「香港の良心」陳方安生氏に聞く 指導力改め、真の一国二制度堅持を | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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「香港の良心」陳方安生氏に聞く
中国の押しつけに危機感爆発
指導力改め、真の一国二制度堅持を


1997年の中国返還直後の香港政府ナンバー2で内外から「香港の良心」と評される陳方安生(アンソン・チャン)元政務官(79)が6月29日、単独インタビューに応じ、「一連の混乱収拾のためには逃亡犯条例の改正案の完全撤回と責任者である司法行政を統括する鄭若●(馬ヘンに華)司法官(序列4位)の辞任、デモ拘束者の特赦、独立委員会の設立による解決が急務」と述べ、香港トップの林鄭月娥行政長官には「指導力を改め、真の一国二制度を堅持せよ」と批判した。(香港・深川耕治、写真も)

 

▲単独インタビューに答える陳方安生(アンソン・チャン)元香港政務官

 

7月1日、香港は中国返還22周年を迎え、大規模デモで激震が走っている。

 

1997年から2001年まで香港返還後のナンバー2である初代政務官を務めた陳方氏は「香港の自由、公平、正義という核心的価値を守る」との信念のもと、中国当局には歯に衣着せない発言を繰り返し、「鉄娘子(鉄の意志を持つ女性)」として香港市民からの幅広い支持を得ている。退任後は民主派支持を打ち出し、06年から民主化デモに参加。立法会補欠選挙に立候補し、当選。政党「香港2020」を結党している。


陳方氏は英国領統治時代から有能な女性官僚として知られ、返還後も女性初の政務官として親中化する董建華初代行政長官(当時)の元でも公正中立の立場を崩さなかった。香港政府の透明性と説明責任、民主主義、香港が採用する「一国二制度」の概念に込められた権利と自由の保障を重んじる姿勢で知られ、若年層に一国二制度の基本的権利と自由を守り抜く啓蒙活動を展開している。

 

▲単独インタビューに答える陳方安生(アンソン・チャン)元香港政務官

 

 

陳方氏との一問一答は以下の通り。


――6月9日に100万人、16日には200万人、2週にわたって香港で最大規模のデモが起こった理由と背景は何か。


「香港では公平、公開の司法審判が行われているが、中国では一党独裁で非公開の場合も多く、公正な審判ではない。香港の逃亡犯を中国に引き渡すようになれば、深刻な危機。とくに法曹界を中心に不公平感を訴える声が強まり、香港人に渦巻く怒り、不安から起きた。英紙フィナンシャル・タイムズの編集者が入境を拒否されたり、香港市民の政治参加の権利が奪われ、一国二制度が一国一・五制度、さらには一国一制度になっていくのではないかとの強い危機感がある。中国政府から押しつけられた条例に対して多くの沈黙してきた多くの香港市民が我慢に我慢を重ね、一機に爆発した」


――逃亡犯条例の改正は事実上、廃案だが、林鄭月娥行政長官は撤回や辞任は言及せず、多くの香港市民は完全撤回や辞任を求めている。香港政府はどう対応すべきか。


「逃亡犯条例案に関する行政長官へのアドバイス役は司法行政を統括する鄭若驊司法官(序列4位)だ。香港トップの行政長官に間違った判断を与えた重大な責任を取って辞任すべきだ。林鄭行政長官が辞任すれば、次の行政長官がさらに中国政府寄りになることが心配だ。林鄭氏を辞任させるよりも、今回のデモで発生した問題を独立委員会による調査結果を待ち、その教訓を生かして将来、再び同じ過ちを繰り返さないようにすべきだ。香港市民に銃口を向けた警察への不信は根深い。従来の警察監察会の報告だけでは限界があり、警察、抗議者の双方から判断する香港政府の力量が試される」

 

▲2006年7月1日、香港の民主化要求デモに参加する陳方安生氏=深川耕治撮影

 

▲2006年7月1日、香港の民主化要求デモに参加する陳方安生氏=深川耕治撮影

 

――2007年の行政長官選挙で候補に挙がりながら断念され、多くの香港市民が悔しい思いをした。このころから中国政府の干渉が強まり、本来の一国二制度から大きく外れて行く。行政長官選挙、立法会選挙の完全普通選挙を実現するには、今後、どのような活動が必要か。


「今回のデモの経験を生かし、2007年、2008年に中国政府が認めたはずの行政長官選挙、立法会選挙はできるだけ早期に一人一票で投票できるように変えていくべきだ。時間表を明確化しなければならない。間接選挙で選ばれる行政長官は香港市民の支持が反映されず、立法会も中国政府の傀儡のようになってしまっている」


――逃亡犯条例の改正案だけでなく、国歌法の条例案など、中国政府にとって都合の良い条例案ばかりが立法会で検討されている。11月の区議会選挙、来秋の立法会選挙で有権者はどのレベルまで行けば、今回の大規模デモの声を反映できるか。


「政治に無関心だった若年層も今回のデモで政治参加意識が高まり、区議会選は7月2日締め切りの有権者登記をするはずだ。これまで立法会は親中派に牛耳られ、北京の傀儡のようになっていたが、今回の大規模デモを通して賢い有権者にとっては民主派に支持が高まるだろう」

 

▲単独インタビューに答える陳方安生(アンソン・チャン)元香港政務官


――G20大阪サミットが開かれ、主催国である安倍首相は習近平中国国家主席との会談で「自由で開かれた香港の繁栄」「自由、人権尊重、法の支配という普遍的価値の重要性」を指摘した。現在の香港の「港人治港」、「一国二制度」について、国際社会に伝えたいことは何か。


「香港は国際都市であり、中国の中でも独立した自由、公正、正義を保つ一国二制度が中国に良い影響を及ぼす存在でありたい」


――3月にペンス米国副大統領と会談した際、今回の逃亡犯条例案の改正について、どのような反応だったか。


「2014年にも米国のバイデン副大統領と会談したが、ペンス副大統領と会った時は米国の反応が180度変わった。ビジネス最優先だったオバマ政権から中国に不信感が強いトランプ政権になり、中国の留学生がスパイだとの見方も強まっている。香港に対しても一国二制度が維持されなければ特別優遇を与え続けられないと見ている。香港の人権、自由が保たれているかどうかは米国の国会も注視している」

 


――今日の香港は明日の台湾と言われている。台湾の蔡英文政権は、香港の一国二制度の状況を見て、受け入れないという立場だが、どう見るか。


「2014年、中国政府は一国二制度白書を出し、香港の誇る三権分立を消し去ろうとしている。香港の一国二制度がうまくいっていないので台湾は必ず拒絶する」


――香港の若者が希望を持てる未来となるように香港政府が果たす役割は何か。


「生活スタイルや人権、自由、多元化など若年層の意見を聞くべきだ。100万人、200万人のデモを行った人たちは香港をわが家だと思っている。2047年には香港が中国に良い影響を与え、中国自体が香港のように変わっていける都市になれるよう希望を持たせたい」

 

▲単独インタビューに答える陳方安生(アンソン・チャン)元香港政務官

 

▲2006年7月1日、香港の民主化要求デモに参加する陳方安生氏=深川耕治撮影

 

【陳方安生(アンソン・チャン)】

本名は方安生。1940年1月、上海生まれ。1948年、香港へ家族で移民し、香港大学卒業後、英領時代の香港政府へ入庁。1997年、香港返還後のナンバー2である初代政務官に就任。01年に早期退職し、06年から7月1日の民主化デモに参加。07年、香港立法会補欠選挙(香港島区)に出馬し、親中派の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)元保安局長を破り、当選。13年、香港で普通選挙を実現するために「香港2020」を発足。14年、米国のバイデン副大統領と会談。今年3月、米国のペンス副大統領と会談。陳棣榮氏と結婚し、一男一女。

 

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