の曽蔭権前行政長官【中華の「顔」】


香港行政長官選で財界支持を広げる曽俊華氏 【中華の「顔」】  


香港行政長官選へ出馬間近の林鄭月娥政務官 【中華の「顔」】  


議会での宣誓問題で議員活動ができない游蕙禎香港立法会議員【中華の顔】  


中国を支那と表現した梁頌恒香港立法会議員 【中華の「顔」】


香港立法会選でトップ当選、脅迫受ける朱凱廸氏 【中華の「顔」】  


香港独立は市場経済では不可能と語る曽俊華香港財政官  


香港立法会選挙で脅迫を受ける何麗嫦・選挙管理委員会主任  

映画「十年」の蔡廉明プロデューサー  


梁振英行政長官が再選不出馬を表明 香港  


民主派議員4人の資格取消申し立て 香港政府  

独立の動き、早期封じ込め 香港

本土派2議員の資格喪失で圧力 香港政府  


習近平国家主席が香港行政長官と会談 再選支持表明なし  

香港高裁も2議員資格「剥奪」判決 両議員は控訴準備へ

議員資格剥奪問題で揺れる香港 一国二制度の矛盾噴出

危うい反米親中路線へ転換 中比首脳会談

中国式慈善、疑惑が権力闘争にも 愛国慈善家・陳光標氏が窮地  



【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】

劉慧卿民主党主席(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第1回

大気汚染改善を自賛する陳吉寧中国環境保護相 【中華の「顔」】

劉慧卿民主党主席(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第2回


秋北全国人民大会代表(上) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第3回


呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  


新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回


親中派団体「愛港之声」代表の高達斌氏 香港「自治」の行方 連載第6回


梁家傑公民党名誉主席(上) 香港「自治」の行方 連載第7回

梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回


香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回